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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
アナザーワールド
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ゴールデンウィーク二日目1


 ゴールデンウィーク二日目。秋斗がアナザーワールドにダイブインしたのは、リアルワールドで午前九時過ぎのことだった。睡眠は十分に取った。気力も十分。彼は「よしっ」と気合いを入れてから地下墳墓に足を踏み入れた。


 まず目指すのは地下二階のセーフティーエリア。秋斗はそこまであえて接近戦を主体にして進んだ。もちろんホーリーエンチャントをかけてのことだが、ある意味で無用のリスクを取ったとも言える。ただこれは地下五階の攻略を視野に入れた、いわば予行練習だった。


 一時間ほどかけてセーフティーエリアに到着すると、秋斗はもう汗まみれになっていた。ストレージからタオルを取り出して汗を拭う。水を飲み、体力の消耗が激しかったので、長めに休憩する。ただ、彼の表情は明るい。


「何とかなりそうな気がしてきたな」


[うむ。アキの動きもこなれてきた]


 秋斗とシキはそう言葉を交わす。彼らが見据えているのは、言うまでもなく地下五階の攻略だ。ホーリーエンチャントは十分に有効なカードだ。そして昨夜の特訓も含め、これまでにその扱いにも慣れた。秋斗は地下五階の攻略に自信を深めていた。


 さて休憩を終えると、秋斗はセーフティーエリアを出て探索を再開した。ここから先はこれまで通り聖属性攻撃魔法を主体にして進む。ホーリーエンチャントはあくまで防御に主眼を置いたカードであり、メインの攻撃方法はあくまでコチラなのだ。


 地下三階をプロテクションで固めて突破する。昨夜の特訓はプロテクションにも応用が利き、秋斗はほとんどダメージを受けずに済んだ。地下四階へ降りたときには流石に緊張したが、ブラックスケルトンは現われなかった。アレはいわゆる中ボス的なモンスターだったのかも知れない。


 ブラックスケルトンと戦った大部屋で、秋斗は呼吸を整えた。それから装備を確認する。左手に盾を持ち、一緒に魔石を握る。そして右手には剣を握った。盾も剣も、古びていて装備としては心許ない。だが手持ちの中では、これ以上のものはない。


 それにどの道、秋斗が本当に頼りにしているのは、これら古びた装備品ではない。彼が頼りにしているは聖属性攻撃魔法であり、ホーリーエンチャントであり、そしてなによりシキのサポートだ。それを考えれば、多少装備が心許なくても、先へ進むのを躊躇う理由にはならなかった。


「よし、行こう」


 そう呟いてから、秋斗は地下五階へ降りていく。そんな彼にシキがホーリーエンチャントをかけた。


 地下五階へ降りると、やはり空気が少し重く感じる。秋斗が警戒しながら進むと、すぐにモンスターの一団が現われた。彼が腰を落として待ち構えると、昨日と同じくまずはゴーストが突出してくる。そのゴーストに、彼はシールドバッシュを喰らわせた。


「ギャァ!?」


 盾に阻まれ、ゴーストが悲鳴を上げる。ゴーストを叩いた手応えは、何だか妙な感じだった。まるで風船を叩いたような、いや風船よりは重く感じる。ただ中身のある何かを叩いているような感じではなかった。


 その手応えに首をひねるより前に、秋斗は右手の剣を振るってゴーストを切り裂く。物理攻撃が効かないはずのゴーストは、しかし真っ二つに両断され、白い火の玉になって消えた。残された魔石が、床に落ちてカツンと音を立てた。


「これがホントのポルターガイスト」


[バカなことを言ってないで、後続が来るぞ]


 シキに「あいよ」と答え、秋斗は魔石に思念を込める。そして敵を引きつけてから、聖属性攻撃魔法を発動させた。たちまちグールもスケルトンも白い炎に包まれる。やがて燃え尽き、後には魔石だけが残った。


「よしっ」


 完勝である。秋斗は思わずガッツポーズをした。無駄口を叩く余裕さえあったのだ。昨日、這々の体になって逃げ帰ったのと同じ階層とは思えない。それほど、ホーリーエンチャントは上手く機能していた。


 問題があるとすれば、両手が塞がっているために、次の魔石を取り出しにくいことくらいか。それも落ち着いてやれば問題はない。秋斗は次のモンスターの集団が来る前に、十分余裕を持って次の魔石を握った。


 その後、秋斗は順調に地下五階の攻略を進めた。これまでに比べると速度はゆっくりだったが、その分だけ慎重に進めていて、大きなダメージは回避できている。特にゴーストは今のところ完封できていて、本当に昨日の苦戦が嘘のようだった。


[ゴースト、二。先に焼き払え]


「あいよ!」


 秋斗はシキに機嫌良くそう答え、寄ってくる二体のゴーストを聖属性攻撃魔法で焼き払った。その後ろからはグールとスケルトンの一団が迫ってくる。秋斗は素早く右手の剣を手放すと、ポケットから魔石を取り出してもう一度聖属性攻撃魔法を発動した。


 これは秋斗の主観だが、地下五階のモンスターの出現頻度は、これまでの中で一番低いような気がする。やはりそれだけゴーストが厄介、ということなのだろう。逆を言えば、ゴーストにさえ対処できれば、この階層の難易度はそれほど高くない。実際、彼は順調に探索を進めており、そしてある小部屋で石版を見つける。彼は喜々としてそれに触れた。


【魔石は燃える】


「……いや、だから何」


 石版から得られたその情報に、秋斗は思わず首をかしげた。燃えるからと言って、それが一体何なのか。いや、石版から得られた情報が常に役だってきたわけではないが、それでも何だか彼はハズレを引いたような気がした。しかしシキの評価は違った。


[興味深い情報じゃないか。要するに魔石は燃料として使えるというのだろう? 例えばだが、やかんを持ち込めばコチラでお湯を沸かせるぞ]


「いや、それはそうだけど」


[フライパンをもちこめば、ステーキも焼ける]


「……!」


[あと、ゴーストが一匹近づいて来ている]


「おっと」


 秋斗は反射的に振り返り、音もなく忍び寄って来ていたゴーストを斬り捨てる。それから彼は探索を再開した。得られた情報を検証するのは、モンスターの来ないところで落ち着いてやればいい。


 地下五階の探索は、比較的短時間で終わった。単純に規模が小さかったのだ。そして地下六階へ降りると、秋斗はすぐに足を止めることになった。階段から続く短い通路の先には何かしらの部屋があるのだろう。そしてその部屋は、二枚の立派な石の扉で閉じられていた。


「なあ、シキ。この部屋ってたぶん、ボス部屋だよな?」


 石の二枚扉の前に立ち、秋斗はシキにそう問い掛ける。これまで、それこそ入り口からここまで、地下墳墓には扉というものがなかった。小部屋は幾つもあったが、その全ての入り口は遮るモノもなく開け放たれていたのだ。


 それなのに、ここへ来て初めての扉である。しかも石造りの、彫刻まで施された立派な二枚扉だ。この先が特別であることを、あからさまに伝えている。ではどう特別なのか考えれば、やはりボスが待ち構えているに違いない。それがクエストとしてのセオリーだろう。秋斗はそう考えたし、シキもまたこう答えた。


[恐らく、な。まあ、確証はないが]


「でも確信はある、ってやつだな」


 秋斗のその言葉を、シキも否定しない。まあ、仮にボスがいなかったとして、それで何か不都合があるわけではない。ボスがいると仮定して、そのつもりで殴り込めば、大抵のことには動じずに済むだろう。


「よし」


[行くのか?]


「いや、一回戻る」


 そう言って、秋斗はさっさと来た道を引き返す。そしてシキもそれを止めない。彼はそのまま階段を上り、地下五階を抜けて、地下四階のブラックスケルトンがいた大部屋まで撤退した。


 ブラックスケルトンの時、秋斗は一旦引き返すことなくそのまま戦闘に入った。それは敵の姿が見えていたからだ。明らかにアンデッドで、しかもファイターで、要するに聖属性攻撃魔法が有効だとある程度分かっていたので、彼はそのまま挑んだのだ。


 だが今回、ボスがいると思しき部屋は石の二枚扉によって仕切られている。中の様子は見えず、ボスがどんなモンスターなのかも分からない。ただ、ブラックスケルトン以上のモンスターであることは確かだ。相当な強敵だろう。


 だが強敵であると予想されることだけが、秋斗を慎重にならせたわけではない。ここが地下墳墓、しかもこれまでのモンスターの傾向からして、ボスは人型のアンデッドだと思われる。その予想に彼は自信があった。


 ただ秋斗には気になることがある。ゴーストのことだ。ゴーストはゾンビやスケルトンとは明らかに性質の異なるモンスターだ。もしもゴーストが出現していなければ、彼はボスを「ゾンビやスケルトンの延長線上にいるモンスター」と予想していただろう。そう、ブラックスケルトンのように。


 だがゴーストが現われたことで、その予想は揺らいだ。ボスは「ゴーストの上位種」である可能性も出てきたのだ。そして秋斗は何となく、そちらが正解のような気がしている。彼は一度ゴーストにひどい目に遭わされているから、その経験が彼を慎重にさせたのだ。


 地下四階のブラックスケルトンと戦った大部屋まで戻ってくると、秋斗は盾と剣をそばに置いて腰を下ろした。そしてストレージからタッパを取り出す。中身は昨日作ったフレンチトーストだ。甘く作ったそれを頬張りながら、今後のことを考えた。


「まず大前提として、クエストをクリアするにはボスを倒さなきゃいけない。そしてボスがどんなモンスターなのかは、あの扉を開けてみるまでは分からない」


[うむ。つまり具体的な対策を取りにくい、ということだな]


 頭の中に響くシキの声に、秋斗は大きく頷いた。ゴースト相手にやったから分かるが、後出しじゃんけんは非常に有効なのだ。だがボスにはそれができない。「一回試しにぶつかってみて、ダメそうなら撤退する」という手もあるが、本当に撤退できるのかは別問題だ。むしろ「ボスからは逃げられない!」がゲームの“あるある”である。


 ならば最初から倒すつもりで挑むしかない。だが相手はまったく未知のモンスターだ。さらに、仮にゴーストの上位種だったとすれば、なにやらよく分からない特殊攻撃をしてくる可能性もある。


 さてどう対策したものか。フレンチトーストを食べながら秋斗は考え込む。だがボスについてはハッキリとしたことが何も分からないのだ。シキの言うとおり、具体的にどう対策すれば良いのか、なかなか思い浮かばない。仕方がないので、秋斗は基本に立ち返ることにした。


[基本とは?]


「レベル上げだ!」


 どうやらそう言うことになったらしい。


ボス「まさかの放置!?」

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[良い点] ボスさんwww
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