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八百万 怨念  作者: マー・TY
59/70

57.突入する話

 時刻は午後8時50分。

 恭也が指定した時間となった。

 幽霊団地の前には、朱莉、想、知基、華絵、十海人の5人。

 それから、雪村とその他10人の警官が集まっていた。


「もうじきやね」


 朱莉は団地を見上げたまま、背後に立つ雪村に語りかけた。


「そうですね。……今のうちに、動きをおさらいしておきましょうか」


「せやな。ほらみんな、最終確認始まるで」


 朱莉は他の4人に声を掛ける。

 互いに勇気付け合う想と知基。

 落ち着かない様子でキョロキョロしている華絵。

 特務課から支給された御守りに何やら念を送っている十海人。

 各々自分らしく過ごしていたが、朱莉の呼びかけに従った。

 雪村は5人の顔をしっかり見ながら口を開く。


「皆さんには、これから里桜さん、晶子さん、乃愛さんの救出及び、矢野口恭也確保の協力をしていただきます。皆さんは一緒に幽霊団地を探索してください。僕達警察は少数で後を追います。里桜さん達を発見したら保護を、矢野口恭也と遭遇次第、自衛の方をお願いします。お次に、持ち物の確認をしましょう。渡した物は全てありますか?」


 朱莉は上着のポケットから、懐中電灯、トランシーバー、スタンガン、御守りを取り出した。

 他の4人も、それぞれ取り出しやすい箇所に仕舞っているようだった。


「まずは懐中電灯。足元を照らしながら進んでください。建物の整備がされていないので充分気をつけてください。それから、正直何が起こるか解りません。そんな状況で一番マズイのははぐれてしまうことです。トランシーバーははぐれてしまった場合に、スタンガンは自衛のために使ってください」


 トランシーバーは現在地の確認として。

 スタンガンは対人戦に使える。

 このスタンガンで恭也を痺れさせてボコボコにしてやろう。

 朱莉は心の中でそう意気込んだ。


「そして最後に御守りです。これは万桜さんと遭遇した際に使用してください。撃退できなくとも、逃走のための時間稼ぎにはなるでしょう」


「フフフ、これで除霊が可能……。悪くないなぁ」


 手の中の御守りを見つめながら、何やらブツブツと呟く十海人。

 そんな彼に触れることなく、雪村は締めに入った。


「最終確認は以上になります。最後に…、何か不明な点はありますか?」


 5人は無言で「問題なし」という意思を見せた。

 雪村の腕時計が、丁度午後9時を指した。


「……もう時間ですね」


「せやな。もう行く?」


「そうですね。……それでは皆さんお気を付けて。無理をしないように……」


「よ〜し!みんな行くで!」


 朱莉を先頭に、残り4人が幽霊団地に入っていく。

 華絵だけしぶしぶといった雰囲気だった。

 

「それでは、梶さん、岩尾さん、行きましょう」


 雪村は近くに居た2人の警官にそう言った。

 梶と呼ばれた少し強面の警官に、岩尾と呼ばれた眼鏡の警官。

 その2人は雪村と共に、朱莉達の後をこっそりと追い始めた。




「……9時になったね」


 廃マンションの廊下でスマホで時間を確認した恭也は、顔を上げて呟く。

 それから、目の前に居る徹と魚沼と顔を見合わせた。


「ムフフ、そうだねぇ!そうだねぇ!やっと始まったねぇ!」


「うん、始まったよ。魚沼さんが楽しみにしてた虐殺パーティーが。行っておいでよ」


「フフフ!フフフフフ!それじゃあお言葉に甘えて、行ってくるからねぇ!」


「気をつけてね」


 歳に似合わず子供のようにはしゃぐ魚沼は、足取り軽やかに廊下を走って行った。

 その後ろ姿を見送った恭也は、徹に視線を向ける。

 先程から挙動不審にしていた彼は、ビクリと反応して後退った。


「なに怖がってんの?」


「えっ……?いっ、いや、別に、怖がって……なんか…、」


「怖がってるじゃん」


 恭也は無表情で歩み寄った。

 徹は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。

 

「ここまで関わっておいて今更怖がるなんてね。情けないなぁ」


「だ…だだだだって、……き、君が……脅すから………」


「あーそうか。そうだよね。やっぱり僕達のせいだよね〜。……まぁでも、君の応えが積極的なものだったら、ちょっとは変わったかな……」


「えっ………ぐっ…!!!?」


 徹は腹部に痛みを感じた。

 恐る恐るその箇所に目をやる。

 徹の腹に、恭也がナイフを突き刺していた。

 暗さの関係もあるのか、刺された部分が黒く染まっていく。


「あっ……えっ……?」


「……」


 徹が反応する前に、恭也は刺したナイフを思いっきり横に引いた。

 肉が引き裂かれる音と共に、多量の血液が吹き出した。

 返り血が恭也の服や顔を濡らす。


「えっ……えぇっ?」


 不意を突かれたせいなのか、徹は痛みよりも困惑の方が強いようで、狼狽える。

 それでも恭也は容赦しない。

 素早く徹の首を掴むと、廊下の手すりの方へと押し付けた。

 徹はもう少しで落下するという状態となった。


「うあ……ああああああああああああああああ!!!!」


 ここにきて、徹はようやく悲鳴を上げた。

 しかし、それも恭也の耳には届かない。


「君が万桜のために動いたって言ってたなら、もう少し利用したのに。まぁ、結局君も殺す予定だったし、反抗的なら生かしたままだと害になり得るし。だから、君にはここで退場してもらうよ」


「まっ………待っ……て……」


「じゃあね」


 恭也は無情にそう言い放つと、ゆっくり徹の頭を外へとずらしていく。

 徹の後頭部が完全に遥か下の地面を向いた。

 恭也は徹の首を掴んでいた手を足へと移動させると、一気に上げて離した。

 その瞬間、徹の姿消える。

 叫び声が上がり、どんどん遠退いていったかと思うと、“グシャッ”という鈍い音と同時にそれは止んだ。

 変わり果てた徹の姿を確認することなく、恭也は廊下を歩く。

 万桜が居る部屋の前まで来ると、迷いなく中に入る。


「万桜、始まったよ」


 恭也の呼びかけに反応し、何もない部屋の真ん中で塞ぎ込んでいた万桜は、顔を上げる。

 その表情には、苦しさが見られた。


【恭……也………?】


「今日で皆死ぬ。万桜の願いが、やっと果たされようとしてるんだよ」


【私ノ……ねガ…い?】


 万桜は苦痛に耐えつつ、やっとの思いで言葉を振り絞る。


「うん。憎くて憎くて仕方がないあいつらが、今日この瞬間全員地獄に堕ちるんだ。あっ、万桜は休んでてね。ていうか、寝ていた方がいいと思うよ。大丈夫。起きた頃には全部終わってるから」


【きョ……ウや…………】


「ふふっ。苦しい筈なのに、僕の名前を呼んでくれるんだ?嬉しいよ!それじゃあ、後は僕に任せて!あいつら全員ぶっ殺してくるからさ!また来るよ!」


 恭也は一方的に意気込みを伝えると、部屋から出て行った。

 残された万桜は、息を切らしながら立とうとする。

 しかし体が思うように動かず、その場に崩れ落ちてしまった。


【うっ……ウうう……】


 手、脚、首、顔。

 万桜の体が黒ずんでいく。

 意識も遠のく。

 思考がままならなくなっている。

 周囲を漂う黒い煙の量は、過去最大となっていた。

 

【リ…………お………………!】


 必死に絞り出した親友の名前を呼んだ後、万桜は床に倒れた。

 漂っていた煙が、万桜を覆っていく。

 そしてそれが晴れた頃には、万桜の姿は無くなっていた。

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