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八百万 怨念  作者: マー・TY
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41.再会する話

【兄さん、おかえり】


 秀一は自分の目が信じられなかった。

 死んだ筈の妹が、目の前の椅子に座っている。

 それはあまりにも自然で普通な光景に見えた。

 

【どうしたの?今までしたことない顔してるけど】


「はっ?いやっ……はっ?」


 動揺している兄を万桜は嘲笑う。

 完全に生前とは真逆の立場となった。


「何なんだよ!おかしいだろ!何でお前がここに居るんだよ!死んだ筈だろ!」


【霊や呪いの類いを信じない兄さんには一生理解できないでしょうね。理屈は解らないけれど、神様が許してくれたのよ。私に、好きにしていいってね】


「霊?呪い?神?マジで何言ってんだよお前……。頭おかしいのかよ?」


【そうね。私はもうおかしいのかもね。でも、こんな環境で育ってまともになれると思う?私が何度殴られたと思ってるの?実の、父親に……!】


 万桜が声を荒げると、開いていた部屋のドアが勝手に閉まった。

 秀一は慌ててドアを開けようとするが、ビクともしない。

 まるで向こう側から強い力で押さえつけられているかのようだった。


「くそっ!何で開かねぇんだ!?」


【……兄さん。あなたはこのままいけば、幸せになるでしょうね……】


 万桜は椅子から立ち、秀一に語りかける。

 不気味な程の笑みを浮かべて。


【大学を卒業して、超一流企業に入って、恋人ができて、結婚して、子供が産まれて……。兄さん程の優秀で世渡り上手な人間なら、人生勝ち組なんでしょうね】


「はぁ!?同然だろ!俺をその辺の馬鹿共と一緒にすんな!」


【だけど……】


 万桜は一気に秀一に詰め寄り、両肩を掴んだ。

 秀一は振り解こうと藻掻いたが、力が強く、離れる気配はない。

 そんな秀一の顔を見上げる万桜の顔は変わらず笑顔だが、どこか影が掛かっていた。


【残念。あなたにこれからはもう無いわ】


「ッ!!?」


【私は不満なのよ。あなた達がこれから幸せになることがね。だから、終わらせることにした!】


 秀一の両肩に掛かる力が強まる。


【子供が産まれても、あなたみたいな人ならきっと子供を傷つけるに決まってる。だったら産まれてこない方が幸せよ。だから、三日月家は私が終わらせるの。あなたもお父さんも】


 万桜の体が黒ずみ、黒い煙が出始めた。

 煙は意志を持っているように動き、やがて秀一の体を覆っていく。


「なっ!?何なんだこれ!!?やっ……やめろぉ!!!」


 あり得ない超常現象の連続に、秀一は狼狽える。

 万桜はいつまでも秀一の目を見つめていた。

 恐怖に呼応するように、煙は揺れていた。




「何……?」


 秀一の声は外まで届いていたらしい。

 家の前に残っていた里桜達は、声が響いた2階の方に注目した。


「今の、万桜のお兄さん?」


「何かあったのでしょうか?」


「おいおい言ったそばから呪いか?呪いを馬鹿にするからこうなるのだ」


 朱莉、想、十海人が次々に言葉を溢す。

 里桜と知基は何も言わなかったが、心配はしていた。

 初対面の自分達と冷静で友好的に話していた秀一が、何かを恐れるような叫び声を上げたのだ。

 余程のことがあったのだろう。

 最悪命の危険があるのではないかと想像した。

 今からでも乗り込もうと思ったところで、2階の窓が開いた。

 

「……う”……………あ”……」


「秀一さん……?」


 窓から顔を出した秀一は、涙や鼻水でグショグショになっていた。

 先程までの爽やかな笑顔が嘘のようだった。

 変わり果てたその姿に、里桜は唖然としていた。

 その間に、秀一は窓から身を乗り出した。


「は………?」


 秀一の頭がぐるんと下を向く。

 そしてそのまま重力に従い、庭に落下した。

 “ゴシャッ”と、不吉な音が辺りに鳴り響いた。


「秀一さん!?」


 里桜達は急いで庭に向かう。

 そこには秀一が仰向けに倒れていた。

 首があり得ない方向に曲がった状態で。


「嘘……やろ………?」


「きゅ……救急車!……いや、警察!?」


 知基が焦った様子でスマホを操作し始める。

 朱莉と想はただ呆然と立ち尽くすことしかできず、十海人に至っては一番後ろでガタガタと震え、怯えている。


「どうして……?」


 里桜もまた、何が何だか解らない状態に陥っていた。

 普通に見れば、飛び降り自殺。

 しかし先程の秀一の様子を見ても、自殺なんてあり得なかった。

 理由があるとすれば、飛び降りが起こる前の叫び声。

 秀一が叫ぶような原因があったのだろう。

 ふと、秀一が飛び降りた2階の窓に目を向けた。


「ッ…………!!!?」


 里桜は目を見開いた。

 2階の窓から、万桜がこちらを見下ろしていた。

 

「万桜!!!」


 会いたかった親友の姿を見て、里桜は声を上げる。

 他の4人も何事かと、2階の窓に注目した。

 万桜は里桜達から目を背けると、窓から離れていった。

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