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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
Alice in the No Man's Wonderland
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山岳道路エリア4


 五月の半ば過ぎ。秋斗は再び山岳道路エリアに来ていた。しかも今回はバイクを持ち込んでいる。例の展望台でバイクをストレージに収納する際、誰かに見られやしないかとヒヤヒヤしたが、相変わらず彼以外には誰もいなかったのでその心配は必要なかった。


「んじゃ、行くか」


 ストレージからバイクを取り出し、舗装された道路の上を走る。他のエリアと比べると、たいそう走りやすい。少し走らせると、進路上にオークの姿が見えた。秋斗はバイクのハンドルから右手を離す。そしてストレージを開き、そこから得物を取り出した。槍である。彼はバイク上で槍を構え、一呼吸置いてから鋭く突いた。


 オークとの間合いはずいぶん離れている。だがオークは胸の真ん中を貫かれてひっくり返った。そして倒れたオークのすぐ脇をバイクが通り過ぎる。数メートル行ったところで秋斗はバイクを止めた。


 秋斗の視線の先で、倒れたオークがそのまま黒い光の粒子になって消えていく。それを見て彼は「よしっ」と呟いた。


 今の戦闘、彼は武技を使った。「刺突」という、「突きの間合いを伸ばす武技」だ。元は剣術武芸書に載っていた片手剣用の武技なのだが、「槍でも使えそう」と思って試してみたところ本当に使えたのだ。


 もちろん、今回初めて実戦で使ったわけではない。事前に他のエリアで練習を重ねている。むしろ実戦でオークにも通用すると思ったからこそ、こうして山岳道路エリアにリベンジすることにしたのだ。


「悪くないな。十分やれそうだ」


[バイクの片手放しは危ないんだが……]


 シキがそんな心配をしながら、ストレージを操作してオークの魔石を回収する。秋斗はそれを確認してからまたバイクを発進させた。ちなみにいちいち出し入れするのが面倒だったので、槍は出しっぱなし。ヘルメットも被っていないので、「どこの世紀末からやって来た!?」という感じだ。まあ、それを指摘してくれる人はいないわけだが。


 その後も秋斗は順調にバイクを走らせた。道を塞ぐ様にして現われるオーク達は、バイクに乗ったまま倒していく。武技を使うことが多かったが、槍を振り回して倒すこともあった。オークを倒すことよりバイクの制御の方が大変だったのは、ある意味では当然かも知れない。


 さてそうやってバイクを走らせ、秋斗はあのサービスエリア的な場所、つまりオーク達の根城に戻ってきた。前回と同じく、そちらへ向かう道路には塁が造られ、見張りのオーク達がそこを守っている。


「お~、いるいる。じゃ、作戦開始だな」


 秋斗はオーク達がまだ気付いていない場所でバイクを止めた。そして装備を変える。バイクと槍はストレージに片付け、代わりに隱行のポンチョとシミターを取り出した。


 ちなみにシミターは納品クエストの報酬で手に入れた。若干そりのある片刃の片手剣で、刃渡りはショートソードより少し長いくらい。これからの作戦上、バスタードソードよりこちらの方が良いだろうと思ってのチョイスだった。


「……んで、あとはコレだな」


 そう言って秋斗が取り出したのは森避けの腕輪だった。事前に一度試してあるが、この腕輪の力は本物である。あまりに鬱蒼としているとさすがに力負けするようだったが、この腕輪をつけていると、未開の森でも移動がかなり楽になる。この腕輪があったので今回の作戦を思いついた、と言っても過言では無い。


 装備を変更すると、秋斗はシミターで道路脇の藪を払い、斜面の道なき道を進む。前回は正面突破したが、今回は道路脇の斜面を移動しての奇襲作戦である。森避けの腕輪のおかげで移動に問題は無いし、斜面には木々が茂っているので姿を隠すにはちょうど良い。隱行のポンチョも装備しているので、彼の側から何かしない限り気付かれることはないだろう。


 ただ斜面は結構急勾配で、そこを移動するのはなかなか大変だ。それを彼はレベルアップした身体能力で乗り越えた。彼は小走りで斜面を移動し、オークらの拠点の裏へ回る。するとシキの索敵に反応があった。


[斜面に反応多数。あとはやはり、駐車場の方にも結構いるな]


「俯瞰図に出してくれ」


 秋斗がそう頼むと、彼の視界に俯瞰図が表示され、さらにそこへ赤いドットが点灯する。シキの言うとおり、斜面側にも敵を示す赤いドットがあった。前回と同様なコイツらは弓兵オーク。前回はコイツらのせいで撤退を余儀なくされた。それで今回はまずコイツらから倒してしまおう、という作戦だった。


 息をひそめながらゆっくりと、秋斗はオークらに近づく。すでに軽く石を投げれば届くような距離だが、隱行のポンチョの効果もあってオークらに気付いた様子はない。彼は一度、静かに深呼吸をした。それからシミターを鞘に戻し、ストレージから弓を取り出し矢をつがえる。そして一番近くにいるオークの頭に狙いを定めた。


「……っ!」


 秋斗が矢を放つと、オークは後頭部を貫かれて前のめりに倒れた。それを見てオーク達が動揺して騒ぎ始める。だがまだ秋斗には気付いていない。彼はすかさず第二射を放ち、さらにもう一体のオークを倒した。


「ブォ!」


「ブォォォ!」


「ブォ! ブォ!」


 オーク達が秋斗に気付く。そしてそれぞれが弓を引いた。だが矢が放たれる前に秋斗が動く。弓をストレージに片付けると、一気に斜面を駆け下りて一体のオークとの間合いを詰める。そしてシミターを鞘から走らせて一閃し、そのオークの首を刎ねた。


「よしっ」


 秋斗は笑みを浮かべて小さく歓声を上げた。今、彼は武技を使ってオークを倒したのだ。「伸閃」という、「斬撃の間合いを伸ばす武技」だ。刺突と同じく、剣術武芸書に書かれていた武技である。


 実は秋斗がオークを倒した時、シミターの刃はオークの首に届いていない。だが武技のおかげで間合いが伸び、敵を倒すことができたのだ。要するに魔力でできた刃で敵を斬ったのである。


 身体強化も駆使しながら、秋斗は急勾配の斜面を動き回る。そして伸閃を駆使しながらオークを次々に斬り伏せていった。オークたちは弓を放って応戦するが、彼は生え並ぶ木々を上手く使って的を絞らせない。だが敵の戦力は斜面にいる分だけではない。


[駐車場の方から増援だ]


 シキからの報告を受け、秋斗は俯瞰図の方を見た。すると確かに、駐車場の方から赤いドットが一塊になって斜面の方へ向かってきている。彼は実際にその様子を見て確認すると、近くの木の陰に身を隠した。動きを止めた彼目掛けて矢が放たれるが、全て木に当たって彼には当たらない。


 木の陰で秋斗は魔石を取り出した。そしてそこへ思念を込める。アリスからは「原始的な魔法じゃ」と酷評されたが、彼にしてみれば役に立つのだから使わない理由はない。彼は十分に思念を込めた魔石を、斜面を登ってくるオークの一団へ投げつけた。


 一拍置いて、けたたましい放電音が響く。同時に紫電が広がってオークたちを焼いた。一塊になっていたオークたちは格好の獲物だ。オークたちは悲鳴を上げて動きを止める。バランスを崩して転げ落ちたオークもいて、そういうヤツがさらに二次被害を出すことで混乱に拍車がかかっていた。


 そうやって増援を一時的に無力化してから、秋斗はまたシミターを握って弓兵オークを狩っていく。伸閃はシンプルな武技だが、それだけに使い勝手が良い。彼は次々にオークを斬り伏せた。


「ブォォォオオ!」


「ブォォォオ! ブォ! ブォ!」


「ブォォォ!」


 オークたちが苛立たしげに叫ぶ。得物が弓ではないから、増援組らしい。雷魔法をくらって身体が重いのか、それともこの急勾配がきついのか、オークたちの動きは鈍い。そして軽々と動く秋斗へ殺意の籠もった視線を向けている。まあ、モンスターなのだから殺意をたぎらせているのはある意味で当然だが。


 斜面を登ってくるオークたちの先頭に、秋斗はシミターを振るって武技を叩き込む。伸閃ではない。飛翔刃という、「斬撃を飛ばす武技」だ。これも剣術武芸書に書かれていた武技である。


「ブォ!?」


 集団の先頭にいたオークが飛翔刃に切り裂かれて悲鳴を上げる。一撃では倒せなかったようだが、秋斗は構わずにシミターを何度も振るい、そのたびに飛翔刃を放った。乱発しているように見えるが、実は集気法も使っているので、魔力の消費はそれほどでもない。


 高い位置から一方的に放たれる攻撃のために、オークたちの足が止まった。その瞬間、秋斗は一気に斜面を駆け下りてオークの一団の中へ突っ込んだ。そしてシミターを振るって伸閃を放ちつつ、足は止めずにそのまま駆け抜ける。彼の後ろではオーク達がバラバラになり、そのまま黒い光の粒子になって消えた。


「……っとと」


 斜面を駆け下りた秋斗は、そのまま駐車場へたたらを踏むようにして足を踏み入れた。駐車場に面した斜面に、敵の反応はもうない。駐車場にはまだオークが残っているが、これで後ろから矢を射かけられる心配はなくなったわけだ。だがまだ一番の強敵が残っている。


「ブォォォォオオオオ!!」


 ひときわ大きな雄叫びが響く。空気がビリビリと震える中、秋斗はそちらへ視線を向けた。そこにいたのは他より頭一つ大きいオーク。筋肉隆々で胸板も厚い。だが最も目を引くのはその得物だ。


 そのオークの得物は大剣である。それもマンガやアニメでしかお目にかかれないようなサイズの大剣である。分厚く、そして幅が広い。モーメントがヤバいことになっていそうな大剣だ。アレを振り回せると言うだけで、オークの怪力具合を察せられるというものだ。


「掴まったらバラバラにされっちまうな」


[バラバラというか、グチャグチャにされそうだな]


「グロい……」


 秋斗とシキがそう軽口を叩く。まあ、大剣を持っているのだからわざわざ掴まえようとするとは思わないが。いずれにしてもこのオークが強敵であることに間違いはない。だが秋斗は臆さない。


 大剣を肩に担ぐようにして持ちながら、オークは秋斗に敵意と殺意の籠もった視線を向ける。彼はその視線を迎え撃ちながら、いつでも動けるように体勢を整える。睨み合ったのは数秒。オークが大剣の切っ先を彼に向けて雄叫びを上げる。同時に動き始めた。


オークさん「デブに山登りはキツい!?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 伸閃さん!こっちにもいたのか!
[良い点] 対策取っていくとぜんぜん違いますね [一言] 魔力汚染により荒廃したリアルワールド そこに舞い降りる熟練のヒャッハー…
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