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アリスとパーツと宇宙船2


 警備モンスターの群れへと走りながら、秋斗はまず一つの魔法を発動させる。マジックガードの魔法だ。インセクト・キャノンやドローンの砲撃は魔法属性で、それを防ぐための魔法だ。ただこのとき、彼は魔石を使わなかった。


 それを可能にしているのが、強化服レイヴンの機能の一つ「魔法のインストール」だ。この機能は白紙の魔道書とほぼ同じと言って良い。つまりある魔法をインストールしておくことで、その魔法を魔力を込めるだけで使えるようにするのだ。


 この方式の何が良いのかというと、それは二種類のエンチャントをかけられるという点だ。普通、エンチャントは一種類しかかけられない。新しい方が古い方を上書きしてしまうからだ。


 では強化服レイヴンはこの問題をどう解決しているのか。簡単に言えば、二種類のエンチャントを別々の場所にかけるのだ。一つは強化服に、もう一つは装備者自身に、である。普通であればこの二つは近すぎて一体と見なされる。それを別々に見なせるようにしたのが、この強化服レイヴンの工夫したところと言って良い。


 また当然ながら、この強化服レイヴンにはエンチャント以外の魔法もインストールしておくことができる。だが秋斗が使える魔法に限ると、エンチャントをインストールしておくのが一番良いように思えた。回復魔法でも良かったが、どうせなら痛い思いはなるべくしたくないし、魔石の消費も抑えたかったのだ。


 さて、強化服レイヴンの機能の説明はこのくらいで良いとして。警備モンスターの群れに突撃した秋斗は、インセクト・キャノンの一斉砲撃によって手荒く出迎えられた。ただ命中精度は良くないし、マジックガードの魔法もかけてある。秋斗は構わず、一直線に進んだ。


「△●□‡◎※◆!」


 秋斗は砲撃の中を猛然と走る。その彼を取り囲むように、ドローンが周囲を飛び始めた。数が多く、まるで壁にでも囲われたかのよう。フレンドリーファイアも頻発しているが、モンスターはそんなことには構わない。ひたすら秋斗を狙って攻撃を始めた。


「っ!」


 顔をしかめつつ、秋斗は左手に握っていた魔石を放る。次の瞬間、けたたましい放電音が響いた。同時に広がった紫電がドローンを焼く。ぽっかりと空いたその場所を、彼は全速力で駆け抜けた。


 距離を詰めるにつれて、砲撃がさらに激しくなっていく。左腕で顔面をガードしつつ、それでも秋斗は速度を落とさずに進んだ。砲撃を切り払うこともできるが、それをすると速度が鈍る。マジックガードの防御力を頼りに、彼は突き進んだ。


 そしていよいよ、インセクト・キャノンが秋斗の間合いに入る。彼は強く踏み込み、身体を捻りながら大きく竜牙剣を横薙ぎに振るった。そして伸閃を放つ。伸ばされたその斬撃は十数体のインセクト・キャノンを一度に切り裂いた。倒されたモンスターが黒い光の粒子になって消える。その空白地帯に彼は滑り込んだ。


「はぁぁぁあああ!」


 気炎を上げて、秋斗は竜牙剣を振るう。剣筋が描く銀色の軌跡は幾重にも重なり、まるで結界のようになっている。飛翔刃を乱発し、伸閃で多数の敵を一度に切り裂く。嵐が吹き荒れるかのようにして、彼はモンスターをなぎ倒した。


 だが彼が嵐なら、増援が絶えることのない敵はまるで奔流のよう。さらにビームソードを装備する接近戦用の警備モンスター、バニッシャーも現われる。圧倒的な物量を相手に、秋斗は孤軍奮闘を続けた。


(どれくらいもつかなぁ……!?)


 獰猛な笑みを浮かべて敵を倒しながら、秋斗は内心でそう呟いた。敵を倒しきることは不可能。そんなことは最初から分かっている。そもそも彼にそのつもりはないし、また宇宙船の中に突撃しようとも思っていない。こうして戦っているのは、経験値稼ぎが最大の目的である。


 ただ中にはアリスが突入している。アリスの心配など少しもしていないが、しかし彼女が中にいるのにこの宇宙船の残骸をまた宝箱(緑)に戻してしまうわけにはいかない。そんな事をしたら、たぶん彼女は箱を突き破って外へ出てくるだろう。そして盛大に文句を言うに違いない。


 だからアリスが用事を済ませて戻ってくるまでは、宇宙船を片付けるわけにはいかない。だがその間、なにもせずに待っているのも芸がない。それで秋斗は、アリスに渡したアイテムの補充もかねて、彼女を待つ間こうして経験値稼ぎに勤しむことにしたわけだ。


 ただ、気楽な暇つぶし、というつもりはない。アリスが外へ出てくるまで、その間ずっと休まずに秋斗は戦闘を継続するつもりでいる。言ってみれば耐久戦であり、彼が自分に課したミッションだった。


(時間の目安が分かっていれば、気持ち的に楽なんだけど……!)


 アリスが用事を済ませるのにどれくらいかかるのか、それは彼女自身にも分からない。当然秋斗が知るよしもなく、つまり彼はいつ終わるのか分からない戦闘を続けていることになる。これは精神的に結構辛いし、まだ実際問題としてどうペース配分をするべきかも悩みどころだ。


 ペースを落とせば戦闘の継続は容易いが、しかし敵の数が増えすぎればその分だけ圧力が増すことになる。最終的には圧殺されるだろう。だから戦闘を継続するためにも、ある程度の数は倒し続けなければならない。


(視界は広く、焦らず、無駄をそぎ落とし、ペースを維持する……!)


 嵐のような勢いを維持したまま、秋斗は戦い続けた。戦闘は激しいが、彼の頭の中は徐々に冷えていく。それに伴って彼の動きは少しずつ洗練されていった。必要最小限の動きで砲撃を避け、さらにフレンドリーファイアを誘う。視覚だけでなく五感で戦場の動きを捉え、その流れをさばいていく。時折、集気法で魔力を回復するのも忘れない。


(どれくらい戦った……!?)


 高い集中力は時間の感覚を曖昧にさせる。もう一時間も戦い続けたような気もすれば、まだ十分も経っていないような気もする。秋斗の気を散らさないためなのか、シキも余計な口を挟まない。


(まあ、いい)


 まだ戦える。それだけ確認すると、秋斗はまた戦闘に没頭した。そうやってしばらく戦っていると、アリスが宇宙船の残骸から飛び出してくる。突入したのとは別の場所だが、外壁などを破壊した様子はない。ただ高い位置にあるので、秋斗がそこから突入するのは無理だが。


 アリスは秋斗が下で戦っているのを見ると、一度大きく翼を羽ばたかせてその場でホバリングする。それから右手を勢いよく振り下ろした。次の瞬間、白い閃光が秋斗の周囲に降り注ぐ。そして彼の周囲のモンスターを次々に貫いていった。


 それを見て、秋斗は小さく苦笑する。そして宝箱(緑)を取り出すと、一度捻ってから宇宙船の残骸へ投げてぶつける。宝箱(緑)が展開されて宇宙船の残骸が収納されると、秋斗はアリスに援護射撃してもらいながら悠々と残敵を掃討した。


「余計な手出しじゃったかの?」


「いや、助かったよ。……ところで、目当てのブツはあったのか?」


「ボチボチ、じゃな」


 アリスはそう答えたが、彼女の表情は明るい。きっとそれなりに使えそうなモノがあったのだろう。だがこれで必要なものが揃った、というわけではないらしい。彼女は肩をすくめながら、さらにこう続けた。


「まあ、これで半分といったところかの」


「まだそんなもんなのか」


「うむ。じゃが機械系のモンスターからもパーツが得られるというのは朗報じゃ。今後はそちらも狙ってみるとしようか」


 アリスは明るい声でそう言った。恐らく機械系のモンスターには心当たりがあるのだろう。このあとひとっ飛びしてパーツを剥ぎ取りに行くに違いない。秋斗は心の中で「間違いない」と呟いたのだが、どうやらアリスはまず彼に用があるようで、彼の方を向いてこう言った。


「アキトにも世話になったの。ほれ、クエスト報酬じゃ。受け取るがよい」


 そう言ってアリスは右手の手のひらの上に宝箱(銀)を作り出した。そしてそれを秋斗に差し出す。彼はそれをありがたく受け取った。


「ではな!」


 短くそう言い残し、アリスはすぐにその場から飛び立った。秋斗はその背中を見送る。猛スピードで飛んでいく彼女の背中はすぐに見えなくなった。それから彼は受け取った報酬に視線を落とす。彼の頬は緩み気味だった。


「思いがけず良いモンもらっちゃったなぁ~。仕事と報酬が釣り合ってないような気もするけど」


 過小ならともかく、過大な分には問題ない。秋斗はさっそく幸運のペンデュラムを使ってから宝箱(銀)を捻って開封する。だが出てきたアイテムを見て彼は首を捻ることになった。


「なんだ、こりゃ?」


 宝箱(銀)から出てきたのは、何と馬具一式。くつわ、鞍、あぶみ、手綱など、秋斗も知っている道具もあるが、それ以外の知らない道具も含まれている。何にしても彼にとって馴染みのない道具の数々。そして何より使うあてのないアイテムだ。


「オレ、馬なんて乗れないんですけど」


[ともかく、一度鑑定してみたらどうだ?]


 シキに促され、秋斗は鑑定のモノクルを取り出した。そして宝箱(銀)から出てきた馬具一式を鑑定する。結果は次の通りである。


 名称:人馬一体(馬具)

 騎獣との間で魔力を融通しあうことができる。


「マジックアイテムなのか……。だけど本当に使い道が思い浮かばねぇ……」


 秋斗はやや愚痴っぽくそう呟いた。まさかリアルワールドから馬を連れてくるわけにもいくまい。だいたい馬を連れてくるくらいならバイクを使った方がはるかに簡単だ。そもそも彼は馬に乗ったことがないのだから。


「なんでこんなアイテムが……。いや、基本的に運任せっていうのは分かるんだけどさ」


 だからこそ幸運のペンデュラムを使ったのだ。それなのにこの結果。秋斗はちょっと納得がいかなかった。そんな彼にシキがこんなことを言う。


[もしや、あの麒麟か……?]


 シキの言う麒麟とは、かつて秋斗がコボルトらから助けたあの麒麟のことだろう。ノンアクティブでしかも角までくれたあの麒麟のことは、確かに秋斗もよく覚えている。だが彼は首を横に振りながらこう答えた。


「いやいやいやいや、それはないだろ。あれから全然、姿も見てないし。だいたい、アリスも言ってたじゃん。人間がモンスターのテイムに成功した例はない、って」


[ふむ……。まあ、そうだが……]


 シキもただの思いつきだったのだろう。それ以上、麒麟に騎乗できる可能性を推すことはなかった。秋斗は一つ肩をすくめてから人馬一体をストレージに放り込む。それから「よしっ」と気合いを入れる。


 宝箱(銀)の開封結果はちょっと期待外れだった。だが幸運のペンデュラムの効果時間はまだ残っている。「元は取らなくっちゃな」と嘯き、秋斗は探索を始めた。


アリス「やはり甘いものを食べたあとは、頭も身体も良く動く」

秋斗「関係ないと思うけどなぁ」

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、プロテクションとインスタントアーマー同時付与できない話ここで出てくるんですね。
[一言] 馬具は使い道さえ見つかれば強力そうではありますねえ
[一言] 馬具一式、これは馬型のドールを作れば秋斗くんから魔力を供給して動くとか可能なのでは。
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