59.掌握する話
魚沼が暴走し、徹が死に、恭也も離れた今、見張る者は誰も居なくなった。
外からの気配を感じなくなった里桜は、脱出のために動いていた。
口を使って、晶子の手の縄を解こうと奮闘する。
「ちょっ、よだれ垂らさないでよ!汚い!」
「ぐぎぎ……うるさいなぁ!けっこう固いんだよこれ!」
口で固い縄を解くのは簡単ではない。
里桜の顎も悲鳴を上げようとしていた。
しかし今はこの方法しか考えられなかった。
(早くしないと……。何か爆発みたいなの聞こえたし……!)
何もしなければこのまま殺されるだろう。
強引に縄を噛んだり引っ張ったりを繰り返す。
そうしているうちに、どんどん縄が緩んでいった。
「むぐっ?」
「何?どうしたの?」
「もう解けそう!」
「マジ!?」
緩んだ縄を、里桜は一気に引っ張る。
晶子自身の手の動きも手伝い、そこから拘束は簡単に解かれた。
「解けた!」
「よしっ。晶子、アタシのも!」
「もちろん!」
今度は晶子が里桜の手の拘束を解きに掛かる。
多少は手こずったものの、縄を外すのにそう時間は掛からなかった。
その後2人はそれぞれ足の拘束を解いた。
そしてようやく2人は自由の身となった。
「はぁ…。なんか久々に立った気がするわ…」
「確かにちょっと体痛いかも。でも早く逃げないと。朱莉達来てんのかな?」
里桜はベランダの方に目を付ける。
鍵は掛かっておらず、スライドさせると簡単に開いた。
辺りは暗く、見えるのは遠くの建物の灯りだけ。
人の気配は感じられなかった。
「暗すぎ……。何も解んない……ッ!!?」
ベランダから外を眺めていると、突然強風が吹いた。
それと同時に、不気味な気配を感じる。
一瞬全身が震え上がった。
思わず目を逸らした時には、また今まで通りの空気が流れていた。
「……何今の?」
「ね、ねぇ……どうかした?」
心配した晶子がベランダに顔を出した。
「……いや、何でもない。ていうか、ここからじゃ何も解んないよ」
「そう……。じゃあやっぱり自分達で何とかするしか無さそうね……」
2人はベランダから戻ると、玄関の方を見た。
里桜を先頭に、ゆっくりと歩く。
玄関まで来たところで、里桜がノブを回す。
それから、勢いよくドアを開けた。
先に出た里桜が、廊下の様子を素早く確認する。
人の姿は見えなかった。
「いいよ晶子。誰も居ない」
「そ、そう?」
晶子も恐る恐る外に出た。
「恭也達も居なさそうね…。ていうか、なんか明るくない」
「確かに。下?」
2人は下の様子を見た。
そして驚愕する。
おそらく道があったであろう場所が、炎で塞がれていた。
瓦礫が飛び散り、電柱が倒れ、さらに燃え上がっている。
「何なのよこれ…。何で燃えてるのよ!?」
「やっぱりさっきの爆発が原因?早く逃げないとヤバいかも……」
「ねぇあれ!人倒れてない!?」
「えっ!?」
里桜は晶子が指差す方に注目する。
火の灯りに照らされて、地面に倒れている4人の男の姿がはっきり見えた。
一人は頭部からいろいろなものが飛び出ている。
一人は首があり得ない方向に曲がっている。
一人は頭から血を流して倒れている。
そして、残りの一人は背中が穴だらけの状態で血溜まりの中心に居た。
そのうつ伏せに倒れている男の横顔を、里桜は知っていた。
「あれ……雪村さんだ……!」
「雪村さん?」
「警察。特務課の人。アタシ達にいろいろアドバイスくれた……。死んでないよね……?…ッ…!!……雪村さん!!!」
居ても立っても居られなくなり、里桜は叫ぶ。
しかし雪村は、指先ひとつ動かす様子は無かった。
その頃、恭也はスマホを見つつ、適当に入った部屋の壁に寄り掛かっていた。
画面に映っているのは、このマンション内の映像。
1画面だけ暗転していたが、他は外の様子や廊下、室内を映し出していた。
今から確実に全員殺す。
戦いを制するには、地形を把握しておくことが重要だ。
そう考えた恭也は、マンション内とその周辺に監視カメラと、奇襲目的に爆弾を仕掛けたのだ。
もはや、ここら一帯の状況は恭也が掌握していると言っても過言ではない。
里桜と晶子が拘束を解いたことも、魚沼が雪村達を強襲したことも、朱莉達5人がバラバラに行動していることも把握済みだ。
「警察3人は流石に死んだよね。道も塞いだし、簡単に脱出はできない筈。さてと……じわじわ嬲り殺していくとしようかな」
恭也はカメラを確認しつつ、画面を爆弾の起爆ボタンに移す。
残りの爆弾の数も限られており、道を塞ぐのに使ったものと比べると破壊力は弱い。
思い通りに行くほど事は甘くはないようだ。
「誰か通らないかなぁ………。………ん?」
恭也はある一つの画面に注目した。
マンションの外を映すそのカメラに、黒い煙のようなものが通り過ぎるのが見えた。
「もしかして………万桜……!?」
恭也はベランダに出て、万桜が居た筈の部屋を見上げた。
その部屋は既に、もぬけの殻だ。




