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八百万 怨念  作者: マー・TY
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43.探り合う話

「……特務課って何ですか?」


 警察署の個室で、里桜は首を傾げた、

 交通課や鑑識課くらいなら聞いたことがある。

 警察組織の役職云々はよく解らないが、特務課という名前は初めて聞いた。

 雪村はドラマで見るようなスーツ姿の刑事だと思っていたが、どうやらその特務課に属しているらしい。


「当署には様々な事件が舞い込んできます。ほとんどは人為的なものなのですが、時々……難解な事件が起こるのです」


「難解な事件?」


「怪事件といいますか……。明らかに人為的または自然現象ではあり得ない、異常な事件が起こることがあります。そしてそれらを捜査するのが我々、特務課です」


「怪事件って……。信じてるってことですか?警察は、幽霊とか、そういうのを……」


「信じていない方が多数ですが、少なくとも、我々特務課は認識していますよ。無論、僕も信じてます。万桜さんのことも含めて」


 雪村は真っ直ぐな目で里桜を見据える。

 その目にはどこか安心感があった。

 

「………この一連の事件には万桜さんが関わっていると言ってもいいかもしれません」


「やっぱり、万桜が……?」


「実は前々から目を付けていたんですけどね。そして、万桜さんには協力者がいるように思えます」


「……爆破事件」


「はい。亡くなった人間が人を殺すのにわざわざ爆弾等を使った例はありません。生きている誰かが、万桜さんに手を貸しているのではないかと」


「……そういえば」


 生きている人間が関わっていると聞いた里桜には、思い当たるところがあった。




「万桜大丈夫かな?」


 恭也は机に突っ伏し、ポツリと声を溢した。

 【家族に会いに】と言葉を残したまま、万桜はどこかに行ってしまった。

 最近単独での行動が多いように思える。

 今の万桜はかなり自由が利く存在であるが、少し心配だった。

 幽霊である彼女が、いつか消えてしまうのではないかと。

 そして、もっと自分を頼ってほしいとも思っていた。

 自身で作り上げたプログラムによって万桜の行動範囲が広まったとはいえ、まだまだ満足していなかった。

 もっと万桜の役に立ちたい。

 万桜のことを愛しているからこそ、その想いは大きかった。


“────♪♪♪♪♪♪♪♪”


「んっ……?」


 少しボーッとしていたのだろう。

 気づけばスマホの着信音が鳴っていた。

 時計は午後9時を回っている。

 こんな時間に誰だろうと、スマホの通話ボタンを押した。


『もしもし恭也?夜分遅くにごめんな』


「帳さん?」


 朱莉からの電話に、恭也は顔を上げる。

 こうして直接電話が掛かってくるのは初めてだった。


「どうしたの急に?」


『ちょっと聞きたいことがあってな。ちなみにウチ、今警察署におんの』


「えっ?何で警察署に?」


『さっき万桜の家行ってきたんやけど、そん時に万桜のお兄さんが飛び降り自殺してん。ほんでさっき重要参考人として取り調べ受けてたところ』


「万桜の……家に?」


『……ん?どないしてん?』


「えっ?いや、別に」


 朱莉の万桜の家に行ったという事実に、恭也は一瞬固まってしまった。

 何も知らない馬鹿が万桜の家に行くなと、心の中で悪態を吐いた。

 

「……ていうか、お兄さんが自殺したって?」


『せやねん。最初はウチらと会うて話を聞いてくれたのに、その後家に入ったと思うたら、急に飛び降りてんで。全然飛び降りる感じじゃなかったのに』


 朱莉の難しそうな声が伝わってくる。

 それに対し、恭也はすぐに万桜の仕業であることを察した。

 【家族に会いに】とは、そういう意味であったのだと理解できた。


『ほんでな、万桜のお兄さんが飛び降りた後、その窓見たんや。そしたら、………万桜がおった』


「えっ………!?」


 つい間の抜けた声が漏れる。

 「万桜が居た」。

 まさか朱莉からそんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。

 即ち、万桜は朱莉達に姿を見られたということになる。

 これはマズいことなのではないか。

 万桜への心配が、さらに深まった。


『恭也?』


「えっ?あぁ、ごめんごめん。えっと、万桜がいたって、どういうことかな?」


『そのまんまの意味やで。こっち見下ろしとったよ。すぐにいなくなったけど、あれは絶対万桜やった』


「そうか。そうなんだ……で、これを伝えに電話してきたの?」


 ここまでは前振り。

 恭也は本題に入ることにした。


『いや、それとは別やで』


「そうだよね?じゃあ、何?」


『最後に純と会った日何しとった?』


 朱莉が言う“純”とは、出席番号33番室田純のことだ。

 食べるのが大好きな肥満体の男子で、クラスでは愛されキャラのような存在になっていた。

 そんな純を、恭也はある夜橋から落とした。

 そうすることで、万桜の役に立てると思ったからだ。

 あまり泳ぎの上手くない純は川に流され、今では行方不明となっている。

 そしてこの事実は自分と万桜しか知り得ないことだ。

 しかし、朱莉は今この事実に踏み込もうとしている。


「何で室田君?」


『ちょっと気になってな。知っとることがあったら話してほしいの』


 今の朱莉の声色は、完全に人を疑っている時のものだった。

 純について気になったきっかけを濁している。

 それがまるでこちらがボロを出すのを待っているように思えた。


(九重さんから聞いたんだろうな。最近仲良さそうだし)


 あの夜のことをある程度知っているのだとしたら、下手に嘘を吐くのはマズい。

 恭也は慎重に話すようにした。


「……う~ん、室田君を最後に見たのは学校、だね。美味しそうに二段重ねのお弁当を頬張ってたような気がする。ごめん、詳しくは憶えてないや」


『そっか。里桜が最後に純と会ぉたのは前の土曜日の夜。不審者に襲われてたところを助けたんやって。ほんで、何とか振り切って純を追ったんやけど、その先の橋に恭也がおったって言うとったで』


「橋……あ~、あの時か。確かに『室田君知らない?』って聞いてきたもんなぁ。そういうことだったんだ。でも僕、室田君には会ってないよ」


『そう。ちなみに里桜はその日ウチと遊園地行ってて、帰宅中に純を助けたらしいけど、恭也は何しとったん?夜中に橋の上で』


「ただの散歩だよ。外の空気が吸いたくなってさ。何?もしかして帳さん僕のこと疑ってる?僕が室田君に何かしたって言いたいのかい?」


『そう思うてくれてもかまへんよ。違ぉたらちゃんと謝るから』


 お互い探り合いのような状態が続く。

 朱莉は完全に恭也が怪しんでいる。


(やっぱり帳さんただ者じゃないな。クラスの中心にいるただの能天気な娘だと思ってたのに、意外と勘が冴えてる……。厄介だなぁ……最初の方に始末しとくべきだったかも)


 心の中でこんなことを思っていると、朱莉がまた口を開いた。


『あと、どうでもええことなんやけどさ』


「何?」


『ジブン、何で万桜のこと名前で呼んどるん?苗字呼びじゃなかった?』


「………そうだっけ?気のせいじゃない?」


『気のせい……か』


「ふわぁ………もういい?もう夜遅いし、また今度話さない?」


『……せやな。ほなまた今度ね恭也。おやすみ』


「うん。おやすみ」


 恭也はそう言って通話を終了した。

 スマホを机に置き、また突っ伏す。


(しまったな。ちょっと焦った……。帳さんからすれば確かにおかしいよね。万桜だけ名前で呼んでるし。気をつけないとなぁ。ていうかそもそも何で呼び方まで指摘されないといけないの?彼氏彼女なら名前呼びは当たり前だよね?)


 心の中で愚痴りながら、恭也は残ったクラスメイトをどう始末するか考えた。

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