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八百万 怨念  作者: マー・TY
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63.生首の話

 十海人の悲鳴は上の階まで響いていた。

 それが晶子を探す里作達を焦らせた。


「今度は何なのよ!?」


「今のって……」


「十海人の声やな……」


「さっきの通信通り上がってきていたみたいですね。しかし今の悲鳴………。知基も心配です」


 4人は階段を降りて行き、8階に着いた。

 恭也達が待ち伏せている可能性もある上、晶子が動けなくなっている可能性もあるため、迂闊に進めなかった。

 しかし、今は知基達の方が心配だ。

 次の階に下りようとした時、一つの部屋のドアが開いた。

 途端に空気が変わる。

 4人はその部屋に注目した。

 

「おやおや〜♪グッドタイミングだねぇ〜」


 その部屋から、血を浴びた魚沼が顔を出した。

 4人の間に戦慄が走る。

 勇気を持って朱莉が口を出した。


「アンタ、その血どないしてん?」


「あ〜、この返り血ねぇ!これ切る時に浴びちゃったんだよねぇ!」


 魚沼は手に持っていたものを見せた。

 それは晶子の首だった。


「きゃぁあああああああああああああああ!!!!」


 華絵が悲鳴を上げる。

 里桜達もまた、後退る。

 白目を剥く晶子の首から、ポタポタと血が垂れていた。


「まだ飾り付けが終わってないんだけどねぇ。未完成だけどそれでも見るかねぇ?」


「ふざけんな!乃愛をあないにしたのもオノレか!?」


「おぉ、あれを見てくれたんだねぇ!それは光栄なんだよねぇ!」


 魚沼は照れくさそうに頭を掻いた。

 乃愛や晶子を殺したことに、何の負い目を感じていない。

 今にも殴り掛かりそうな勢いの朱莉を、里桜が抑えた。


「朱莉、乗らない方がいいよ」


「……せやな」


「逃げますよ。華絵さん、行きましょう」


「……」


 4人は互いに頷いた。

 それから、華絵、朱莉、里桜、想の順で階段を駆け下りた。


「あぁ!待ってねぇ待ってねぇ!そうやってすぐに行かれると悲しいんだよねぇ!」


 魚沼は部屋に戻り、晶子の首を置くと、道具とリュックを持って急いで部屋を出た。

 作品は逃げないが素材は逃げる。

 様々な活造りや盛り付けをしたいと思っていた魚沼は必死だった。

 歳に似合わぬ足の速さで、一気に階段を駆け下りた。

 7階をすっ飛ばし、6階に足を踏み入れた。

 その時―――――――。


“バリバリ!!”


「ッ!!?」


 階段の陰に、朱莉が待ち伏せていた。

 その手に持っていたスタンガンを、躊躇無く魚沼の脇腹にねじ込んだ。


「ぐぉおおおおおおアアアアアアアアアアアア!!!」


 電気で痺れた魚沼は、断末魔を上げた。

 スタンガンを離されると、ヨロヨロと千鳥足で廊下を歩き、倒れた。

 手に持っていたナイフと肉叩きも落ちる。

 朱莉と、6階の廊下で待機していた里桜が魚沼に近寄った。

 

「死んだ?」


「いや、流石に警察がそんな威力のもの渡すわけあらへんやろ。痺れて動けないだけやって……」


「じゃあ早く逃げた方がいいか。想、華絵大丈夫そう?」


「あまり大丈夫では無さそうです……」


 想は廊下で華絵を介抱していた。

 里桜は華絵のことが気がかりだった。

 短時間で2人の友達の死体を目にしたのだ。

 キツイことを言った手前、罪悪感もあった。


「次は私だ……次は私だ…………」


 華絵はブツブツとそんなことを呟いている。

 既に精神が壊れ始めているのかもしれない。


「外の火も強まっとるし、コイツがいつ起きるか解らへんし…。はよ逃げた方がええやろ。想、華絵は大丈夫そう?」


「そうですね……。華絵さん、辛いと思いますが行きますよ」


 想は何とか華絵を起き上がらせた。

 丁度その時……。

 2人の真横に、突如黒い煙の塊が現れた。


「ッ…!!?」


「想!華絵!」


 朱莉が叫び声を上げる。

 

「あれ……万桜が出してた……」


 里桜はその煙を見て固まっていた。

 危機感を覚えた想は、華絵を連れて歩を早めた。

 煙がゆっくり迫ってくる。

 それに気づいた想は、持っていた御守りを煙に向けた。


【―――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!】


 言葉にならない悲鳴が響き渡った。

 煙は右往左往に飛び回り、壁にぶつかっては分散し、再び塊となってを繰り返す。

 その際に、廊下にボトボトと何かを落とし始めた。

 里桜達が落ちた物に注目する間に、煙は上の階へと飛んでいった。

 

「何ですか……?これ……」


 落ちた物の一つが、想と華絵の足元に転がってくる。

 その正体を知った瞬間、想はショックを受け、その場に崩れ落ちた。

 それは、知基の生首だった。


「知……基………?」


「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 喉が張り裂けんばかりの悲鳴を、華絵は上げる。

 完全にパニックに陥った彼女は、覚束ない足取りで走り出す。

 そのまま里桜と朱莉を突き飛ばし、下の階へと駆け下りていった。

 残された3人は、ただ呆然としていた。


「知基……」


 想は力無い声で、生気の無い目でこちらを見つめる親友の名を呟いた。




 度重なる悲鳴で、恭也は足を止めていた。

 残りのクラスメイトはすぐ近くに居る。

 しかも油断ならない相手ばかりだ。

 そのため一度冷静を取り戻していた。


「今どうなってるのかな……」


 監視カメラを見ようと、恭也はスマホを取り出した。

 その時だった。

 

「いや!いやぁ!!!あぁああああああああああ!!!」


 上の階から叫び声が聞こえてきて、だんだん近づいてくる。

 その主である華絵は、バランスを崩して階段を転げ落ちてきた。

 

「うわっ、驚いたな……」


 どんな人間でも、階段から転げ落ちたら一溜まりもない筈だ。

 しかし生命の危機からなのか、華絵はすぐに起き上がり、恭也の横を通り抜け、再び下の階へと発狂しながら逃げていった。


「あの気高い白川さんが、あんなになるとはね…」


 恭也は呆れつつ、華絵の後を追った。

 あのまま見失いでもしたら、それはそれで厄介だった。

 元居た4階から、一気に3階を駆け下り、2階に到達しようとした。


「ッ!!?」


 恭也は足を止めた。

 2階の廊下は、既に火で包まれていた。


「いやぉああああ!熱い!熱いぃいいぃ!!!」


 気づかずに踏み入ってしまった華絵が、火の海の中心で藻掻き苦しんでいた。

 火だるまになり、発狂しながら踊っているようにも見える。


「……そうか。そういう運命か」


 2階の惨状を目の当たりにして、恭也はもう自分は逃げられないことを悟った。

 まもなくこの廃マンションは、全体が火で包まれることだろう。

 老朽化に加え、死体もある分よく燃える筈だ。

 苦しみ続ける華絵は声すら上げなくなり、やがて火の海の中に倒れた。

 それを見た恭也は、改めて自分の死について考え始めていた。

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