正義の雪ダルマン
恐怖のダルメシアンがあまりに悪さをするので、正義の雪ダルマンが遂に駆り出された。
「こらあっ! おまえら、それ以上の悪さは、このボクが許さないぞ!」
そう言いながらどんどん大きくなる雪ダルマンを見て、恐怖のダルメシアン達はこぞって押し寄せた。もちろん101匹いる。
小さな庭はわんこの足跡だらけの雪景色。ママと小さな娘が観戦しながら、縁側でお餅を食べながら、笑う。
恐怖のダルメシアンの攻撃!
その前脚に押されて、あまりの重さと鋭い爪で、
「わあっ!」
声を上げながら雪ダルマンは粉々になった。
「また作り直さなきゃなぁ……」
雪ダルマンの着ぐるみを剥がされて、尻餅をついたお父さんが頭を掻く。恐怖のダルメシアンは分身していたのを仕舞い、わずか1頭にまとまると、ふざけるようにお父さんをも押し倒した。
「雪ダルマン、よわーい」
3歳の娘が足をバタバタさせて喜んだ。
「正義の味方のくせにー」
「正義は最後には必ず勝つんだぞっ」
お父さんは娘に言い聞かせるようにウィンクすると、生身で恐怖のダルメシアンに立ち向かう。これが最後の戦いだ。
「さあ、来いっ!」
「はふぉんっ!」
ダルメシアンが大きなくしゃみをした。
「はあーふぁしゃっ!」
お父さんも同じぐらい大きなくしゃみをした。
「あらあら」
お母さんが呆れた笑いで2人に言う。
「そろそろ中に入らないと風邪引くわよ。あったかいお雑煮とスペシャルドッグフードあるから、早く入っておいで」
正義の雪ダルマンと恐怖のダルメシアンの戦いは、こうして終わった。決着はつかなかった。3歳の娘をケラケラ笑わせただけだった。
「あしたはあたしが雪ダルマンつくるー」
娘がお父さんとダルメシアンに挟まれながら、2人の戦士の身体を、小さな手で交互に揺らす。
「よし! 大きなのを作れよー?
正義の力を見せてやれ」
お父さんはお雑煮を頂きながら、頼もしそうに娘を見つめる。
「ふんっ!」
恐怖のダルメシアンはスペシャルドッグフードを頂きながら、鼻で笑った。
この戦いは、この冬、雪が溶けるまで続くことだろう。