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八百万 怨念  作者: マー・TY
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64.思いの話

 6階では、想が知基の体を拾い集めていた。

 煙が落としていったのは、首だけではない。

 足や腕が、廊下中に散らばっていた。


「想、手伝おか?」


「いいです。僕の手でやりたいので……」


 想は背を向けたまま、朱莉の申し出を断る。

 所々足りない部分はあったものの、落ちた全ての体を集めるのに時間は掛からなかった。

 想は廊下の奥に、それらを積み重ねた。

 ここには花や食べ物も無ければ、土すら無い。

 埋葬してやりたかったが、今やれることはこれが精一杯だった。

 

「……せめて、これだけは持ち帰りましょう」


 想は一つのスマホを見つめると、ポケットに仕舞った。

 それは知基のものだった。


「すみません。お待たせしました……」


「……知基は、あれでええん?」


「はい。薄情と言われそうですが、今は連れて行けるような状況ではないので……。」


「そっか……。……里桜?」


 朱莉が声をかけるまで、里桜は上の階に続く階段を見つめていた。

 

「里桜?」


「……あぁ、ごめん。ボーッとしてた」


「……気になっとるんやろ?さっきの煙、万桜やんな?」


「……」


 できることなら、このまま追いかけて行きたかった。

 だが、下が燃えているうえ、恭也や魚沼の存在も無視できない。

 朱莉と想、華絵のことも無視できなかった。

 悔しいが、自分勝手な行動は避けなければならない。

 早く行こう。

 そう言いかけた時だった。


「薄情だなぁ。白川さんのこと、追いかけなかったんだね」


 呆れ返った声が聞こえてきた。

 5階へ続く階段の踊り場に恭也が立っており、不機嫌そうにこちらを見上げていた。

 再び緊張が走った。


「恭也……まさか、華絵のことも……」


「いや、白川さんは僕が殺したんじゃない。焼死だよ」


「焼死……まさか……!!?」


 里桜達は最悪の事態を想像した。

 恭也はニヤリと笑う。


「このマンション、2階がもう火の海だよ」


 嫌な想像は当たってしまった。

 下の火が強くなっており、2階まで到達してしまっているのだろう。

 3人の顔色は悪くなった。


「もう3階辺りも燃えてるかもね。全員ここで焼け死ぬのも、時間の問題だよ」


「そないなこと言うてる場合なん?このままじゃアンタも死ぬかもしれへんのやで!?」


「だから?」


 恭也は首を傾げた。

 正気に見えないその目に、朱莉はたじろぐ。


「僕は万桜に命を賭けてるんだ。万桜のためだったら、僕は命だって惜しくない。君はどうなんだろうねぇ、九重さん」


 恭也はニヤつきながら、里桜に問うた。

 里桜もまた、一歩下がってしまう。

 それ程の迫力が、恭也にはあった。


「逃げましょう。上へ!」


「うっ……うん…!」


「せやな!」


 このままでは危険と判断し、3人は逃げることにした。

 里桜と朱莉を先に逃し、想はその後に続く。

 しかし、彼にとってその行動が命取りとなった。


“ガシッ”


「ッ!!!?」


 気絶していた筈の魚沼が、想の足を掴んでいた。


「くっ…!」


「にっ……逃さないんだねぇ!」


 想は引き剥がそうとするが、魚沼の力は異様に強い。

 その手は離れなかった。


「想!」


「里桜さん、朱莉さん!先へ行ってください!」


「だけど…!」


「すぐに追いつきますから……!」


「ッ……!里桜、行くで!」


「……ごめん!」


 里桜と朱莉は、言われた通り階段を駆け上がって行った。

 想は笑ってそれを見送る。

 2人と並行するように、恭也が階段を上がってきた。


「あ〜あ。行かせて良かったの?3人で掛かってれば、勝てるかもしれなかったのに」


「……君なら無力化しても、一人くらいは道連れにしそうですからね。これ以上、誰かが殺されるよりはマシです」


「その一人が君なら、何も変わらないよ!」


 恭也は持っていたナイフを振り上げ、襲いかかった。

 そんな瞬間でも、想は冷静だった。

 素早く懐中電灯を取り出すと、点灯して恭也の目に向けた。


「うっ!」


 恭也の目が眩み、ナイフが空を切った。

 想はその瞬間を狙っていた。

 追い打ちのように懐中電灯を頭にぶつけると、今度はスタンガンを取り出す。

 スイッチを押すと、その電撃を恭也の頭に食らわせた。


「がっ…がぐぁああああああああああああ―――――!!!」


 電撃をモロに受けた恭也は、白目を剥いてその場に倒れた。

 想は肩で呼吸をしながら、その瞬間を静かに見守った。


「はぁ……はぁ……」


「あらら?恭也死んじゃったかもねぇ。人殺しになっちゃった気分はどんなものかね〜?」


「……こうでもしなければ、彼は止まらなかったでしょう。僕はどんな罰でも受けるつもりです。あなたもその手、離してもらいますよ。2人に追いつくと言ってあるので」


 魚沼も殺せば、脅威は火以外無くなる。

 そうなれば、後は助けを待つのみだろう。

 想は魚沼にもスタンガンを浴びせようとした。

 しかし、スタンガンを持つ腕が思いっきり切り裂かれた。


「ぐっ……!!!」


 腕から鮮血が飛ぶ。

 あまりの痛みに、スタンガンを落としてしまう。

 想が目を向けた先で、恭也がゆっくりと起き上がっていた。


「嘘……でしょう……?」


「まだ、死ね…るか……!」


 直前に頭に電撃を受けたとは思えないような動きで、恭也は想の胸にナイフを突き立てた。


「ぐふっ……!」


 想は血を吐くと、ゆっくりと倒れる。

 その間に、走馬灯のようなものが頭の中を過ぎっては消えていった。


(知基……。遺品だけでも持ち帰ると決めた手前だというのに…。互いに……、別れの言葉すら言えないとは……。死とは、ここまで唐突なのですね……)


 知基と過ごした日々を思い返しながら、想の意識は薄れていった。

 恭也は想の胸に刺さったナイフを引き抜く。

 傷口からは、未だに血がドクドクと溢れて出ていた。


「ぜぇ……ぜぇ………」


「最近の若い子は凄いねぇ。だけど、流石に無事じゃなさそうだねぇ」


「うるさい……。僕にはまだ、やることがあるんだ…」


「おじさんも手を貸そうかねぇ?」


 魚沼はゆっくりと立ち上がろうとした。

 だが、それを恭也は赦さなかった。

 恭也は魚沼に馬乗りになると、背中を何度もナイフで刺し始めた。


「ぐばっ!?ぐぼっ!?げほっ!!」


 ナイフを引き抜く度に、恭也は血飛沫を浴びる。

 魚沼はただ、血を吐きながら刺突を受け続けるしかなかった。

 いったい何度刺しただろう。

 恭也がやめた頃には魚沼は絶命しており、廊下は血塗れになっていた。


「あと2人だ。……あと2人……。殺す……殺す……」


 恭也はブツブツと呟きながら、階段を上がっていった。

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