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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
アナザーワールド
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ゴールデンウィーク一日目5


 地下墳墓の地下三階。一度這々の体で逃げ帰ったその階層に、秋斗は再び立っていた。装備は今までと変わらない。スコップを左手で短く持ち、魔石は右手に握っている。相変わらず暗視で見える範囲はそれほど広くないが、それでも問題はない。今回より重要なのは、むしろシキの索敵範囲のほうだった。


[正面。距離、およそ二〇]


「了解!」


 シキがくれた情報を基に、秋斗は正面へ思念を込めた魔石を投げた。一拍おいてパッと光が広がり、白い炎が暗闇の中で燃え上がる。それを見て秋斗は空になった右手を握りしめてガッツポーズをした。


 地下三階を攻略する上でネックになっていたのは、モンスターが武装していること、ではない。棍棒や錆びた剣で武装しているくらいなら、地下二階と同じく聖属性攻撃魔法でなぎ払って終わりである。


 それができなかったのは、モンスターが飛び道具を使っていたからだ。モンスターが暗視や聖属性攻撃魔法の有効範囲内に入る前に攻撃してくるので、そちらに意識を取られてしまい、魔法の発動が難しくなっていたのだ。言い方を変えれば、「敵だけが一方的に攻撃できる距離」が問題だったのである。


 今回、秋斗はその距離を投石によって潰した。敵の投石が届くのならこちらの投石も届く。当然の話だ。いやむしろステータスの恩恵がある分、投石の射程は彼の方が広かった。しかも投げているのはただの石ではない。発動ぎりぎりまで思念を込めた魔石で、投げた一拍後には聖属性攻撃魔法が発動する。言ってみれば手榴弾のようなものだ。


 もちろん、問題がないわけではない。というより、コレ一つで順調に攻略できるほど地下三階は甘くなかった。一番の問題は、やはり秋斗自身が敵の姿を視認できないことだ。


 見えない敵に向かって魔石を投げるわけだから、どうしても狙いは甘くなる。ただ魔石をぶつけてダメージを与えているわけではない。重要なのは聖属性攻撃魔法で、これはある程度の範囲に広がる。距離と方向が大まかにでも分かれば、そこへ魔石を投げ込むのはそれほど難しくない。


 ただ敵の姿が見えないということは、敵の動作が見えないということでもある。つまり投石や矢を射かけられた場合、準備動作を見て対処するということができない。シキの探知能力もまだそこまでは高くなく、先んじて潰すということができないのだ。


 そのせいでこれまでのようなワンサイドゲームにはならず、秋斗は結構な頻度で敵からの攻撃を受けた。秋斗はそれを、左手に持ったスコップで防御する。防御しきれず、特に石が腕や足にしょっちゅう当たったが、首から上は死守している。


「……っ」


 カンッ、カンッ、カンッ、と石がスコップに当たって跳ねる。当たっているのはスコップだけではない。痛みと甲高いその音に、秋斗は顔をやや強張らせる。それでも彼は魔石に思念を込めるのをやめず、準備ができた魔石を敵に向かって投げた。


 パッと光が広がり、同時に投石が止む。一息つく間もなく、秋斗は小走りになって前進した。さっきまでモンスターの団体がいた場所で一度立ち止まり、シキにドロップを回収させる。そしてそうしている間に、また次のモンスターが近づいてくる。


[アキ、一度撤退しろ]


「ええ? なんで!?」


[いいから早く。良いモノがドロップしたぞ]


 シキにそう言われ、首をかしげながらも秋斗は身を翻した。地下三階の攻略があまり順調でなかったこともあり、彼はすぐに地下二階へ戻った。そしてまたセーフティーエリアへ向かう。


「ふう……、ぁっつぅ……!」


 セーフティーエリアに着いて一つ息を吐くと、次に秋斗は体中の鈍痛に顔をしかめた。弓矢は数が少なかったので何とか全て回避できたし、首から上もどうにか死守した。ただ首から下に関しては、それなりの数の石が被弾している。さすがにダメージが蓄積していて、すぐには抜けない。


[アキ、赤ポーションを使え]


「いや、少し休めばこれくらい……」


[いいから。道具は使うためにあるものだ]


 シキに促され、秋斗は肩をすくめてから赤ポーションを口に含んだ。すると途端に痛みが引いて身体が軽くなる。秋斗はその変化に驚き、同時に自分が多少では済まないダメージを負っていたことにようやく気がついた。


「ふう……。何とかなるんじゃないかと思ってたけど、ダメだったなぁ」


 苦笑を浮かべながら、地下三階の攻略について、秋斗はそう感想を述べる。何もできずに撤退した最初のアタックに比べれば、攻撃に関しては劇的に改善したと言って良い。


 ただ防御を忘れていた。いや、敵を排除すればそれで探索できると思っていた。結果として痛いのを我慢しながらマッピングする羽目になった。秋斗は力なく首を振ってから、気を取り直してシキにこう尋ねた。


「……それでシキ。良いモノって?」


[うむ。これだ]


 そう言ってシキがストレージから差し出したのは、丸い盾だった。さほど大きくはないが、それでも盾代わりに使っていたスコップの金属部分よりは大きい。一目見て品質が悪いことは明らかだったが、それでも防具だ。防御力の向上が見込まれる。


 ただ同時に、劇的に防御力が向上することは期待できない。この盾を使えば投石によるダメージを減らすことはできるだろう。だが無視できるレベルまで減らすことはできない。つまり程度の差こそあれ、また痛いのを我慢しながら攻略を行うことになる。


「もう一つ盾があれば」と考え、秋斗はすぐに首を振る。それでは防御に偏りすぎて、攻撃が疎かになる。地下三階のモンスターは武器を持っているのだ。接近されるのは投石以上に危険である。


 本来ならば(という表現が正しいのかは別として)、壁役の後ろに隠れた火力担当が敵を攻撃する、というのが正攻法なのだろう。だが秋斗はソロだ。役割分担して攻略を進める、ということはできない。


「要するに、だ。攻略の方向性は大きく二つ。このまま痛いのを我慢してごり押しで進めるか、何かしらの方法で防御力を高めるか、だな」


[是非とも後者を選びたいところだが、問題はその方法か……]


 正直、盾以外の防具がドロップすればそれだけけでかなりマシになるのだが、現状そのアテはない。なにしろゾンビもスケルトンも、まともに防具を身につけていないのだ。なお、宝箱(白)もドロップ率が低く、こちらもアテにはできない。


「やっぱ魔法、かな。シキ、何とかならないか?」


[ならない事はないが。暗視の有効範囲を広げなくて良いのか?]


「あ~、そっちもあったかぁ~」


 シキからの指摘を受け、秋斗は額を押さえてそうぼやいた。暗視の有効範囲は、最初と比べて多少は広がっている。だが現在のそれが十分でないことは、彼が一番よく分かっていた。投石の被弾率が高いのは、ある面でそのせいでもあるのだ。


 またガーゴイル戦のこともある。ガーゴイルはゾンビやスケルトンと比べて強敵だった。今後、例えば地下墳墓のボスなど、さらなる強敵が出てくるのはほぼ確実だ。その時、半分目隠ししたような状態で戦わなければならないのは、はっきり言って不安しかない。


「……よし。まずはつぎ込めるだけのリソースを暗視に突っ込んでくれ」


[いいのか?]


「ああ。防御の方は、自分でやる」


 了解した、というシキの声が響くのと同時に秋斗の視界が広く、そして明るくなる。それを見て秋斗は「おお」と声をもらした。セーフティーエリアはそれほど広くない小部屋だが、それでもその変化は劇的だった。


 暗視の方はこれで十分だろう。後は防御だ。そして秋斗にできる事と言えば限られている。彼はいそいそと魔石を握った。必要なのは防御のための魔法。身体の表面を障壁が覆うようなイメージを、彼はたっぷりと数十秒かけて魔石に送り込む。そして魔石が熱を帯びてくると、彼はこう唱えた。


「プロテクション」


 その瞬間、秋斗は何かが自分の身体を覆うのを確かに感じた。握っていた魔石もなくなっている。それを見て彼は大きく頷いた。


「ひとまずは成功、かな」


[あとは持続時間だな。しばらく地下二階で実験することを提案する]


「いいけど、わざわざ攻撃を喰らう気はないぞ?」


[当たり前だ]


 そんな軽口を叩きながら、秋斗は休憩を切り上げてセーフティーエリアの外へ出た。まず感じたのは視界の広さである。「地下墳墓ってこんな感じだったのか」と彼はやや間抜けな感想を抱いた。


 さて肝心の防御魔法の持続時間だが、これがあまり長続きはせず十分程度だった。数回の戦闘ならこれで十分かもしれないが、地下三階を攻略する上ではまったく足りない。そもそもセーフティーエリアから地下三階に降りるまでにどうしても十分以上はかかるのだ。


「切れたらかけ直す、っていうのが正攻法なんだろうけど……」


 秋斗は苦笑しながらそう呟く。地下三階での戦闘を思い出すと、そのための時間をひねり出せるかがネックになる。彼自身、自分で言っておいて気乗りしない。防御魔法を発動するまでの時間は、今後の練習次第で短くできるだろう。


 ただその間、攻撃できなくなることに変わりはない。攻撃を優先して防御は後回しになり、結局痛いのを我慢しながら攻略する羽目になるような気がした。


「もうちょっと、工夫してみるかなぁ」


 そう呟いて秋斗はセーフティーエリアに戻る。そして彼はまた魔石を握った。ただし、今度は二個。持続力二倍の方向で思念を込め、彼はもう一度防御魔法を発動させた。ちなみに発動までの時間も約二倍かかった。


 結論から言うと、彼の目論見通り、防御魔法の持続時間はおよそ二倍になった。その結果に気分を良くした彼は、セーフティーエリアに戻ると今度は一気に五つの魔石を手のひらにのせる。この量だと片手では握れないので、両手で包み込むようにして思念を込める。およそ五分後、彼は何とか防御魔法を発動させた。


「……よし、これで五十分くらいは保つはず」


 五分間集中力を切らさずに思念を送り続けるという作業に地味に疲弊しつつ、秋斗は達成感の滲む声でそう呟いた。彼はいそいそと立ち上がって地下三階へ向かう。三度目のアタックだ。


シキ[実はすでに、結構な数の装備品がドロップしている。ただし全てボロいが]

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― 新着の感想 ―
[良い点] もっとお金がドロップすれば…普通に日本で盾買えそうw [一言] 魔法が万能すぐる
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