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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
アナザーワールド
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石器作り


 迷彩服を着て、改めてアナザーワールドにダイブインした秋斗。今回の目的はマッピングの範囲を広げることでも、近くにある小高い山の頂上を目指すことでもない。石器を作るための素材を確保することである。


 必要な素材は三つ。石と木の棒とロープだ。この内、木の棒はサルのモンスターが使っていたドロップ品があるし、ロープはついさっきホームセンターで買ってきた。それで、実際に確保する必要があるのは石だけだ。


 というわけで、秋斗は石器に使う石を確保するために歩き出した。場所の目星は付いている。マッピング済みの範囲に小川が流れていて、その川辺に大量の石が転がっている場所があるのだ。彼はストレージからスコップを取り出すと、「よしっ」と気合いを入れてから歩き始めた。


 新たな武器としてチョイスしたスコップは、秋斗が想像していた以上に使いやすかった。無論武器として、だ。特にスライム相手に限れば、画期的と言って良い。文字通り掘るようにして魔石をえぐり出してやれば、あっという間に倒すことができた。この先、剣や槍を手に入れたとして、こんなに簡単に倒すことはできないのではないだろうか。秋斗はそう思ってしまった。


「やはりスコップは最終決戦用兵器……」


[その場合、ラスボスはスライムなわけだが]


 シキの突っ込みに肩をすくめ、秋斗は魔石を回収する。スライム叩きは程々にしつつ、彼は遺跡エリアを抜けて小川の川辺を目指す。ちなみにスコップはジャイアントラットや一角兎にも有効だった。杖と比べると多少重いのだが、ステータスが上がっている秋斗からすれば誤差の範囲だ。


 目的地に到着すると、そこには大小様々な石が無数に転がっていた。秋斗はその中から十個ほど適当に拾えば良いのだろうと勝手に考えていたのだが、シキの要求はもう少し踏み込んでいた。


 秋斗はシキに言われるまま、石を割ったり削ったり磨いたりしていく。その内、「せっかくだから石器のナイフくらい作っておこうか」という気分になり、工作気分で石のナイフを作った。結構楽しかったが、「実際に使うのか?」というのは指摘してはいけない問題である。


[アキ、コッチも磨いてくれ]


「了解」


 シキがストレージから差し出した加工済みの石を、秋斗が言われた通りに磨いていく。シキ本人がやれば良いのにとも思うが、「水がないとやりにくいし、ストレージの中に水を入れるのはまだ避けたい」とのことで、研磨は秋斗がやることになった。


[よし。ちょっと待っていてくれ]


 シキにそう言われ、秋斗はそのまま川辺で時間を潰した。小川をのぞき込んでみれば、魚が泳いでいる。スコップを使って仕留めてみたら、黒い光の粒子になって消え、後には魔石だけが残った。


「モンスターなのか……」


 魔石を拾い、ややがっかりとした口調で秋斗はそう呟く。モンスターでなければどうするつもりだったのか。実のところ本人もよく分かっていない。


 さて、そんなこんなしている内に「できたぞ」というシキの声が秋斗の頭の中に響いた。そしてストレージから木製の柄が差し出される。秋斗がそれを掴んで引っ張り出すと、出てきたのは石の手斧だった。


 ビニールロープが使われている点を除けば、「石器時代のもの」と言われても納得してしまいそうな出来だ。秋斗もその手斧を掲げて眺め、「おお」と感嘆の声をこぼした。


「結構しっかりしてるんだな。石の部分とか、全然グラグラしないし」


[曲がりなりにも武器として使おうというのだから、そのあたりはな。それはそうと、使い勝手の確認と素材の調達をかねて、ちょっと近くの木を切り倒してみてくれ]


「あいよ」と答えた秋斗が選んだのは、幹の直径が十センチほどの細い木だった。石の手斧を右手に持つと、彼は「タンッタンッタンッ」とリズミカルに手斧を振るい、三分もかからずに木を切り倒した。


 秋斗の腕力などはステータスアップの恩恵を受けているはずなのだが、手斧にグラついた様子はなくしっかりとしている。これなら武器として問題なく使えるだろう。切り倒した木をストレージに放り込みながら、秋斗はそう思った。


「ところで、作ったのはこれだけなのか?」


[同じサイズの手斧をもう二本作ってある。それから、この木を使って槍を作ってみるつもりだ]


 シキの言葉に秋斗も一つ頷く。メインウェポンはあくまでスコップだが、予備の武器が複数あるに越したことはない。それにこの手斧なら、投擲に使うこともできるだろう。ならばなおのこと、複数あった方が心強い。


 それにしても秋斗の頭の中で響くシキの声は、心なしか弾んでいるように聞こえた。もしかしたらシキにとっても今回の石器作成は楽しい経験だったのかも知れない。本人は「サポートの一環」、つまり仕事だと言うだろうが、それでも相性が良かったり得意だったりする作業はあるはずだ。


(ってことは、シキは生産寄り、なのかな)


 秋斗は心の中でそう呟いた。一口にサポートと言っても、実際にどんな事をするのか、その内容は多岐に及ぶ。マッピングや索敵をするのがサポートなら、戦闘中にバフやデバフをかけるのもサポートだし、こうして何かの道具を作ったりするのも立派なサポートだ。


 石板からの情報によれば、秋斗は経験値を蓄積することでステータスが向上していく、つまり成長していくという。そして探索を始めてからまだそれほど日は経っていないが、それは正しいのだろうと彼は感じていた。


 一方でシキは、本質的に秋斗の能力スキルだ。そうであるなら、秋斗の成長に伴ってシキもまた成長していくのだろう。ストレージの件を考えれば、それは明らかだ。ならばシキの望む方向へ成長していってほしい。秋斗はそう思った。


 まあそれはそれとして。ひとまず石器が完成すると、秋斗は川辺の適当な石に腰掛け、ストレージからおにぎりを取り出して食べ始めた。お茶を飲んで喉を潤し、フェルムの実も食べて口の中をすっきりさせる。少し酸味の強い果実を呑み込んでから、秋斗はふとこう呟いた。


「ところでさ、この川の水って飲めるのかな?」


[……さて、な。現状、わたしのスペックでは判別できん。【鑑定の石板】を使ってみてはどうだ?]


「いや、別にそこまでしなくて良いけどさ。どうしても必要ってわけじゃないし」


 そもそも【鑑定の石板】は基本的に言葉足らずだ。この小川の水をペットボトルに汲んで石板の所まで持っていくことはできるだろう。だがその結果がただ単に「川の水」だったら、鑑定した意味は全くないと言わざるを得ない。


 それに秋斗も言っているとおり、どうしても必要というわけではないのだ。ストレージもあることだし、今のところはリアルワールドからの持ち込みだけで事足りている。今後さらに探索範囲が増え、どうしても水を現地調達しなければならなくなってから、改めて考えれば良かろう。


 また根本的な話として、現代日本で暮らす秋斗からすれば、川の水をそのまま飲むことには抵抗がある。アナザーワールドに寄生虫がいるのかは分からないが、「口にしても大丈夫」という確信が持てない限りは、迂闊な真似はするべきではないだろう。赤ポーションは外傷回復薬なので、おそらく腹痛や病気的な物には効かないだろうし。


[どうしても未鑑定の水を飲まなければならない場合は、煮沸してからの方が良いだろう]


「まあそうだろうな。……ってことは、やかんなんかもストレージに入れておいた方がいいのか?」


[あるに越したことはないだろうが……。『未鑑定の水を飲まなければならない状況』というのが、果たしてあり得るのかどうか]


「だよな」


 シキの言葉に秋斗も頷く。そこまで切羽詰まっているなら、水を沸かす前にさっさとダイブアウトした方が良い。逆にダイブアウトできないような状況なら、呑気に水を沸かしている場合ではないだろう。


「よし。とりあえず生水は飲まない」


[それが安全だな]


 至極まっとうな結論が出たところで、秋斗は休憩を終えて立ち上がった。探索を再開するが、その目的はマッピング範囲を広げることでも、山の頂上を目指すことでもない。石器の使い勝手を、実戦で試してみることだった。


 スコップをストレージに仕舞い、秋斗は作ったばかりの石の手斧を両手に持つ。手斧はスコップと比べるとリーチが短い。そのあたりの使い勝手は注意が必要だろう。秋斗は手斧の重さを確かめるようにしながら、小川から離れてモンスターが現われるのをまった。


 そして待つこと少し。シキが敵の接近を知らせる。現われたのは巨大ダンゴムシだった。丸まった状態で、ゴロゴロと転がりながら、秋斗の方へ突進してくる。大きさもそうだが、コッチのダンゴムシはずいぶんとアクティブだ。


「よっと」


 そんな声を出しながら、秋斗は巨大ダンゴムシの突進をかわす。そしてすれ違いざまに側面を思いっきり蹴り飛ばした。巨大ダンゴムシは横向きに吹っ飛び、その反動で丸まっていた身体が伸びる。秋斗はそこへ石の手斧を振り下ろした。


 ガツンとした手応え。だが石を叩いたかのようではない。それよりはずっと、内側へ打撃が伝わっているような感じがする。その手応えを信じ、秋斗は何度も手斧を巨大ダンゴムシに叩きつけた。


 やがて巨大ダンゴムシは黒い光の粒子になって消えた。魔石の他に、身体を覆っていた物と思しき黒い甲殻がドロップしている。もしかしたらシキが今後使うかも知れないと考え、秋斗はその二つを回収してストレージに放り込んだ。


「ふう」


[お疲れ。手斧の使い勝手はどうだった?]


「悪くなかったぞ。ただ、やっぱりメインはスコップだな。リーチが足りないと、ちょっとやりにくい感じがした」


[ふむ。まあもともとの趣旨は予備の武器を確保しておく事だからな。使えるのならそれで良いだろう]


 シキの声に秋斗も頷く。それから秋斗はもうしばらく手斧の使い勝手を確かめた。そのなかで彼は手斧を使うのに適した動きというものを模索していく。立ち回りというか、細かく動きながら使った方が上手く行くような気がした。


「うん、結構慣れてきた。これならきっと、あのサルのモンスターにも後れはとらない」


 秋斗は自信をのぞかせながらそう言って大きく頷いた。回り道を余儀なくされはしたものの、そのおかげで装備は充実した。次はいよいよあの小高い山に再挑戦である。


ストレージの機能:中で道具を作成できる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何で命がかかってるのに石器? 手斧もナタもホームセンターで3〜4千円で買えるのに、バカなのかな? 水だって2リッター100円なのに多めに準備しないとか頭が弱そう
[一言] ひのきの棒を使うとなった時に、物干し竿かスコップでいいじゃん、と思ったらしっかりスコップが出てきて笑った。 リアル如意棒物干し竿様は果たして出てくるのか……。
[気になる点] 普通の高校生が死にそうな経験したらトラウマとかになると思うのでそういう描写を入れてくれたらもっとリアリティがあったと思います。あと何故サルに襲われそうになったときにダイブアウトしなかっ…
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