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奥多摩遠征3


「ヒドい目にあった……」


 戻ってきた岩の影で、秋斗はうなだれながら力なくそう呟いた。それからノロノロと魔石を取り出し、自身に回復魔法をかける。全身から痛みがスッと引き、彼は「ふう」と息を吐いた。それから先ほどの戦闘を思い出して、彼は苦く笑った。


「やっぱ、数ってのは暴力だなぁ」


 数の暴力を体験する羽目になった彼としては、もう笑うしかなかった。一体ずつなら大したことはないのに、まさに手が付けられない。フレンドリーファイアを厭わないモンスターとしての性質も厄介だ。「どうせいっちゅうねん」と彼はエセ大阪弁で愚痴った。


[では諦めるか?]


「いや、諦めない」


 シキの問い掛けに秋斗はそう即答した。そしてそう口に出してみると、ムカムカと腹の底から力が戻ってくる。彼はストレージからマイボトルを取り出して麦茶をあおった。さらに自分で握ったおにぎりも取り出して食べ始める。ちなみに具はおかか。そうやって少しお腹を満たすと冷静さも戻ってきて、彼は「ふう」と息を吐いてからこう言った。


「……で、反省会なわけだが、何からするかなぁ。シキ、何かある?」


[そうだな……。ではまず二つ。一つ目だが、魔水晶は無事だったぞ]


「おお、それは何より。で、二つ目は?」


「戦闘中、宇宙船の中から増援が現われていた。敵の数が減らなかったのはそのせいだ」


「うげ、そうだったのか」


 シキの話を聞いて秋斗が顔をしかめる。攻撃の圧が弱まらないと思っていたが、そんな仕掛けがあったらしい。しかしそうだとすると、次はどう立ち回るべきか。


「まあ、それは後で考えるとして。次の反省点は……、浸透打撃は効いたけど、敵の数が多すぎて手が回らなかったな」


[うむ。しかも絶え間なく攻撃されていたせいで、不発が何度かあった]


「んぐっ……、だってアレ、結構難しいんだぜ?」


[責めるつもりはない。それに普通の攻撃でも、インセクト・キャノンの装甲は凹んでいた。まあ、武器強化はしてたがな。もしかしたら敵の防御力はそれほど高くないのかも知れないぞ]


「それは……、そうかも……」


 戦ったときの手応えを思い出しながら、秋斗はそう答えた。もちろんゴブリンやスライムと比べれば、インセクト・キャノンの防御力は高い。だが見た目のメカっぽさから想定していたような防御力ではなかった。そうであるなら、わざわざ浸透攻撃主体で戦う必要はないかもしれない。


「次は竜牙剣でやってみるか……。じゃあ武器は代えるとして、あとは防御面だな」


 おにぎりの残りを頬張り、思った以上に痛かった敵の攻撃を思い出して秋斗は顔をしかめた。プロテクションをかけておいたはずなのだが、数の暴力に押し切られてしまったのだろうか。秋斗はそんなふうに考えたのだが、シキがこんなことを言いだした。


[プロテクションはあまり効果がなかったのではないのか?]


「え、どゆこと?」


[つまりあの砲撃は魔法としてカウントされているのではないか、ということだ]


 一瞬、シキが何を言っているのか秋斗は分からなかった。だが徐々にその意味が分かってくる。プロテクションは主に物理攻撃に対する防御力を上げるための魔法。つまり魔法攻撃に対しては効果がほぼない。


 ではインセクト・キャノンやドローンの攻撃は本当に魔法攻撃なのだろうか。確かにどちらもエネルギー弾のようなモノを飛ばしているのであって、砲弾を飛ばしているわけではない。そしてそのエネルギー源が何かと言えば、それは当然魔素だろう。


 もちろん魔素をエネルギー源としているからと言って、その攻撃が必ず「魔法」と判定されるわけではない。そもそも全てのモンスターのエネルギー源は魔素だ。それでも物理攻撃が存在するのだから、当たり前の話である。


 だがプロテクションの効きがいまいちだったのだから、魔法攻撃を疑うのは筋が通っている。証明のためには実験が必要だが、どうせもう一度は仕掛けるつもりでいるのだから、プロテクションの代わりに別の魔法を試してみるのも悪くない。


 ではどんな魔法が良いのか。それはもちろん「魔法攻撃を防ぐ魔法」だ。秋斗は麦茶を飲んでマイボトルをストレージに片付けてから、まずは諸々の準備を整えた。それから彼は新しい魔法についてのイメージを膨らませていく。そして魔石を握り、思念を込めながらトリガーワードを唱えた。


「マジックガード」


 魔石が弾けて魔法が発動する。そして柔らかな光が秋斗を包んだ。彼は身体の具合を確かめて一つ頷く。彼はゆっくりと立ち上がり、岩陰から警備モンスターらの様子を窺う。奴らは相変わらず宇宙船の周りにウヨウヨといた。最初の突撃でそれなりに倒したはずなのだが、数が減った様子はない。やはり宇宙船の中から補充されたようだ。


(援軍がどれくらい現われるのかは気になるけど……)


 しかしそれを確かめる方法はない。いや、それを確かめるためにも、もう一度突っ込むしかないのだ。秋斗は「ふう」と息を吐いて腹をくくる。そしてシキにこう頼み事をした。


「シキ。マジックガードが効果的だと思ったら、途切れないようによろしく」


[うむ。任せておけ]


 シキの返事を聞いて秋斗は一つ頷く。そして竜牙剣を鞘から抜き、左手に魔石を握って岩陰から飛び出した。彼は身体強化を駆使してぐんぐんと距離を縮めていく。しかも今度は複雑な動きはしない。一直線に突撃した。


「△●□‡◎※◆!」


 警備モンスターたちが動き出す。インセクト・キャノンが砲撃を開始し、ドローンが秋斗目掛けて殺到する。そのドローンの群れ目掛けて、彼は魔石を放った。次の瞬間、雷魔法が発動する。多数のドローンが紫電によって撃墜され、黒い光の粒子になって消えた。


 そうやって作った穴へ秋斗は飛び込む。そして一気に駆け抜けた。インセクト・キャノンとの距離が縮まるにつれて、徐々に砲撃は激しさを増していく。彼は竜牙剣でエネルギー弾を切り払うが、到底全てには対応できない。何発かはくらっているのだが、マジックガードが効いているようで、ダメージは少なかった。


(よし、これなら……!)


 手応えを感じつつ、秋斗は足を動かす。そしてインセクト・キャノンの群れに吶喊した。竜牙剣に十分な魔力を喰わせる。その刃は易々とインセクト・キャノンの装甲を切り裂いた。やはりそれほど分厚い装甲ではないらしい。


 秋斗は獰猛な笑みを浮かべた。そして伸閃も通用することを確かめると、彼は伸閃主体の攻撃に切り替えた。突きを使わないのは、インセクト・キャノンの弱点がよく分からないから。とにかく足を止めないようにしながら、彼は斬って斬って斬りまくった。


「っち、ホントに数が減らねぇなぁ!」


 秋斗がそうぼやくように叫ぶ。視界に俯瞰図を表示してもらうと、周囲は真っ赤で、さらに赤いドットが絶え間なく宇宙船のほうからやって来る。増援は覚悟していたが、「多過ぎだろ」と彼は愚痴った。


[ドローンも来るぞ]


 シキにそう言われ、秋斗は舌打ちをした。そして左手に魔石を握る。だが雷魔法の準備が整うよりドローンの攻撃の方が早い。細かいビームのような攻撃がまるで押しつぶすかのような密度で放たれる。


「ぐぅ……!」


 秋斗がうめき声を出す。やはりマジックガードのおかげでダメージはそれほどでもない。だが数が多い。しかも一発ずつ切り払っても意味がないので、実質的に耐えるより他に手がない。彼はとにかく足を動かした。そしてようやく準備の整った雷魔法を発動させる。


 けたたましい放電音が響いて、多数のドローンが地面に落ちる。紫電は数体のインセクト・キャノンも焼いていて、まるでショートしたように動かなくなった。そして黒い光の粒子になって消えていく。


 機械タイプのモンスターだからだろうか。雷魔法は良く効いているように見えた。ただ次から次へと増援が現われるので、敵の数は一向に減らない。かつての地下墳墓を彷彿とさせる無限湧き状態だ。


 ただ地下墳墓のときには聖属性攻撃魔法を使えるようにした魔道書があった。アンデッドに対してクリティカルな対抗手段を持っていたので、ヘビーローテーションが可能だったのだ。


 一方で今回は事情が異なる。雷魔法は良く効くようだが、それを白紙の魔道書に書き込む訳にはいかない。恐らくは自分までダメージを受けるからだ。そんな自爆まがいのことをしていては攻略などおぼつかない。


(どうすっかなぁ……!?)


 現状では手際よくモンスターを片付ける手段は思い浮かばない。それで秋斗は機動力で敵を翻弄しつつ、手当たり次第に斬って捨てるという方法で立ち回るしかなかった。ときどき雷魔法も使うが、敵の攻撃が激しくてなかなかそちらをメインにはできない。


 大幅に蛇行し、ひたすらモンスターを倒しながら、それでも秋斗は少しずつ宇宙船との距離を縮めていく。周囲はインセクト・キャノンとドローンだけで、彼は常に砲撃の中心にいる。マジックガードが有効でなかったら、ここまでは来られなかっただろう。


 敵は相変わらずフレンドリーファイアを厭わずにバカスカ撃ってくる。当然、そのために倒されてしまうモンスターもいて、ダメージにさえ目をつぶれば戦況はそれほど悪くない。ただダメージは継続的に受けているので、あまり長時間は戦えない。


(宇宙船の中に入れれば、いけるか……!?)


 秋斗は戦いながらそう考えるが、実のところ懐疑的だ。増援が宇宙船の中から現われると言うことは、宇宙船の中もモンスターだらけのはず。外のように広々とはしていないかもしれないが、狭い通路が彼にとって有利かといえば必ずしもそうではないだろう。


 そして彼がそんなことを考えていると、また宇宙船の中から増援が現われる。その中には新顔も含まれていた。やはり機械タイプのモンスターだが、今度は人型である。そいつは背中に砲を二つ背負っており、さらに両手に光の剣を握っていた。それを見て秋斗は思わず声を上げる。


「おお、ビームソード……!」


 いかにもSFっぽい武器を見て、うかつにもちょっとテンションが上がる。ちなみに新顔はバニッシャーって感じだったのでバニッシャーと呼ぶことにした。


バニッシャーさんA「我がビームソードの錆にしてくれる!」

バニッシャーさんB「なおビームソードに錆が付くかは気にしない方向で!」

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― 新着の感想 ―
[一言] こいつ結構余裕あるな……
[一言] >なおビームソードに錆が付くかは気にしない方向で! ここはいろんな作品で思う構造上錆るの?って突っ込みだよなw あと、錆って整備もできないの?って煽りたくなるw
[一言] ビームソードを振りながら口で音を出してスターウォーズジェダイごっこするんやな。
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