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八百万 怨念  作者: マー・TY
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50.結末への話

「知基、これは届きましたか?」


『うん想君。届いたよ』


 午後5時頃。

 スマホ越しに、想と知基は白い布製の小袋を見せ合った。

 2人は現在スマホのビデオ通話機能で会話している。

 最近はよくそうしていた。


『“御守り”っていうんだよね、これ。他の皆にも配ってるのかな?』


「配っていると思いますよ。特務課の方々の話が本当ならば、この袋の中の石の力で霊にダメージを与えられると…。不思議な石があったものですね」


『まぁ、持ってた方がいいんじゃない?何だか安心するし』


「ですね。そんなことより明後日、どうしますか?」


『あぁ、徹君のLINEの件だね?』

 

 この現状から解放されるため、明後日の21時に幽霊団地に集まろうという、徹からのメッセージ。

 2人にも、しっかりと届いていた。


『本当に解放されるのかな?正直、僕には徹君がそんな力を持ってるとは思えないよ』


「同感です。真意もよく解りませんからね。爆発事件の犯人、徹君の可能性が出てきませんか?僕達を幽霊団地に誘い込んで爆殺しようとしているとか。罠としか思えません』


『確かに。だけど……何か気になるんだよな~』


「知基?」


 想の首筋を冷たい汗が伝った。

 嫌な予感がした。

 知基は好奇心旺盛な性格をしており、探究心も深い。

 この見え見えなトラップにも、自ら引っ掛かりに行くのではないだろうか。


「知基、一旦保留にしませんか?」


『え?あぁ、いいよ。そんなに待つ余裕もないと思うけど』


 知基は少し不満そうに首を掻く。

 不本意だが、解ってくれたようだ。

 知基程ではないにしても、想もまた気になっていた。

 徹が今、何を考えているのかを。




 同じ頃、里桜は自室に閉じ籠もり、ベッドに座って少し早めの夕食を摂っていた。

 コンビニで買ってきたメロンパンとコーヒー牛乳。

 おやつ程度の量だが、それでも充分だった。

 今は食欲が湧かないのだ。


「……」

 

 ただ無言で齧り、飲む。

 丁度メロンパンを食べ終えた頃、電話が掛かってきた。

 誰かと思いつつ、里桜はスマホを手に取った。


『もしもし里桜?今話せへん?』


「……朱莉」


 相手は朱莉で、その声色は何故か改まったようなものだった。


「どうしたの?何か元気ないみたいだけど」


『うっ、元気ないのは里桜とちゃうん?そ、そうやのうてその……警察署では………堪忍な。無神経やった』


 自分以外に誰も居ない部屋で、里桜は首を傾げた。

 朱莉に何か酷いことをされた憶えはない。


「えっと、何のこと?」


『もう手遅れとか、元の関係に戻れるとか、いろいろキツいこって言うたことに対して』


「……あぁ、そのことか……」


『うちも口だけやからあそこまで言えたけど、いざ自分の立場に変えて考えてみると……。そうやんな。友達を消滅させるとか、簡単に言われへんもんね』


「……朱莉は悪くないよ」


 自然と口調が穏やかになる。

 最近の朱莉は、どこかピリピリした雰囲気を出していた。

 きっと日和が死んだショックからだろう。

 口調も前よりキツいようにも感じた。

 しかし今の謝罪により、朱莉にまだ優しさが残っていることを確認でき、少し安心した。


「考えたよ。どうしたらいいか」


『何か、浮かんだ?』


「何にも。でも、もう一度万桜と会いたい。会ってちゃんと話がしたい。どうするかはそれから決めたい。自分勝手かもしれないけどさ」


 里桜はそう言って苦笑した。

 本当ならば、そこまでゆっくりしている暇は無い。

 しかし、その答えしか考えつかなかった。


『さよか。その……うちもできる限り手助けするで。せやさかい、無理しちゃあかんで』


「うん、ありがとう」


『ほな、またね』


「うん、またね」


 里桜は通話終了のボタンをタッチし、スマホを枕元に置いた。

 決意を固めるためにも、まずは万桜を見つけ出さないといけない。

 最初から難易度が高い気がした。




 幽霊団地にある古いマンションの廊下を、恭也は晶子を引きずって歩いていた。

 用の無いドアを通り過ぎ、目的のドアの前で立ち止まる。

 ドアノブを回すと、あっさりと開いた。

 本来なら誰も居ないため、室内は闇に包まれている筈だ。

 しかし、今は灯りがあった。

 恭也は躊躇無く進んでいく。

 奥の部屋まで来ると、2つの人影があった。


「お待たせ。根木君、魚沼さん」


「きっ……恭也君……」


「すごいねぇ。上手くいったみたいだねぇ」


 そこに居たのは徹と、40代くらいの1人の男だった。

 ワイシャツにジーンズ、ショルダーバッグと、少しラフな格好をしており、右手には肉叩きが握られている。

 魚沼と呼ばれた彼は、以前里桜と純を襲った男だった。


「くっ……栗山さん……連れてきたんだ……」


「うん。今は寝てもらってるけどね。ていうか魚沼さん、もしかして肉叩き試そうとしてた?」


「既にもう試したよぉ。でももっと思いっ切りやってみたいと思ってるんだよねぇ」


 恭也はスマホのライトを点け、下に向けた。

 その先には手足を縛られた乃愛が、壁に寄り掛かった状態で座らされていた。

 意識は無く、耳元に流血の痕があった。


「そっちも上手くいったみたいだね。……いや、明利さん生きてるのこれ?何か血の痕あるんだけど」


「いっ……息はしてるから、多分、大丈夫」


「魚沼さん、それで明利さん殴ったの?」


「根木君困ってたからねぇ。殴った方が手っ取り早くて良かったよぉ」


「ふ~ん……。魚沼さん、ちょっとは我慢してくれないかな?明後日にはちゃんと殺戮パーティーになるだろうから」


「そうだねぇ。まだまだ試したい道具が多いからねぇ」


「さてと、次は………」


 恭也は晶子を下ろし、手足をロープで縛り始める。

 徹がその様子を見ながら、質問を投げかけた。


「ねぇ、僕LINEであのメッセージ送ったのに、ここまでする必要あるの?」


「こうでもしないと逆に来ない奴がいるんだよ。ここに連れてきた2人がそう。あと、白川さんとか帳さんとかね」


「……ねっ、ねぇ、万桜は?万桜に協力してもらった方が、早く終わるんじゃ……」


「そうやって君は何もしないつもりなのかな?万桜は今苦しんでるのに……」


 晶子を縛り終えた恭也が、徹に詰め寄った。

 その剣幕に圧された徹は、壁に背を付ける。

 

「万桜は君の盗撮するくらい好きっていう気持ちを汲んで生かしてくれたんだよ?その恩を君は仇で返すのかな?」


「いっ……いやっ……そんなつもりじゃ……」


「三択だ。選ばせてあげるから今決めなよ。このまま僕達に協力するか、僕に殺されるか、魚沼さんに殺されるか」


 徹はたまらず目をそらす。

 しかしその視線の先には、肉叩きを手でポンポンと叩く魚沼の姿があった。

 逃げ場は無い。

 徹は本能的にその事実を感じ取った。


「きょ……協力…………」


「何て?」


「協力………します!」


 徹の泣きそうな声が、部屋にこだました。

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