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八百万 怨念  作者: マー・TY
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65.暴走する話

 9階に続く階段の踊り場で、里桜と朱莉は休憩していた。

 下からの煙が、もうここまて昇ってきていた。

 2人は煙を吸わないよう、身を屈める。


「想大丈夫かな?」

 

「大丈夫やろ。想は賢いし、何とかするで。それより今は、この火やね」


 朱莉は難しそうな顔をする。


「恭也達を何とかでけたとしても、はよ助けが来なきゃ焼け死ぬよ。安全なところ見つけるしかないで」


「そっか…。結局消防車とか待つしかないのか……」


 里桜はチラリと下の景色を見た。

 生い茂った植物やゴミ等が燃料となっているのか、完全に火の海と化していた。

 雪村達も、もう助からないだろう。

 規模としては隠神市内過去最大級の火事となっている筈だが、消防車が来ている様子は無かった。

 何にしても、この規模では救助は困難を極めるだろう。

 里桜がこの状況に半ば絶望しているのを余所に、朱莉はスマホとトランシーバーを動かしていた。


「……想、出ないなぁ」


「朱莉……」


「里桜、10階に移動するで。ちょっと危ないかもやけど、部屋に立て籠もってた方が安全かも……」


「そうだね……」


 万桜のことが気になりつつ、里桜は首を縦に振る。

 丁度その時、階段を登る音がした。

 想が上がってきたのかと思ったが、一定間隔でガリッガリッと、何かで壁を削るような音が聞こえてくる。

 それが2人の危機感を煽った。


「朱莉!」


「うん、行くで!」


 里桜と朱莉は一気に階段を駆け上がった。

 しかし10階の廊下に着いたところで、2人は足を止めた。


「ッ……!!?」


「里桜、あれって……」


 10階の廊下には血の痕が続いてた。

 そしてその奥に、黒い煙が留まっていた。

 しかし目を凝らすと、その中心に塞ぎ込んでいる少女の姿が見えた。


「万桜!」


「ちょっと待って!」


 朱莉の静止を振り切り、里桜は思わず駆け寄った。

 すると声に反応したのだろうか。万桜は素早く顔を上げた。


【あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――!!!!!!!】


 里桜の姿を捉えたからなのか、万桜は叫び声を上げた。

 空気が揺れる程の衝撃に、里桜と朱莉は気圧される。

 万桜は再び煙の塊となったと思うと、猛スピードで動き始めた。

 四方八方を飛び、廊下の壁に何度も激突していく。

 里桜と朱莉は屈んで身を守るのに必死だった。


「万桜………!」


 そんな中、里桜はずっと万桜のことを見つめていた。

 暴走はそう長くは続かなかった。

 万桜はだんだんスピードを落としていく。

 そして最後に天井に激突した後、床に落下した。

 煙が晴れていき、姿がはっきり見えるようになった万桜は、うつ伏せに倒れた状態で息を荒らげていた。

 

「万桜!」


「止まった……?」


 里桜は起き上がると、万桜に駆け寄ろうとした。

 朱莉もそれに続こうとする。

 しかしその時、背後から殺気を感じた。

 朱莉は咄嗟に身を転がす。

 今し方屈んでいた場所に、ナイフが突き立てられていた。


「ッ!!?」


 この急襲に、流石に里桜も足を止める。

 ナイフを突き立てたのは、恭也だった。


「チィッ!!!」


 一撃で仕留められなかったことに苛ついたのか、恭也は滅茶苦茶にナイフを振り回す。

 朱莉はその範囲から抜け出し、里桜の近くまで逃げた。


「恭也、もうここまで……」


「想はアカンかったんか?あの血、もしかして想のやつ?ていうか、何か様子おかしいな……」


 返り血を浴びたのか、真っ赤になった恭也は、ゆっくりとこちらに向かって来る。

 彼もまた、万桜のように余裕が無くなっていた。

 明らかに話が通じる雰囲気ではない。

 ただ、里桜と朱莉を殺すためだけに動いているようだ。

 

「あと2人、お前達だけだ……。早く死ね……」


 恭也は2人を睨みつけ、ナイフを構えた。


「里桜、こっち!」


 朱莉がすぐ横にあった部屋のドアを開ける。

 里桜は少し迷った後、その部屋に飛び込んだ。

 そして恭也の凶刃が届く前に、すぐ部屋のドアを閉めた。

 この程度で諦めるわけもなく、恭也は迷わずそのドアを開けようとした。


「あっ……」


 視線の端に、万桜が居ることに気づく。

 恭也やドアから離れ、倒れている万桜と元へと駆け寄った。


「万桜!万桜!万桜!!どうしたの!?苦しいの!?」


 半ば正気に戻りながらも、万桜の冷たい身体を抱き寄せた。


【里…桜………】


 焦点の定まらない目で万桜は呟く。

 万桜の言葉を聞くのは好きだ。

 しかし、万桜の口から自分ではなく里桜の名が出たことで、恭也は再び苛立ちを覚えた。

 自分はここまで尽くしているのに、こんな状況になっても万桜の目には里桜しか映っていない。


「……万桜、待っててね。あいつらすぐに殺してくるから」


 恭也は優しく万桜を寝かせると、里桜達が逃げ込んだ部屋へと歩いていった。

 

【里………桜…………】


 万桜の視線が、いつの間にか自身の背中に向けられていることに、恭也は気づいていなかった。

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