無額嚢節のフーガ
死人が白い屍衣をまかれ、
閉じられた棺桶に一つの石灰岩が落とされる
(うっかりした墓堀り人夫の所作によって)
それはまるで指揮棒を叩く様な音をたてて静まり返る・・
その終の木箱が
厳粛で冷血な土壌深くに埋められた時、
大衆向けでない演奏が開始されるのだ。
まず、重苦しい8小節の休符の後に、
墓堀り人夫が仕事を終え、
スコップで墓石を打つ人生最後の打楽器を鳴らす。
その後、再び16小節の休符・・
あるいはフェルマータ・・
やがて、勿体ぶった足取りで
最初に棺桶を訪れるマエストロが棺桶蠅だ。
この虚ろな目の双翅目は、土を這い進み、
静かに不快な音をたて、
対位法的に腐肉を土壌に解体していく。
それがフーガなのだ!!
冷酷で冷淡な蛆虫達の反行フーガにより、
税金から解放された死は解体されていく。
蛆虫は死人に第一の提示部を提唱する。
「わかったかい?」
死者は答える。
「ああ・・・」
死人は思考しないが、時間を反行させ、
なぜか、かつて海で見た
大量の海鳥の糞を思い出す・・
「ああ、我らの肉体は糞化石だ!!
人生とは、
けたたましく啼く海鳥の糞であった!!」
無額嚢の紳士は言う。
「だが肉体とは霊の芽胞の様なものだ。
一時の仮の姿、仮の思考と魂から
無重力の数式へと命は解放される。
楽譜など休符でその残滓を留めるに過ぎない」
棺桶の奏者達の解体作業は
アシュケナージの様な派手さはないが、
笑いを知らぬ道化師のそれで
鮮やかに遂行される。
この作品の追迫部が訪れる時、死者はもう答えない。
神の答えを知った死人は
もう何も語る必要が無いのだ。
こうして土壌の納骨堂は再び沈黙する。
死に音楽はつきまとうが、
それは常に歪な無音により解決し、終止する。
無額嚢の指揮者は去る。
指揮者は長き付き合いの友を振り返らない。
死人が白い屍衣をまかれ、
閉じられた棺桶に一つの石灰岩が落とされる
(うっかりした墓堀り人夫の所作によって)
それはまるで指揮棒を叩く様な音をたてて静まり返る・・
その終の木箱が
厳粛で冷血な土壌深くに埋められた時、
大衆向けでない演奏が再び開始されるのだ。
まず、重苦しい8小節の休符の後に、
墓堀り人夫が仕事を終え、
スコップで墓石を打つ人生最後の打楽器を鳴らす。
その後、再び16小節の休符・・
あるいはフェルマータ・・
ああ!!
この世はフーガだ!!
何度も生と死を模倣し、
その肉の声に世界は応唱し、対唱する。
我々の主題に救いはないが、
主題は幾層にも重ねられ、冷酷に散りばめられ、
反復され、乱雑に扱われ、無慈悲に殺され、
やがていつの間にか、
その繰り返される代償は、
永遠の救いを提唱している。