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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
アナザーワールド
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ゴールデンウィーク一日目6


 地下墳墓の地下三階。秋斗の三回目の挑戦は、かなり順調な滑り出しを見せていた。まず暗視の有効範囲が広がったおかげで、敵の姿がはっきりと見えるようになった。おかげで敵の動きが読みやすい。先んじて敵の攻撃を潰す、というようなこともできるようになった。


 もちろん、敵の攻撃を完封できているわけではない。ただ矢を射かけられたり石を投げられたりしても、飛んでくるモノがよく見えるので、回避や防御は格段にしやすくなった。そこへ盾の相乗効果が加わり、被弾率は劇的に下がった。


 そして当たったとしても、秋斗には防御魔法がかかっている。矢は相変わらず意地でも避けているので、当たるとすれば投石。そして防御魔法は投石によるダメージをほぼ押さえ込んだ。さすがに「何も感じない」というレベルではないが、ともかく痛いのを我慢する必要はなくなった。


 そのおかげで、地下三階のマッピングは一気に進んだ。そしてのぞき込んだ三つ目の小部屋で、秋斗は宝箱を見つけた。中に入っていたのは、なんと古びた千円札が一枚。場違いな戦利品に苦笑しつつも、彼はありがたくそれをストレージにしまった。


 ただしここで問題が発生する。防御魔法の効果が切れたのだ。これには秋斗も驚く。もう少し余裕があると思っていたのだ。実際、地下二階のセーフティーエリアで防御魔法をかけてから、まだ三十分ほどしか経っていない。


[実際に攻撃を防ぐと、その分だけ消耗が激しくなるのかも知れないな]


「あ~、あり得そう」


 シキの推測に、秋斗はイヤそうな顔をしながら同意する。さらにそこへ武装したゾンビとスケルトンの集団が押し寄せる。秋斗は聖属性攻撃魔法を込めた魔石を投げてそれを迎撃するが、彼の表情は渋いままだ。


「どうする……、一回戻るか?」


[いや、しばらくこのまま待っていてくれ]


「シキ?」


 シキの指示に、秋斗は顔を若干険しくする。何かを試す気なのだろうが、それならばなお一層セーフティーエリアに戻った方が良いのではないか。そう思ったが、彼は言われた通り宝箱のある小部屋で待機した。


 もちろん、モンスターはひっきりなしにやって来る。ただ小部屋の中には出現せず、小部屋に入るには細い通路を通るしかない。モンスターの迎撃はそれほど難しくなかった。とはいえ、こうして待っているだけというのも徐々に焦りが募る。


「シキ、まだか?」


[もう少し……、これで、どうだ!]


 シキの声が頭の中で響くのと同時に、秋斗の身体に防御魔法がかかる。もちろん秋斗は何もしていない。防御魔法を発動させたのはシキだ。


 シキが魔法を使えるようになる、というのはそれほど驚く話ではない。いずれはできるようになるだろう、と秋斗も思っていた。


 だがシキはつぎ込めるだけのリソースを暗視につぎ込んだばかりだ。シキが魔法を使えるようになるとして、それはある程度の経験値を溜め込んだ後のことだろうと秋斗は思っていた。


[諸々の説明を聞きたいのなら一度セーフティーエリアに戻ることを推奨するが、どうする?]


「……防御魔法を発動させるまでの時間は、もう少し短くできるか?」


[次からはもっと上手くやる]


「なら、地下三階のマッピングだけ終わらせよう」


[了解した]


 手早く方針を決め、秋斗は地下三階の攻略を再開する。シキがかける防御魔法は、およそ十分弱の間隔でその効果が切れた。その度にシキがかけ直すのだが、それが戦闘中だったりすると、防御魔法のない状態で石が当たってしまうのを完全には避けられない。結局、多少なりとも痛いのを我慢しながらの探索になった。


 地下四階に降りるための階段を見つけると、秋斗は足早に地下二階のセーフティーエリアへ戻った。赤ポーションを使おうかと考え、止める。ダメージはさほど大きくない。今のところ継続的に補充する手段がない以上、あまり気軽に赤ポーションを使うわけにもいかないのだ。


「……それでシキ。どうやって魔法を発動させたんだ?」


[魔石を使った。つまりアキの模倣だ]


 シキは少し得意げにそう答えた。それを聞いて秋斗は「なるほど」と思う。彼自身、魔石なしで魔法を発動させることはできない。逆を言えば、魔石を使えば容易に魔法を発動できるのだ。


[それにな。考えてみれば暗視も魔法みたいなモノだ。つまり下地はあった。その上で防御魔法という特定の魔法なら、何とかなると思った]


 アキが使っているところも見ていたしな、とシキは言葉を続ける。そして実際シキの言うとおり、何とかなった。大したヤツだ、と秋斗は思った。


「じゃあ聖属性の攻撃魔法も、シキの方で発動できるか?」


[無理だ。いや、無理と言うよりは無意味と言うべきか。発動はできるだろうが、それはストレージのなかで発動することになる。この方法で対象にできるのは、アキか、もしくはストレージの中身だけだ]


 それは多分、暗視のスキルが下地になっているからなのだろう。秋斗はそう思った。だがそうだとしても、これは画期的なことである。地下三階の攻略に限っても、継続的に防御魔法をかけられるのは大きい。さらに言えば、とても大きな発展性を秘めている。


「じゃあ、オレが対象なら回復魔法とかもできそうか?」


[恐らくは。ただ……]


「分かってる。お手本な」


 そう言って、秋斗はポケットから魔石を取り出す。イメージするのは赤ポーションとそれを使った時のこと。お手本があるだけイメージはしやすく、初めてにもかかわらず十数秒ほどで準備が完了する。そして彼は最後にこう唱えた。


「ヒール」


 その瞬間、秋斗は身体がスッと軽くなったのを感じた。先ほどの探索で負ってしまったダメージが回復したのだ。つまり回復魔法の発動は成功したのである。


 ファンタジーの定番にして、今後の命綱になりそうな回復魔法。曲がりなりにもそれを使えるようになり、秋斗は内心でグッと拳を握る。それからシキにこう声をかけた。


「で、できそうか、シキ?」


[うむ。まあ、なんとか。ただ、戦闘中はどうしても防御魔法が優先になりそうな気はするがな]


 そんなシキの言葉に、秋斗は内心「確かに」と思って苦笑する。戦闘中にどうしても回復しなければならないなら赤ポーションを使った方が確実だし、回復魔法が何度も必要になるような相手からはさっさと逃げた方が良い。


 となると回復魔法を使う場面というのは、ある程度落ち着いた状況ということになる。そしてそういう状況であれば、わざわざシキに頼るのではなく、秋斗が自分で回復魔法を使えるだろう。


 とはいえ手札が増えるのは悪いことではない。もしかしたらこれが生死を分けることだってあるかも知れないのだ。できないよりはできた方が良い。それが回復手段であるなら、なおのことだ。


 さて回復魔法でダメージを癒やすと、秋斗はストレージからお茶とお菓子を取り出して一服した。そして少し長めの休憩を挟み、その間に地下三階の地図をルーズリーフに描いてもらって、地下四階への階段の位置とそこまでのルートを確認する。休憩が終わったら、いよいよ地下四階へ挑戦である。


 そして三〇分ほど休憩してから、秋斗は地下二階のセーフティーエリアを出た。無論、事前に防御魔法をかけた状態で、だ。ルートを確認したところ、上手くやれば三〇分以内に地下三階を抜けられそうだったので、また魔石を五つ使って防御魔法をかけておいたのである。


 その甲斐もあって、秋斗はほとんどダメージを受けることなく地下三階を抜けた。階段を降りれば、モンスターはもう追ってこない。それで彼は小走りになったために乱れた呼吸を、階段の途中で整えた。


「良し。行こう」


 呼吸が落ち着くと、秋斗はそう呟いて階段をさらに下る。そして地下四階に到着すると、彼はたちまち顔をしかめた。


 地下四階は単純な造りになっていた。秋斗が降りてきた階段から真っ直ぐにメインの通路が延びており、左右には小部屋らしきモノが三つずつ、合計で六つ並んでいる。そしてメイン通路の先には、どうやら広い部屋があるらしかった。


 そしてその広い部屋から、どうにもイヤな気配が漂ってくるのだ。自分が鋭くなったのか、それとも今まで一番の強敵が控えているのか。にわかに判断を付けかねて、秋斗はちょっと憮然としたような顔になった。


「……まあ、まずは小部屋からだな」


 モンスターが現われたのを見て、秋斗はそう呟いた。さすがにいきなり正面の大部屋へ突っ込む気にはなれない。ちなみに出てきたモンスターはスケルトンのみで、地下三階と同じくそれぞれ錆びた剣などの武器を持っている。ゾンビがいない分、視覚的にも嗅覚的にもかなり楽になった。


 飛んでくる矢をかわし、聖属性攻撃魔法を発動させつつ、秋斗は小部屋の探索を行う。モンスターが際限なく湧くのはこれまでと同じだが、そのスピードは幾分緩やかで、六つある小部屋の探索はすぐに終わった。残念ながら石板や宝箱はなかった。


[……で、どうする?]


「どうするもこうするも、行くしかないだろ。……防御魔法を頼む」


 うむ、とシキが答えるのを聞きながら、秋斗は魔石を投げてよってくるスケルトンを数体まとめて排除する。そして防御魔法がかかったのを確認すると、彼は盾を持つ左手に魔石を一つ握らせ、それからストレージに手を突っ込んで刃こぼれのひどい剣を取り出す。


 地下三階のスケルトンがドロップした剣だ。大部屋に何が待っているのか分からない以上、装備を調えていくのは当然だ。そして秋斗はスケルトンを強引に突破して、イヤな気配が漂う大部屋へ踏み込んだ。


「コイツは、また……」


 大部屋の真ん中で待ち構えていた相手を見て、秋斗は顔をやや強張らせる。そこにいたのは一体のスケルトンだった。ただし、その全身は黒い。ブラックスケルトンだ。その手には一本の大剣を、黒々とした刃渡りが二メートルはあろうかという巨大な剣を持っていた。


(もしかして……)


 もしかしてコイツが地下墳墓のボスなのだろうか。秋斗はふとそう思った。


秋斗「装備の格差がヒドイ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊張感が高まったところでの、この後書きが面白すぎて最高です。大好き
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