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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
Alice in the No Man's Wonderland
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山岳道路エリア3


 槍でオークを一体倒した後、秋斗は次のオークをバスタードソードで倒した。彼は得物を振り回すオークの攻撃を悠々とかいくぐって懐に入り込み、脇腹を一閃。さらにそのまま背後へ回り込み、背中から心臓を一突きして敵を倒した。


 槍を使った場合と比べ、どちらがより楽だったかは甲乙つけがたい。ただ秋斗は、バスタードソードは鞘に片付け、ストレージから槍を取り出してそれを握った。槍の方が得意だから、というわけではない。武器は二つ以上装備しておいた方が、片方が失われた場合でも対応しやすいと思ったのだ。


 その後、秋斗は主に槍を駆使してオークを討伐していった。二体以上の場合は雷魔法も使う。今のところ、現われるオークは全て軽装だ。防具らしい防具は身につけておらず、攻撃が防がれてしまうということはほぼない。彼は危なげない戦い振りで順調に歩を進めた。


 休憩を挟みつつ、探索を開始してからおよそ三時間が経ったころ、一本道だった道路に変化が現われた。脇へ逸れる上り道が現われたのだ。ただし、分かれ道というわけではなさそうである。その道を見て、秋斗はこう呟いた。


「サービスエリアか、あるいはパーキングエリア、かな?」


[行ってみれば分かるだろう]


「まあ、そうか。何かあるといいけど」


 秋斗はやや苦笑気味にそう呟いた。ここまで約三時間歩いてきたが、道路の上には不自然なほどに何もない。廃墟や世紀末っぽい感じを出したいなら、車や車の残骸などを適当に配置しておくべきではないのか。それをしないのは、どうも“運営側”の手抜きに思われた。ここまでの実入りが少なくて愚痴をこぼす彼に、しかしシキはこう話す。


[もしかしたら、ゴブリンの時と同じかもしれんぞ]


「ゴブリン? 百貨店エリアのことか?」


[うむ。“宝物庫”があっただろう?]


「……つまりオークが回収して一カ所に集めている、ってことか?」


[可能性はある]


 シキの言葉に秋斗も頷く。実際にオークが回収しているのか、それともそういう設定なのかは別として、アレコレが一カ所にまとめられている可能性は確かにあるように思える。すると今さっき見つけたこの上り道が、まったく違うモノに見えてきた。


「この先に、あるかな?」


[さて、な。行ってみれば分かるだろう]


 シキの言葉に、秋斗は唾を飲み込みながら一つ頷く。そして槍を握り直してから、上り道のほうへ向かって歩き始めた。


 歩き始めてすぐ、秋斗は上り坂の途中に見張りがいることに気付く。数は二。しかもただ立っているわけではなく、石を積み上げて高さが一メートルほどの塁が築かれている。それを見て彼は「おっ」という顔をした。


 見張りがいて、さらに塁まで築いているということは、この先に拠点があると言うことだ。そして拠点であれば、何か価値のあるアイテムがある可能性も高い。


[気をつけろ。拠点ならば数がいる。これまでのように一体や二体というわけではないだろう]


 シキの警告に秋斗は頷く。そして左手に魔石を握り、姿勢を低くしながら小走りになって坂を駆け上っていく。見張りのオークは警戒をさぼっていたわけではないらしい。すぐに秋斗に気付き、塁の向こう側から弓矢を射かけた。


 秋斗はジグザグに走りながら飛んでくる矢をかわす。そして思念を込めた魔石を放り投げた。放電音が響き、紫電が二体のオークを焼く。矢が止まると、彼は一気に駆け出した。紫電が消えるタイミングを見計らい、身体強化も使って大きく跳躍する。彼が着地したのはちょうど塁の上だった。


「はぁ!」


 秋斗は槍を突き出し、まず右側にいたオークの喉に槍をねじ込む。槍は抜かずにそのまま手放し、彼は次にバスタードソードの柄を握る。鞘走らせて抜剣すれば、刃の軌跡は弧を描く。その一閃で彼は二体目のオークの首を飛ばした。


「よしっ」


 笑みを浮かべて、秋斗は一つ頷いた。バスタードソードは鞘に収め、塁から飛び降りて槍を拾う。その間にシキがドロップを回収していた。戦果を詳しく聞くことはしない。戦闘の音を聞きつけて、別のオークたちが姿を見せている。


 魔石を取り出そうとし、しかし弓を持ったオークの姿を見て秋斗は手を止める。そして一気に駆け出した。飛んでくる矢を槍で払いのけながら、彼は駆ける。素早く間合いを詰め、三射目が放たれる前にそのオークを倒した。


 だがその間にも他のオークが続々と集まってくる。こうなるともう隱行のポンチョの効果は期待できない。秋斗は一つ舌打ちして駆け出した。彼は群がってくるオークをかいくぐって先を急いだ。


「これは……!」


 坂を上りきると、秋斗は思わず声を上げた。そこにあったのは本当にサービス(もしくはパーキング)エリアのような場所で、しかも車のようなオブジェクトが幾つも並べられている。まるで駐車場のようだが、過密状態で、どうやら本当にオークたちがここへ集めたようだ。ただ、のんびりと物色している余裕はない。


「ブォォ!」


「ブゥブゥ!」


「ブォオオオ!」


 オークたちの怒号が飛び交う。オークたちは目を血走らせて秋斗に殺到した。彼の後ろからも、かいくぐって来たオークたちが追ってくる。彼は視界に俯瞰図を表示させ、赤いドットが少ない方へ駆け出した。立ち塞がるオークは手早く叩き伏せる。ただし、倒せたかどうかは分からない。


「シキ、回収できるか!?」


[二十秒、いや十五秒くれ!]


 シキのオーダーに秋斗は一つ頷く。彼はまず走りながら魔石を握った。そして回収するべきオブジェクトに目星をつけ、それを背にしてオークたちを迎え撃つ。雷魔法を発動させて敵を足止めし、別方向から来たオークの心臓をカウンターで貫く。それでも彼の表情は険しい。


(やりづらい……!)


 秋斗は眉間にシワを寄せた。ストレージを操作して物品を回収できる範囲は、実はそれほど広くない。つまりシキがオーダーした十五秒間、彼はほぼ足を止めて戦う必要があるのだ。それも巨体で力自慢のオークを相手に。


 これまでに多量の経験値を溜め込んできたし、身体強化も使える。だからオークが相手であっても、秋斗が力負けすることはそうそうない。だが彼はオークと比べて身体が小さく体重も軽い。囲まれたり持ち上げられたりしてしまうと、一気にピンチに陥ることも考えられる。それを警戒して足を止めないようにしていたのだが、小回りと機動力をいかせないとやりづらくて仕方がなかった。


(倒さなくていい。触れさせるな……!)


 秋斗の視線がスッと鋭くなる。彼は滑らかな足さばきで、まるで風にそよぐ柳のように動いた。オークの腕を紙一重でかわし、逆に足を打って転ばせる。槍の穂先をきらめかせてオークたちを牽制し、それでも踏み込んで来た命知らずには石突きを使って浸透打撃を叩き込む。盛大に血を吐いて倒れた仲間を見て、オークたちは一瞬おののいた。


[よし。良いぞ、アキ!]


 オブジェクトの回収を終えたシキが秋斗に合図する。もちろんこの場にある車のようなオブジェクトを全て回収したわけではない。むしろほんの一部だ。だが秋斗はすぐにその場を離脱する。多数のオークが集まりすぎたのだ。しかもそこへ毛色の違うオークが一体、近づいて来る。


「でっけぇ……!」


 やや顔を引きつらせながら、秋斗はそう呟いた。そのオークは他のオークと比べ、頭一つ分身体が大きい。だが大きいのは身体だけではなく、得物も大きかった。マンガやアニメ、ゲームなどでしか見たことのない、そのまま盾にできそうなほど幅の広い大剣を持っている。


 その大剣に比べたら、秋斗のバスタードソードなどまるで小枝のようだ。それでも一対一なら勝つ自信はある。だが多数のお供が一緒だと分が悪いといわざるを得ない。まず数を減らす算段を彼は頭の中で立て始めた。


「ブォォォォオオオオ!!」


 離脱を始めた秋斗を見て、そのオークは雄叫びを上げる。そして同時に大剣を掲げた。秋斗は最初味方を鼓舞するための行為だと思ったのだが、しかし実際のところそれは合図だった。駐車場に面したのり面、そこに茂る木々の間から無数の矢が放たれたのだ。


「げぇ!?」


 まるで銀色の雨のように降り注ぐ無数の矢を見て、秋斗は思わず声を上げた。同時にシキがストレージを操作して、彼に当たる分の矢を防ぐ。その後も矢は絶え間なく放たれるが、ずっとストレージで防いでいるわけにはいかない。例の大剣を持ったオークが、猛然と接近してきているからだ。


[アキ、あっちだ!]


 シキが秋斗の視界にアイコンを表示させて示したのは、駐車場の外れにあるコンクリートの平屋だった。もちろん廃墟だが、ともかく建物の中に入れば矢は防げる。また敵の数は彼が思っていた以上に多い。秋斗はすぐに駆け出した。


 身体強化を使って車のようなオブジェクトを飛び越え、槍を振り回して飛来する矢を防ぐ。チラリと後ろを振り返れば、例のオークが苛立った様子でオブジェクトを力任せに放り投げてくる。狙いは大きく外れていたが、その怪力に彼はまた顔を引きつらせた。


 秋斗は建物の中に駆け込んだ。矢が飛んでくることはなくなったが、しかし一安心とはいかない。なんと建物のなかに火のついたたいまつが投げ込まれたのだ。たいまつは十数本も投げ込まれ、建物の中はすぐに煙で一杯になった。


「ゴホッゴホッ、くそっ……!」


 涙目になって咳き込みながら、秋斗は悪態をつく。だが状況は悪くなるばかりだ。窓が開いているとは言え、建物の中はどんどん煙たくなる。さらに建物の外からは例のオークの声も聞こえてきた。やむなく、秋斗は槍をストレージに片付ける。そして叫んだ。


「ダイブアウト!」


 次の瞬間、秋斗の視界が切り替わる。彼は展望台の端っこにいた。煙たくない空気を大きく吸い込み、彼は安堵の息を吐くのだった。


秋斗「バル○ン焚かれた……!」

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[一言] 松明をストレージに入れれば煙たくない
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