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リアル・モンスター・ハント1


「なあ、アキ。モンスター・ハントに行かないか?」


 秋斗にそう声をかけたのは、同じ学科の友達である三原誠二みはらせいじだった。秋斗と同じ地方出身で、秋斗と違ってバイトに勤しむ勤労学生である。


「……どうしたんだ、ミッチー。藪から棒に」


「だからモンスター・ハントだよ。一緒にやろうぜ」


「だから、どうしていきなりそんなことを?」


「流行ってんじゃん、モンスター・ハント。それにさ、魔石のあの買い取り価格を見たら、真面目にバイトすんのアホらしくなちゃってさ」


「バイト辞めたの?」


「いや、辞めてないけど。でも臨時収入は欲しい。いいじゃん、一緒にやろうぜ~」


 そう言って誠二は人懐っこく秋斗を誘った。「物欲に忠実だな」と内心で苦笑しつつ、秋斗は彼にこう尋ねた。


「するとして、どこでするんだよ。大学の周辺?」


「いや、この辺は似たことを考えてるヤツが多いからな。かといって街中でやるのもどうかと思うし。奥多摩行こうぜ」


「大学の周辺がそんなに殺伐としているとは知らなかったな……。それで、奥多摩ねぇ」


「おう。山の方に行けば、ライバルも少ないだろ。アキはバイク持っているし、後ろ乗せてくれ」


「オレは足か。まあ、良いけど」


「本当か!? じゃあ、次の土曜な。武器持参だぞ!」


 パッと顔を輝かせながら、誠二はそう言った。「武器持参」とはなかなか物騒なセリフである。もっとも一番物騒なのは、そんなセリフが日常会話でさらりと出てくるようになった今の社会なのかも知れないが。


[それにしても、モンスター・ハントにアキが乗り気とは、少し意外だな]


「まあ、奥多摩の下見もかねてね。それにオレも臨時収入は欲しいし」


[手持ちの魔石を売れば良かろう。今なら魔石一つや二つ、珍しくもないはずだ]


「それも考えたけど。まあ今回はミッチーに付き合うさ」


 秋斗は気楽な調子でそう答えた。モンスター・ハントと言っても、彼にとってはピクニックと変わらない。むしろ不用意に実力を見せないように気をつけなければならないだろう。そして約束した土曜日、二人は大学の近くで落ち合った。誠二のリュックサックからはバットの柄が飛び出ていた。


「おぬし、得物はバットであるか」


「うむ。由緒正しき鈍器でござる。……あと、ネットでナイフを買った」


「職質されたらヤバそうだな。オレは知らなかったことにするから、一人で頑張ってくれ」


「いやいや、逃がさんよ? てか、アキは何を持ってきたんだ?」


「オレはコレ」


 そう言って秋斗が取り出したのは、ホームセンターで売っている梱包用のベルトだった。金具が付いているので、振り回せばそれなりに威力が出るのではないかと思ったのだ。それにこれなら職質されても言い逃れできる。だが誠二には不評だった。


「え~。アキ、こんなんで大丈夫なのかよ?」


「止めはミッチーに譲るよ。じゃ、行こうぜ」


 そう言って秋斗は誠二にヘルメットを渡し、バイクのタンデムシートに座らせた。そしてエンジンをかけてバイクを発進させる。一応道は調べてあるし、シキがナビをしてくれる。秋斗はスイスイとバイクを走らせた。


 誠二が奥多摩を選んだのは、「ライバルが少なそう」だからだ。だが同じ事を考える者は多かったようで、モンスター・ハントに来たと思しき連中がちらほらと目に入る。そして彼らを見る住民達の目は不安げだ。自分たちもそう見られているのかと思い、秋斗は「まあそうだよな」と内心で苦笑した。


「奥多摩っていっても広いけど、取りあえず山の方でいいか?」


「任せる!」


 すがすがしいまでに他人任せな返事に苦笑しつつ、秋斗はひとまず人気ひとけのない方へバイクを走らせた。交通量の少ない道を、山に分け入るようにバイクで走る。やがて周囲に人影はなくなった。それを見て秋斗はポツリとこう呟く。


「東京にもこんな人気のない場所があるんだな」


「人気がないのは良いけどよ。モンスターもいないぞ」


 秋斗の後ろで誠二がそうぼやく。確かに人影はないがモンスターの影もない。実に平和だが、今日の趣旨から言えばそれでは困る。「人間はわがままだな」と内心で苦笑しつつ、秋斗はさらにバイクを走らせた。するとついにシキの索敵に反応があった。


[アキ、スピードを落とせ。来るぞ]


(俯瞰図出して)


 バイクのスピードを落としながら秋斗がそう頼むと、彼の視界に俯瞰図が表示された。そこにはモンスターを示す赤いドットが表示されていて、しかもそれがシキの言うとおり近づいてくる。だいたい十時の方向からだ。


 そちらは山林になっているのだが、突然、のり面を転がり落ちるように黒い物体が現われた。スピードを落としていたおかげで、秋斗はモンスターから数メートルの距離を開けてバイクを止めることができた。


「アキ、あれって……!」


「現われたみたいだな」


 誠二の声には緊張が混じっていた。一方で秋斗は淡々としている。アドレナリンの分泌量に差はあれど、二人は現われたモンスターの様子を注視する。秋斗は「このまま死んでくれないかな」なんて思ったのだが、さすがにそこまで都合良くはいかないらしい。モンスターはヌルリと立ち上がると、真っ赤な目を二人の方へ向けた。


「ギィィジャァァァァアアア!!」


「っ、掴まってろ!」


 モンスターが雄叫びを上げた瞬間、秋斗はそう言ってバイクを発進させた。Uターンして来た道を戻る。モンスターはすぐにその後を追った。秋斗はサイドミラー越しに姿を確認する。


 姿が近いのは蜘蛛だろうか。ただし巨大だ。小型自動車くらいのサイズがある。足も八本ではなく、一〇本以上あるように見える。多数の足がワチャワチャと動く様子はちょっと気色悪い。赤く輝く目は全部で八つあった。


「……で、どうする、ミッチー。降りて戦う?」


「い、いや、バイク走っちゃってるし……。てか、あんなにデカいのはちょっと想定外……」


 秋斗に答える誠二の声は、まだ強張っている。ただ実際、バイクを停めるのは難しいだろう。停車した瞬間に体当たりされかねない。その場合、相手のサイズを考えれば交通事故並のことになるだろう。しかしだからといって、このまま街中へ連れて行くわけにもいかない。


(さて、どうするかな)


 バイクを走らせながら秋斗は思案する。彼一人なら何とでもなるが、今は誠二が後ろにいる。あまり人間離れしたことはできない。「それなら」と思い、彼はポケットに手を突っ込んで梱包用のベルトを取り出した。そしてそれをモンスターへ投げつける。


 ベルトは上手い具合にモンスターの足に絡まり、モンスターは前へつんのめるようにして転倒した。そして一回バウンドし、そのまま転がってバイクの後へ迫る。誠二が悲鳴を上げた。


「うあああ!? アキ!?」


 誠二の悲鳴を聞きながら、秋斗は目の前のカーブに意識を集中する。そしてドリフト気味にそのカーブを曲がった。しかしモンスターは曲がれない。そのままコンクリートで固めたのり面に激突する。「ガンッ!」とも「グシャ!」とも言えないような音が響いた。


「バット借りるぞ」


「え、ええ、あ……」


 秋斗は素早くバイクを停めると、混乱している誠二のリュックサックからバットを引き抜く。バットは金属バットだった。ヘルメットは脱がない。秋斗はバットを構えてモンスターへ駆け寄った。


 多数の脚を持つモンスターは、のり面に激突したせいですでにグッタリしている。しかし倒したわけではない。秋斗は油断なく(誠二から見れば大胆に)近づき、そしてバットを振るって攻撃した。


 バットには魔力を流して強化を施してある。そして強化されたバットは一撃でモンスターの脚を一本へし折った。もげた脚が黒い光の粒子になって消える。秋斗はさらにもう一本脚を奪った。モンスターが起き上がろうとする。秋斗はモンスターの顔面目掛けてもう一撃くれてやった。


 しかもこの一撃、軽めとはいえ浸透打撃だ。モンスターは完全に伸びてしまった。もはや瀕死で、あと一撃で倒せる。だが彼は自分で止めはささず、押さえ込むような仕草をしつつ誠二にこう声をかけた。


「ミッチー、止め!」


「お、おう!」


 誠二はナイフを構えてモンスターに近づく。そしてその頭にナイフを突き立てた。次の瞬間、モンスターは完全に力を失う。そして黒い光の粒子になって消えた。誠二はその場に尻もちをつき、ナイフが道路に落ちて「カラン」と音を立てる。モンスターの姿が完全に消えると、誠二は座り込んだまま笑い声を上げた。


「は、はははは……! やった、やったぞぉ~!」


 彼は腰を抜かしたまま両手を突き上げて喜ぶ。秋斗は苦笑しながら梱包用のベルトを回収した。そしてモンスターの魔石を拾い上げる。魔石はモンスターのサイズと比べるとずいぶん小さいように思えた。


「う~ん、もう少し大きいのを期待したんだけど……」


「アキ、欲張るのはいかんぜ」


「まあ、それもそうだな。で、どうする、もう一体探す?」


「あ、いや、今日はもうお腹いっぱいって感じ」


「じゃ、帰って換金するか」


「おう!」


 そう言って二人はまたバイクにまたがった。ちなみに金属バットはすこし凹んでしまったのだが、「火事場の馬鹿力」ということで誤魔化した。


誠二「もうちょっと小さいのを想定してたんだけど……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローファンタジーらしくなってきた! 読んでてワクワクします。
[一言] 展開と大きさにビビり過ぎてほとんど寄生プレイでしたな。
[一言] おくたま、あそこを抜けると奥多摩です(CV千葉繁) 楽しく読ませてもらっています
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