表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/286

新装備


 秋斗は新しい剣に「竜牙剣」と名付けた。いつまでも「ドラゴンの牙を使った剣」では格好がつかないだろうと思ったのだ。その理論でいくと「ロア・ダイト製の六角棒」にも何か名前が必要になるが、そちらはまだ考えていない。


 竜牙剣の使い勝手を確かめるべく、その対戦相手にウェアウルフを考えた秋斗だったが、さすがに彼もウェアウルフ戦でいきなりこの剣を実戦投入したりはしなかった。まずはもっと弱いモンスターで具合を確かめる。


 純粋に剣として見た場合、竜牙剣の評価は「優秀」と言ったところに落ち着く。良く斬れるし、使い心地も悪くない。長さはちょっと短めだが、その分だけ取り回しが良い。ただ細身なので、耐久力には注意が必要だ。力任せの重い一撃を受けたら、真っ二つに折れてしまうかも知れない。


 竜牙剣の真価が発揮されたのは、そこへ魔力を流したときだ。ロア・ダイト製の六角棒も魔力の流れがスムーズだったが、竜牙剣はそれ以上である。まるで剣そのものが魔力を吸っている、いや喰っているかのようだった。


「これは、凄い……」


 秋斗は思わずそう呟いた。基本的に武器強化や飛翔刃などの武技は、つぎ込んだ魔力量と効果や威力が比例する。もちろんこれだけで決まるわけではないが、より多くの魔力を使えるかどうかは間違いなく重要な要素である。


 そしてその「注ぎ込める魔力の量」というのが、これまでの武器と比べて竜牙剣は桁違いだった。飛びかかってきた一角兎はまるで薄紙のように真っ二つになり、飛翔刃は大木を一撃で両断した。伸閃を使えば、岩をまるでバターのように切り裂ける。滑らかな切断面を見て、秋斗は思わず頬を引きつらせた。


[ミスリルを使ったのが、案外良かったのかも知れないな]


 そんな彼の頭の中で、シキはそう冷静に分析する。もちろんオリハルコンやヒヒイロカネを使った方が、剣そのものとしてのポテンシャルは上がったはずだ。ただミスリルは魔力と親和性が高い。武技を使うための発動体として考えると、案外悪くない選択だったと言えるかも知れない。


 もちろんメリットばかりではない。魔力の通りが良いということは、それだけ魔力の消費量が多いと言うこと。竜牙剣は使う人間を選ぶと言って良く、これは明らかなデメリットだ。ただ秋斗は集気法を使える。集気法を使えば魔力の消費は抑えられるし、またその回復を図ることも可能だ。そして吸収するための魔素はこの世界に満ちあふれている。つまり彼に限れば大きなデメリットはないと言って良い。


[ただし集気法を自在に使えるなら、だがな]


 シキがそう指摘すると、秋斗は苦笑を浮かべた。彼は確かに集気法を使える。ただし自在に使えるかというと、それは怪しい。便利なことは便利だが、「使えないと困る」というレベルで必要にかられてはいなかったので、そこまで扱いに習熟はしていないのだ。だがここへきてそのツケが回ってきた。


「ウェアウルフ戦までにちょっと修行しとくかなぁ……」


 苦笑を浮かべたまま、秋斗はそう呟く。こうして当面の予定が決まった。ただし次の満月までそれほど時間はない。アナザーワールドで寝泊まりすればリアルワールドでの時間はあまり関係ないが、それでも限度というものがある。それで秋斗は負荷をかけることにした。


 秋斗が修行の場所に選んだのは、かつて地下墳墓のクエストが発生したあの小高い山。その斜面を彼は身体強化を駆使して駆け回る。得物は当然竜牙剣で、さらに森避けの腕輪も装備している。そのおかげで移動自体にストレスはない。


 ただしキツい。斜面を駆け回っているのだから当然だ。さらにモンスターも出現する。それらを捌きつつ、足を止めずに秋斗は斜面で動き続ける。魔力はゴリゴリと減っていくが、集気法を駆使して回復したり消費を抑えたりする。そういう修行だ。


「きっつ……」


 滝のように汗を流し、肩で息をしながら、秋斗はそう呟いた。彼は今、一旦山の麓へ降りてきている。休憩のためだ。呼吸が整い、汗が止まるのを待ってから、彼はクリーンの魔法を使って汗の始末をした。


 それから食事の支度をする。メインはドロップ肉のステーキ。ワンパターンだが、シンプルイズザベストだと秋斗は思っている。まあ飽きてきたら品を変えるが。一緒に付け合わせも作り、持ち込んだおにぎりで炭水化物を補充する。キャンプ飯にも、もうずいぶんと慣れたものである。


 食事を終えると、秋斗は仮眠を取る。そのために彼がまずストレージから出したのは、大きなコンテナだった。このコンテナは山岳道路エリアで手に入れたものだ。中身は空でそれは残念だったが、頑丈なコンテナはそれ自体がテントの代わりになる。雨風はともかく、モンスターの襲撃を防ぐという意味で、コンテナの防御力はなかなか魅力的だったのだ。


 そんなわけでこのコンテナを手に入れて以来、秋斗は仮眠の時にこれをテント代わりに使っている。床が硬くて冷たいのが難点だが、毛皮を何枚か敷くことで対応した。出入り口は三体のドールと、それからナイトが固めている。コンテナ自体の防御力と合せ、鉄壁と言って良い。秋斗は安心して寝袋に潜り込み、それから安眠アイマスクを装着するのだった。


 そうやってアナザーワールドで修行すること、およそ二〇〇時間(休憩時間を含む)。集気法の練度はかなり仕上がってきた。また斜面を駆けずり回ったおかげで、足腰と持久力がかなり鍛えられている。もちろんレベルアップもしているはずなので、その分との区別は難しい。だが総合的に見て成長していることを実感できているので、秋斗はあまり気にしていなかった。


 そして、ついに迎えた満月の夜。秋斗は満を持してアナザーワールドへダイブインする。降り立つのはいつもの遺跡エリア。だがそこにいつものヒュージ・スライムはいない。代わりにピリリとした空気がそこを満たしている。秋斗はゆっくりと腰の剣帯に吊した竜牙剣を確かめた。


 ――――ワォォオオオオンン!!


 そして遠吠えが響く。秋斗がそちらへ視線をやると、満月の下にウェアウルフがいる。その姿は相変わらず凶悪だったが、秋斗は落ち着いた様子で竜牙剣を鞘から抜く。そして真っ直ぐにウェアウルフを見据えた。


 彼がウェアウルフと戦うのはこれが初めてではない。対戦回数はすでに十回を超えており、当然ながら全勝している。だから率直に言って、彼にとってウェアウルフは強敵ではあるがすでに見切った相手でもあった。


 ただ今回、彼は自分にある制限を課していた。その制限とは「武器強化以外の武技は使わない」こと。これには身体強化も含まれる。まあ、初めてウェアウルフと戦った時にはまだ身体強化は使えなかったので、これについては厳しいとは言えない条件だ。


 だが「武器強化以外の武技は使わない」となると、つまり浸透攻撃も使わないことになる。これまでのウェアウルフ戦において、彼は主に浸透攻撃を駆使してダメージを与えていた。その浸透攻撃を使わないというのは、かなりのハンデだ。


 もちろん「何がなんでもこの制限を遵守する」というつもりはない。怪我をしそうになったら、身体強化でもなんでも使うつもりだ。ただ今回の趣旨は「竜牙剣の実戦での使い勝手を確かめること」である。こう言ってはなんだが、あまりに簡単に勝ってしまっては意味がないのだ。


「ウゥゥゥゥゥ……!」


 ウェアウルフがうなり声を上げて威嚇する。秋斗は顔色を変えずに竜牙剣を正面に構えた。睨み合うこと数秒。先に動いたのはウェアウルフだった。一直線に間合いを詰めて手刀を繰り出す。秋斗はそれを冷静に回避した。


 まず秋斗はいつも通り回避に専念する。竜牙剣は六角棒やバスタードソードと比べて軽い武器だ。動きを阻害するようなことはない。また足腰を鍛えたおかげか、いつもより身体が動くように感じる。


 彼はスイスイと動いてウェアウルフの攻撃を避けた。そして苛立ったのか、ウェアウルフの攻撃が大振りになったその隙を見逃さず、彼は鋭く踏み込んだ。


「……っ!」


 竜牙剣に魔力を喰わせる。そしてウェアウルフの脇をすり抜けるその瞬間に、伸びきった脇腹へ一閃した。だが秋斗は顔をしかめる。浅かったのだ。ただしこれは竜牙剣のせいではない。彼の踏み込みが浅かったのだ。


「グァアアア!?」


 ダメージを受けたウェアウルフが、大声を上げながら爪を立てて腕を振り回す。秋斗は一旦距離を取った。そして油断なく竜牙剣を構えながら、先ほどの攻撃について簡単な反省会を行う。


 先ほどの攻撃の間合いの取り方や距離の詰め方は、今までに身体に染みついたもの、つまりバスタードソードの間合いが元になっていた。だから竜牙剣で同じ動きをすると、攻撃が浅くなったのだ。


(もっと踏み込まなきゃ、ってことだな……!)


 声には出さず、秋斗はそう呟いた。もちろん、伸閃を使うなりすれば間合いの問題は解決する。だが竜牙剣の使い勝手を実戦で確かめる目的で、いま彼はここにいるのだ。制限を取っ払うにはまだ早いな、と彼は胸の中で付け加えた。


 さて、手負いの獣となったウェアウルフの攻撃は苛烈さを増した。ウェアウルフは四肢と顎を駆使して秋斗を攻め立てる。だが苛烈になればなるほどその攻撃は大味になった。彼はそれを避けつつ、徐々に見切りの精度を高めていく。そしてその動きの中、流れるような滑らかさで彼はまた竜牙剣を一閃した。


 その刃が美しく弧を描く。踏み込みは十分。存分に魔力を喰わせたその刃は、ウェアウルフの左腕を半ばから切り飛ばした。さらにそのまま、秋斗は竜牙剣をウェアウルフの股関節の辺りへ突き刺す。そしてすぐに蹴り飛ばして間合いを開けた。


「グゥゥゥ……!」


 ウェアウルフがうなり声を上げる。左腕を失い、さらに機動力も失った。だが赤々とした両目はまだ死んでいない。それで秋斗も油断することなく竜牙剣を構えた。


「グルァアアアア!!」


 ウェアウルフが雄叫びを上げながら、放たれたように動く。片足だけを使って跳躍したのだ。ただ速度は速いが、動きが直線的。間合いが開いていたこともあって秋斗は余裕を持って回避し……、次の瞬間、顔を強張らせた。


「ガァア!」


 ウェアウルフが吼える。そしてダメージを負ったはずの脚で一度だけ方向転換をする。そして爪を立てて右腕を振るった。


 秋斗は身をかがめ、姿勢を低くして前に出た。ウェアウルフの右腕が頭の上を通り過ぎる。彼は低い位置から竜牙剣を突き出し、そしてウェアウルフの喉を貫いた。


「ガァ……!」


 太く、そして短い悲鳴。ウェアウルフの身体から力が抜け、その体重が一瞬だけ秋斗の腕にかかるが、すぐにその身体は黒い光の粒子になって重みを失った。「ふう」と息を吐き、秋斗は竜牙剣を鞘に収める。魔石と宝箱(黒)をドロップして、ウェアウルフ戦は終わった。


ウェアウルフさん「いつの間にか噛ませイヌになってしまった……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 集気法ついでに筋肉ムキムキなりそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ