60.活造りの話
「想!華絵!よかった!無事みたいやな!」
「ヒッ!?」
「朱莉さん…。ご無事で何よりです」
マンション内を走り回っているうちに、朱莉は階段の踊り場にしゃがみ込む華絵と、周囲の様子を伺う想の2人と再開した。
「なんだアンタか……びっくりさせないでよ!」
「ごめんて。ところで知基と十海人は?一緒とちゃうん?」
「知基は十海人君を追いかけていったっきりですね……。連絡取ってみますか……」
想はトランシーバーを取り出すと、チャンネルを合わせた。
「こちら市松想です。知基、聞こえますか?どうぞ」
『こちら野坂知基。想、聞こえてるよ。どうぞ』
トランシーバーから知基の声が聞こえてくる。
声色からして無事そうだ。
「知基、今どこに居ますか?どうぞ」
『廃マンションの傍に十海人君と隠れてる。想は?どうぞ』
「僕は現在マンション5階の踊り場で、華絵さん、朱莉さんと3人で居ます。どうぞ」
『そうなんだ。あの、さっき、一応外に居る警察に連絡してみたんだけど、火が激しくて上手く近づけないみたいなんだ。どうぞ』
「厳しいですね…。朱莉さん、雪村さんはどうなりましたか?」
「雪村さんは……多分……もう…」
「そう…ですか………」
想の表情が曇る。
守ってくれる筈だった警官達の手を借りることもできない。
自分達で何とかするしかない。
朱莉も想も悟った。
「……あっ、そういえばさっき、上から里桜の声聞こえたなぁ。雪村さんの名前呼んだした……、今自由なんちゃう?」
「そうですね……。僕達はこのまま上の階を目指すことにします。知基達はどうしますか?どうぞ」
『再開できた方がいいかもだし、僕達もマンションに入るよ。どうぞ』
「解りました。それではまた後で合流しましょう。無理をしないように」
『うん』
知基との通信はそこで終わった。
トランシーバーを仕舞うと、想、朱莉、華絵の3人は階段を上がっていく。
エレベーターもあったようだが、今は機能していない。
一段ずつ上がっていくのは流石にしんどく、最上階である10階に着いた頃には、3人共少し息が上がっていた。
「はぁ…。しんどいなこれ……。……おっ、里桜?」
「ッ……!朱莉!」
廊下に出ていた里桜と晶子が3人に気づく。
仲間に会えたことで安心し、お互いに駆け寄った。
「2人共怪我してへん!?」
「一応大丈夫。来てくれてありがとう、朱莉、想、それと、華絵だっけ」
「ご無事で何よりです」
「アンタ、私の名前うろ覚えだったわけ……?」
「華絵、来てくれたんだ。正直、ちょっとだけだけど、見捨てられるかと思ってた……」
「うるさいわね!来るに決まってるでしょ!ていうか晶子、乃愛は!?」
「あっ……」
乃愛の名前が出たところで、里桜と晶子は顔を見合わせる。
その表情は暗い。
「なっ…何よ……」
「乃愛は、ずっと前に恭也の仲間の男に連れて行かれた。それっきり会ってない」
「嘘でしょ?……もしかしてさっきのキショいおやじに?だったらもう……」
「ちょい待ちや、まだ殺されたって決まった訳じゃ……」
女子達が言い合いをしている中で、想は廊下中を見渡した。
空気を吸いながら、ゆっくりと歩を進める。
進むに連れて、僅かだが異臭があった。
そして想は、最も異臭がきついドアの前で止まった。
「想、どないしてん?」
「この部屋、何かあります」
想の行動が気になり、女子達が集まる。
彼女らも異臭を嗅ぎつけ、顔を顰めた。
「何なの?何か臭くない?」
「嘘…。何で気づかなかったんだろ……」
「この部屋、アタシ達が閉じ込められてた部屋に近い。もしかしたら………」
魚沼が真面目に見張りに徹していたのなら、待機場所は近かい方が都合が良い。
里桜は彼が活造りに挑戦しよう等と言っていたことを思い出す。
最悪の考えが頭に浮かんだ。
「……入りましょう」
想は全員からの総意を受けると、ドアを開けた。
中を懐中電灯で照らす。
幸いというべきか、人の気配は感じられなかった。
想を先頭に、里桜、朱莉、華絵、晶子の順で進んでいく。
リビングに着くまで、そこまで時間は掛からなかった。
そこには、想像を絶する光景が広がっていた。
「うっ……!!!」
「何や…これ……?」
「きゃぁああああ!!!」
壁や床、窓ガラスに飛び散った血。
その中心にあったのは、かつて乃愛だったものだった。
仰向けにされ、腹部の肉が綺麗にくり抜かれ、内蔵が見える状態となっている胴体。
傍には抜かれた肉が、茶碗の蓋のように添えられている。
腰の辺りに置かれた、切り落とされた脚。
それから、肩のところに切り落とされた腕があり、何かを掬うような形になっている両手の平に、目を閉じた乃愛の首が乗せられている。
そんな死体を囲うように、乃愛が生前に来ていたであろう服が粉々の状態で散らされていた。
魚ではなく、活造り。
変わり果てた乃愛の姿に、5人は戦慄した。
「うぷっ……」
「うっ…うぇえええ!」
晶子が口を抑えて走り去り、華絵はその場で嘔吐する。
里桜と朱莉は固まってしまっていた。
「こんなん……人のすることじゃ無いやろ……」
「乃愛………」
「……心苦しいですが、ここを出ましょう……。その方がいいです……」
なんとか冷静さを保つ想が、全員を諭す。
皆、大人しくそれに従った。
最後に里桜が、リビングの方を振り返る。
「行かないで」。
乃愛がそう言っているような気がした。




