表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万 怨念  作者: マー・TY
62/70

60.活造りの話

「想!華絵!よかった!無事みたいやな!」


「ヒッ!?」


「朱莉さん…。ご無事で何よりです」


 マンション内を走り回っているうちに、朱莉は階段の踊り場にしゃがみ込む華絵と、周囲の様子を伺う想の2人と再開した。

 

「なんだアンタか……びっくりさせないでよ!」


「ごめんて。ところで知基と十海人は?一緒とちゃうん?」


「知基は十海人君を追いかけていったっきりですね……。連絡取ってみますか……」


 想はトランシーバーを取り出すと、チャンネルを合わせた。


「こちら市松想です。知基、聞こえますか?どうぞ」


『こちら野坂知基。想、聞こえてるよ。どうぞ』


 トランシーバーから知基の声が聞こえてくる。

 声色からして無事そうだ。


「知基、今どこに居ますか?どうぞ」


『廃マンションの傍に十海人君と隠れてる。想は?どうぞ』


「僕は現在マンション5階の踊り場で、華絵さん、朱莉さんと3人で居ます。どうぞ」


『そうなんだ。あの、さっき、一応外に居る警察に連絡してみたんだけど、火が激しくて上手く近づけないみたいなんだ。どうぞ』


「厳しいですね…。朱莉さん、雪村さんはどうなりましたか?」


「雪村さんは……多分……もう…」


「そう…ですか………」


 想の表情が曇る。

 守ってくれる筈だった警官達の手を借りることもできない。

 自分達で何とかするしかない。

 朱莉も想も悟った。


「……あっ、そういえばさっき、上から里桜の声聞こえたなぁ。雪村さんの名前呼んだした……、今自由なんちゃう?」


「そうですね……。僕達はこのまま上の階を目指すことにします。知基達はどうしますか?どうぞ」


『再開できた方がいいかもだし、僕達もマンションに入るよ。どうぞ』


「解りました。それではまた後で合流しましょう。無理をしないように」


『うん』


 知基との通信はそこで終わった。

 トランシーバーを仕舞うと、想、朱莉、華絵の3人は階段を上がっていく。

 エレベーターもあったようだが、今は機能していない。

 一段ずつ上がっていくのは流石にしんどく、最上階である10階に着いた頃には、3人共少し息が上がっていた。


「はぁ…。しんどいなこれ……。……おっ、里桜?」


「ッ……!朱莉!」


 廊下に出ていた里桜と晶子が3人に気づく。

 仲間に会えたことで安心し、お互いに駆け寄った。


「2人共怪我してへん!?」


「一応大丈夫。来てくれてありがとう、朱莉、想、それと、華絵だっけ」


「ご無事で何よりです」


「アンタ、私の名前うろ覚えだったわけ……?」


「華絵、来てくれたんだ。正直、ちょっとだけだけど、見捨てられるかと思ってた……」


「うるさいわね!来るに決まってるでしょ!ていうか晶子、乃愛は!?」


「あっ……」


 乃愛の名前が出たところで、里桜と晶子は顔を見合わせる。

 その表情は暗い。


「なっ…何よ……」


「乃愛は、ずっと前に恭也の仲間の男に連れて行かれた。それっきり会ってない」


「嘘でしょ?……もしかしてさっきのキショいおやじに?だったらもう……」


「ちょい待ちや、まだ殺されたって決まった訳じゃ……」


 女子達が言い合いをしている中で、想は廊下中を見渡した。

 空気を吸いながら、ゆっくりと歩を進める。

 進むに連れて、僅かだが異臭があった。

 そして想は、最も異臭がきついドアの前で止まった。


「想、どないしてん?」


「この部屋、何かあります」


 想の行動が気になり、女子達が集まる。

 彼女らも異臭を嗅ぎつけ、顔を顰めた。


「何なの?何か臭くない?」


「嘘…。何で気づかなかったんだろ……」


「この部屋、アタシ達が閉じ込められてた部屋に近い。もしかしたら………」


 魚沼が真面目に見張りに徹していたのなら、待機場所は近かい方が都合が良い。

 里桜は彼が活造りに挑戦しよう等と言っていたことを思い出す。

 最悪の考えが頭に浮かんだ。


「……入りましょう」


 想は全員からの総意を受けると、ドアを開けた。

 中を懐中電灯で照らす。

 幸いというべきか、人の気配は感じられなかった。

 想を先頭に、里桜、朱莉、華絵、晶子の順で進んでいく。

 リビングに着くまで、そこまで時間は掛からなかった。

 そこには、想像を絶する光景が広がっていた。


「うっ……!!!」


「何や…これ……?」


「きゃぁああああ!!!」


 壁や床、窓ガラスに飛び散った血。

 その中心にあったのは、かつて乃愛だったものだった。

 仰向けにされ、腹部の肉が綺麗にくり抜かれ、内蔵が見える状態となっている胴体。

 傍には抜かれた肉が、茶碗の蓋のように添えられている。

 腰の辺りに置かれた、切り落とされた脚。

 それから、肩のところに切り落とされた腕があり、何かを掬うような形になっている両手の平に、目を閉じた乃愛の首が乗せられている。

 そんな死体を囲うように、乃愛が生前に来ていたであろう服が粉々の状態で散らされていた。

 魚ではなく、活造り。

 変わり果てた乃愛の姿に、5人は戦慄した。


「うぷっ……」


「うっ…うぇえええ!」


 晶子が口を抑えて走り去り、華絵はその場で嘔吐する。

 里桜と朱莉は固まってしまっていた。


「こんなん……人のすることじゃ無いやろ……」


「乃愛………」


「……心苦しいですが、ここを出ましょう……。その方がいいです……」


 なんとか冷静さを保つ想が、全員を諭す。

 皆、大人しくそれに従った。

 最後に里桜が、リビングの方を振り返る。

 「行かないで」。

 乃愛がそう言っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ