39.疑念の話
午後5時頃。
里桜と朱莉はファミレスに居り、テーブル席に向かい合う形で座って会話をしていた。
里桜はアイスココア、朱莉はリンゴジュース手元にお置き、フライドポテトをシェアし合っている。
「もうこんな時間かぁ……」
「お腹空くなぁ。ポテトって意外とお腹に溜まれへんなぁ。夕飯ここで食べてく?ウチはそのつもりやけど」
「そうする」
「家に連絡しのうてええん?」
「大丈夫。どうせ用意されないし」
「えっ?どうせって─────」
「ほら、朱莉は何頼む?アタシは………あっ、このハンバーグ定食美味しそう」
里桜にメニュー表を渡され、朱莉はひとまずそれを受け取って今日の夕飯を選ぶ。
結局、2人ともトマトソース入りのハンバーグ定食を選び、店員に注文した。
「ハンバーグ楽しみだね~朱莉~」
「……里桜、何か無理してへん?」
「へ?」
「何か、無理に明るく振る舞っとるみたいに見えてさ。その、家族とあんばいよういってへんの?」
「あんばい……?」
「あっ……『上手くいってないの?』ってこと」
「あぁ、まぁ……そんな感じ」
里桜はそう言いながら苦笑した。
家族関係について深掘りされたくないように見え、朱莉はこれ以上追及はしなかった。
「よぉ解らへんけど、言いたくなったらいつでも聞くよ。ウチは味方やからね。何なら家族になったろか?」
「あはは、気持ちだけ。気持ちだけね」
こうしてお互い笑い合うと、2人はそもそもここに集まった目的について話を戻した。
「結局何なんだろ……原因は……」
里桜は氷入りココアのコップをカラコロ揺らしながらポツリと呟いた。
2人はあの通話の後、もう少し今起きている事態について考えたいと思い、ファミレスに集まった。
現在無事のクラスメイトをまとめたり、何か変わったことが無かったか思い返し、情報を共有しているうちに2時間が経ち、今に至る。
「警察の方は何か解ってるのかな?」
「今度聞いてみるよ。……確証ないけど、正味ウチ的に怪しい奴おるよ」
「えっ?誰?」
“♪♪♪♪♪♪”
朱莉がその怪しいと思う人物について話そうとしたタイミングで、着信音が鳴った。
里桜のスマホからだった。
少し怪しく思いつつも、通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。
「もしもし?」
『もしもし、里桜さんですか?僕です。市松想です』
「想…?」
掛けてきたのは想だった。
朱莉も意外そうな顔をしている。
「番号教えたっけ?」
『LINEから掛けています。勝手にすみません』
「あ~そうなんだ。別にいいけど、何か用?」
『単刀直入にお聞きするのですが、万桜さんの住所をご存知ですか?』
「え……?」
里桜は一瞬固まった。
万桜の住所を知りたがる想の思考が解らなかった。
「何で?」
『僕達自身、今の状況についていろいろと調べているんです。それで、いろいろ調べ尽くして辿り着いたのが、万桜さんなんですよ。里桜さんは万桜さんと仲が良かったのですよね?それで、何か知っているかと思いまして……』
「……万桜のこと疑ってるの?」
『そう思われていただいても構いません。ですが、是非とも協力していただきたいのです』
「……」
里桜自身、万桜が疑われるのは気分良くない。
また、万桜のことを疑いたくもなかった。
しかし、実際万桜のことを疑っているクラスメイトも何人かいる。
想もその一人だ。
こんな状況になっている以上、怒っている場合ではないのではないかと、里桜は考えた。
それに、万桜の家族にも興味があった。
「いいよ。案内する」
『本当ですか!?』
「うん。ていうか、今からでも行きたい。万桜の家族に会って、万桜のこと訊いてみたいし」
『ありがとうございます。待ち合わせをしたいのですが、場所と時間はどうしますか?』
「場所はとりあえず学校で。時間は……あ~……7時でもいい?」
自分達が注文した料理を運んでくる店員の姿を見て、里桜はそう返事した。
「ただいま」
【万桜!おかえり!】
スマホを通して戻ってきた万桜に、恭也は目を輝かせて出迎えた。
「どうだった!!?」
【根木君協力してくれるって。それにしても便利ね“これ”。相手がスマホを持ってたら確実に殺すこともできる】
“これ”とは、恭也が作ったプログラムに万桜の力を加えたものだ。
“これ”によって万桜は、自分の写真があるところならどこへでも行けるようになっていたのだ。
【根木君、私以上に私の写真をたくさん持っていたなんて……。本当に気持ち悪かったわ】
「万桜を盗撮するなんて……。根木君は僕が殺していい?」
【まだ待って】
ストーカーをしていた自分のことを棚に上げて怒る恭也を尻目に、万桜は写真について考えた。
思えば家に自分の写真なんてほとんど無い。
家族は写真を撮ってくれなかったし、自撮りなんてすることもなかった。
その気になればスマホを触ることもできるが、今の万桜は写真に写ることはない。
もはや盗撮を行っていた徹の方が、自分以上に自分のことを知っている気がした。
【家族……か…】
「え?家族?」
思えば、死んでから一度も家族の様子を見ていなかった。
1番以外認めてくれない父親。
1番になれないことで馬鹿にしてくる兄。
一家の落ちこぼれである自分が死んだ今、2人はどうしているのだろう。
少しは悲しんでくれているだろうか。
そう思うと、家族の顔を見たくなってきた。
【出かけてくる】
「えっ?また?どこ行くの?」
【……家族に会いに】
万桜はそう言い残し、恭也の部屋から姿を消した。




