表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
アナザーワールド
30/286

クエストクリア


 ゴールデンウィークの期間中、秋斗は全部で二十三回地下墳墓を攻略した。なかなかのヘビーローテーションと言っていい。これができたのは、ひとえに魔石を用いた聖属性攻撃魔法のおかげだ。ザコモンスターの処理はもちろん、ブラックスケルトンやリッチを完封するなど、これがなければできなかったに違いない。


 全二十三回の攻略の中で、秋斗は多数の宝箱を回収している。ただしその全てが役に立つモノというわけではなかった。赤ポーションのストックが十個を超えたのはありがたい。替えのブーツを手に入れられたのも嬉しかった。


 現金もありがたいのだが、ユーロとかもらっても使い道がないのだ。いや、ユーロは両替すれば使えるからまだいい。チタンのインゴット1kgとか、本当に使い道がない。まあ、シキが興味を示していたので、そのうち加工するのかもしれないが。


 そのための準備は、着々と進んでいる。全二十三回の攻略で、秋斗は毎回隠し通路も攻略していた。ガーゴイルが守っている宝箱から手に入るのはいつも生産関連の物品で、シキはそれをいつも嬉しそうに回収していた。ただ、今すぐに生産を行える状態ではないらしい。


[設備が足りない。資材が足りない。道具が足りない。素材が足りない。レシピがなければ知識もない。ないない尽くしだな]とシキは言っていた。ただその声は楽しげだったので、「好きにやればいいんじゃないかな」と秋斗は思っている。


 地下墳墓を二十三回攻略したということは、二十三回ボス戦を行ったということでもある。そしてボスは毎回、五体のブラックスケルトンを取り巻きとして侍らせていた。これらのブラックスケルトンは一度も宝箱をドロップしなかったが、それぞれが違う武器を持っていて、毎回その内の一つか二つをドロップした。おかげで秋斗の装備はずいぶんと充実した。


 盾、片手剣、大剣、短剣、槍、ハルバート、モーニングスター、メイス、弓、斧、鎖鎌、六角棒、大盾、サーベルなどなど。正直、使うアテのない武器も多い。モーニングスターなど、自分の頭をかち割りそうだ。ただそれでも、ともかく全て回収してある。その内なにか使い道もあるだろう。


 ボスは23回全てでリッチだった。個体差があったかどうかは、実のところ良く分からない。まともに戦ったのは最初の一回だけで、その後は回収したリッチの魔石などを使い、一方的にたたみかけて終わらせるようにしていた。むしろそうでなければ、二十三回も攻略することなどできなかっただろう。


 リッチは常に、魔石と宝箱(銀)をドロップした。もっとも、最初に手に入れたエリクサーに並ぶようなものは出ていない。あれは初回攻略特典だったのだろう、と秋斗とシキは思っている。


 とはいえそこは宝箱(銀)。さすがにレアリティの高そうに思えるモノを手に入れることができた。例えば秘薬。服用することで経験値を得られるこのアイテムが、二十三回中五回出た。得られた経験値の合計はスライム1068匹分。秘薬を服用したときの、身体がカッと熱くなって全身に血が巡るようなあの感覚は、ちょっとやみつきになりそうだった。


 他にも、「白紙の魔道書」というアイテムがある。鑑定してみるとこのアイテムの能力は、「この魔道書を開いた状態で魔法を使用することで、その魔法を魔道書に書き込むことができる。書き込まれた魔法は以後、魔道書に魔力を込めることで使用できる」というものだった。


 白紙の魔道書をどう使うか。実は秋斗とシキの間で意見が食い違った。シキは「今後の事を考え、汎用性の高い魔法にするべきだ」と言い、一方で秋斗は「聖属性攻撃魔法を書き込む」と言った。


 秋斗もシキが言いたいことは分かる。聖属性攻撃魔法は対アンデッド用の魔法で、今のところ地下墳墓以外では使い道がない。アナザーワールドの探索の事を考えれば、汎用性の高い魔法の方が有用だろう。


 しかしそれでも秋斗は自分の意見を通した。その理由は「地下墳墓をクリアする回数を増やすため」だ。「地下墳墓をクリアした回数でクエストの評価が変わる」というのは、今のところまだ推測である。だがリッチを倒せば宝箱(銀)が手に入るのは確実なのだ。そして彼の狙いは主にそっちだった。


 実際、白紙の魔道書に聖属性攻撃魔法を書き込んだことで、地下墳墓攻略の難易度はさらに下がった。この魔道書がなければ、二十三回クリアのヘビーローテーションは不可能だったろう。そしてそうやって手に入れた戦利品は、今後の探索にも役立つに違いない。


 例えば、前述の秘薬はもちろんのこととして、「安眠アイマスク」というアイテムがある。鑑定結果は「寝付きがよくなり、また一時間で三時間分の睡眠効果を得る。ただし日が出ている間のみ有効」というもの。これを使えば、リアルワールドで取る仮眠時間を短くすることができる。つまり一日あたりの探索回数を増やせるのだ。


 また「自動修復能力」の付いた上下の探索服や、「環境対応能力」の付いたミリタリーコートなども手に入れることができた。「足腰の負担を減らす」ベルトもあり、今後の探索はきっとはかどるに違いない。ただ、なぜか武器は宝箱(銀)からは手に入らなかった。恐らく「武器はブラックスケルトンから手に入れろ」ということなのだろう。


 ただその一方で、やはり微妙なアイテムもあった。その一つが「収納袋」だ。いわゆる四次○ポケット的なアイテムなのだが、秋斗にはすでにストレージがある。貴重なアイテムであることは確かなのだが、どうにもいまさら感が拭えなかった。とはいえ、まったく無駄というわけでもない。


[コレがあれば、ストレージの拡張に使うはずだった経験値を別のことに使える]


「ああ、なるほど」


 つまり経験値の有効利用である。秋斗は大きく頷いて納得した。他には、「金塊5kg」というのもあったが、未成年である彼がこれを換金するのはなかなかハードルが高い。しばらくはストレージの肥やしになりそうだった。


 他にも秋斗が手に入れたアイテムはあるが、それについては割愛する。ともかく彼はゴールデンウィークの期間中、ひたすら地下墳墓を攻略し続けた。そしてゴールデンウィーク明け、学校から帰ってくると彼は早速アナザーワールドへダイブインする。向かったのは地下墳墓の入り口があった場所で、しかしそこにはもう何もなくなっていた。


 それを見て秋斗は「えっ?」という顔をする。地下墳墓の入り口がなくなっているのは別に良い。クエストの期間が終われば消えてなくなるのだろうと思っていたからだ。だがその一方で、彼は「何かしらあるのだろう」とも思っていた。


 なぜなら前述した通り、彼は「地下墳墓をクリアした回数でクエストの評価が変わる」と考えていたからだ。評価した上で、何かしらのクリア報酬をもらえるものと思っていたのだ。そしてそのための装置的な何かが、地下墳墓の入り口の代わりに設置されているのではないかと思っていたのである。


 だが、それらしきモノはどこにも見当たらない。まさか自分の推測はまったく的外れだったのだろうか。秋斗が険しい顔をしてそんなことを考えていると、シキの声が彼の頭の中に響いてこう言った。


[山の上にあった、あの石碑はどうなのだ?]


「それだ!」


 パッと顔を輝かせ、秋斗はそう叫んだ。そしてクエストの発端となった石碑のある、小高い山の方へ向かって走り出した。道中のモンスターはできる限りスルーする。宝箱(銀)から手に入れた、気配を薄くしてくれるポンチョを装備していたこともあり、目が合ってしまったモンスター以外は避けて通ることができた。


 山裾にたどり着き、だんだんと傾斜がつき始めても、秋斗は足取り軽く進んでいく。これは宝箱(銀)から手に入れたベルトの効果なのか、それとも地下墳墓で荒稼ぎした経験値によってステータスが上がったからなのか。たぶん両方なのだろう。彼はそう思いながら山頂を目指した。


 山頂には変わらず石碑が立っていた。秋斗はゴクリと唾を飲み込んでから、そっとその石碑に触れる。すると【クエストクリア!】の文字が彼の頭の中で躍った。そして彼の目の前で光が回転し、その中から金色に輝く、ルービックキューブのような立方体が現われて彼の手のひらのなかに収まった。


 さしずめ、宝箱(金)だろうか。秋斗は肩をふるわせ、それから「よっしゃ~!」と叫んで喜びを爆発させる。今すぐに開けたい衝動にかられるが、「罠付きかもしれないぞ」とシキに指摘され、彼はそれをグッと堪えた。


 となれば次に向かうのは【鑑定の石版】のところ。秋斗は文字通り山を駆け下りた。そして息を切らしながらも、期待に胸を膨らませて金色の立方体を鑑定する。結果は次の通りだった。


 名称:宝箱(金)

 宝箱。罠はない。


 手抜きも甚だしい使い回しだが、そんなことも秋斗は気にならなかった。罠はないと確定したのだ。彼はさっそく宝箱(金)を開けた。そして手に入れたアイテムを鑑定する。


 名称:幸運のペンデュラム

 使用後1時間、まだ観測されていない未来を使用者にとって都合の良い方向へ改変する。24時間に1回、使用できる。


[面白いな、これは。観測されていない未来なら書き換えられる、ということか]


 鑑定結果を受け、興味深げなシキの声が響く。ただ言い回しが面倒くさくて、秋斗としてはいまいちピンとこない。そんな彼に、シキはこう説明した。


[要するに、アキの運が良くなるということだ]


「それはいいけど。でも、一日に一時間だけなんだろ?」


[宝箱を開ける直前に使えばいい。きっと良いモノが手に入る]


「おお、なるほど」


 具体的な使い方をシキに教えもらい、秋斗はようやく幸運のペンデュラムの価値に気がついた。今後のことを考えれば、これ以上のモノはないと言っていいだろう。地下墳墓攻略のヘビーローテーションを頑張った甲斐があったというものである。


 いや、それがどう評価に結びついたのかは明示されていないわけだが。それでも秋斗はこの結果にとても満足している。幸運のペンデュラムはゴールデンウィーク中の苦労に見合うものだ。そしてこれからの探索が楽しみになるアイテムでもある。


「じゃ、コイツの効果を確かめるためにも、狙いは白箱で」


[狙い通りに出てくれるかは別問題だがな]


 シキとそんなことを話しながら、秋斗はアナザーワールドの探索を再開する。この世界にはまだまだ未知が溢れていて、それはつまり「観測されていない未来」というやつだ。幸運のペンデュラムを手に入れたことは、その未来に幸多かれと言祝いでいるかのようだった。


〜 第一章 完 〜

アンデットの皆さん「ようやく安らかに眠れるぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ楽しかったです! アンデットのみなさんもお疲れ様でしたw
[一言] 一章まで読んだけどめちゃくちゃ面白かった!
[一言] 宝くじとかを買う前に幸運チェックでお金稼げそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ