38.盗撮犯の話
「外は、いいよね……」
「ですね…」
午後2時。
天気は晴天。
そんな空の下で、知基と想は公園の休憩スペースのにある木製のテーブル席に、向かい合うような形で座っていた。
昨日のグループ通話の後も、2人は2人なりに今起こっていることについて調べてみた。
しかし、結局犯人らしい存在も解決策も解らず、そして今朝、警察から新たに4人が被害に遭ったことを教えられたのだった。
「無事なのは、あと何人だっけ……」
「僕達を含めると……………11人ですね。……他の皆さんが、今も無事でいるなら……の話ですけど」
「……ねぇ、想君。僕、どうなると思う?」
「知基……?」
「精神病かな?行方不明になるかな?それとも……やっぱり死ぬかな?」
「やめましょう!諦めるのはまだ早いと思います!」
知基はもう、何もできないと思っているらしい。
声から既に、諦めが滲み出ていた。
励ましてはいるものの、実際想の方も万策尽きている。
何かしなければならないという使命感に駆られているが、できることがもう残っていなかった。
(僕達がいったい何をしたというのか……。解りませんが、受けいれるしかないのでしょうか…)
想もまた、このまま運命に身を任せるしかないのかと諦めかけていた。
そんな時だった。
「ハ~ハッハッハ!!愚民2人が何をやっているんだ!!?」
高笑いをしながら、十海人がそこに現れた。
「あれ?十海人君」
「こんにちは」
十海人のテンションに慣れてしまったのか、知基も想も反応はそこそこだった。
てっきり2人が目を輝かせて助けを乞うてくると思っていた十海人は、不服そうな表情を浮かべる。
「どうした?いつにも増して陰が増しているんじゃないのか!!?」
「十海人君だって陰キャラのくせに」
「それはそうと、声を抑えてはとうですか?」
「何だと?」
想は十海人の後ろを指差した。
振り返ると、公園に居る人々が好奇の目で十海人を見ていた。
そして気まずそうに目をそらし、その場から離れていった。
「は……話を戻すか」
十海人はそう言うと、知基の隣に腰掛けた。
声は最初よりも遙かに小さかった。
「それ恥ずかしいんだ」
「黙れ!貴様らがへこんでる様子だったから声を掛けてやったのだ!感謝しやがれ!」
「……万桜さんについてですか?」
想は眼鏡を指で押し上げながら、知基に食って掛かる十海人に訊いた。
「貴様……この俺様の考えが解るのか!!?」
「君、ずっと推していますからね。実際生きてる人間の所業とは思えないことも起こっていますからね。初めに亡くなってしまったのは万桜さんですし、次の栄太君まで一週間も空いたのが怪しいところ……。しかし、それだけで決めつけるのもどうかと……」
「フン!だったら調べてみるだけだ!三日月万桜についてなぁ!」
「調べるってどうやって……?」
「単純なことだ」
首を傾げる知基に、十海人は得意気に言い放った。
「三日月万桜の家に向かえば良い」
出席番号24番根木徹もまた不安を感じていた。
ベッドの上で布団を被り、丸くなる。
警察から好実達のことを聞き、やはり次は自分の番ではないかと脅えていた。
「ヤバいって!これヤバいって!呪いだ!絶対呪いだ!呪われてるんだ、ウチのクラス!」
徹はクラスではあまり目立たず、いつも教室の隅の方でひっそり過ごしているような存在だ。
徹自身それを自覚しており、寧ろ今まで無事だった自分は幸運だと思った。
しかしこのクラスメイトが次々と不幸に見舞われる事態に、終わりが見えない。
徹もまた、いつ襲ってくるか解らない不幸を恐れていた。
「あァァ………うぅ……落ち着け落ち着け……。こういう時は……」
徹はスマホを操作し、画像フォルダを開く。
複数の写真が並ぶ画面をスクロールすると、とある写真が並ぶところに辿り着く。
「はぁ………万桜…………」
自然と声が漏れる。
徹のスマホには、万桜の写真が並んでいた。
通学中のもの。
授業、勉強中のもの。
食事中のもの。
帰宅中のもの。
着替え中のもの。
状況や時間帯は様々だった。
「あぁ………可愛い………可愛いよ万桜……」
以前から徹は、盗撮を行っていた。
スマホで隠し撮りをしたり、更衣室にカメラを仕掛けたり、ストーキングしたりと、様々な方法や技術を用いて学校の女子生徒を撮っていた。
そんな中、徹が気に入ったのが万桜だった。
無愛想で、休み時間も勉強ばかりしていてあまり目立たない彼女だったが、よく見ると整った顔をしており、色気もあった。
それに加え、微妙な表情の変化や細かい仕草が徹の心をくすぐった。
何故か不良グループの一員である里桜と仲良さげに話している日があったが、その時の笑顔も新鮮なものだった。
こうして徹は万桜の写真を撮っては眺め、ついには自慰にも使うようになった。
とはいえ、本人に告白紛いのことをすることもできず、ついには亡くなってしまったので、新しい写真を撮ることもできなくなってしまった。
「あぁ……万桜………。君は僕の天使だよ……」
うっとりとした目をして、徹はスマホの中の万桜にそう呟いた。
【どちらかと言えば悪魔かもね】
「えっ!?」
スマホの、万桜が自習をしている写真。
その写真の中の万桜が、急に徹の方を見て喋った。
「はっ!?えっ!?」
徹は驚きのあまりスマホをベッドの上に落とす。
写真の中の万桜は席を立ち、ツカツカと近づいてくる。
そしてスマホの画面が歪んだかと思えば、ゆっくりと手が出てきた。
それから首、肩、胸、腰、脚と、順番に出てくる。
あっという間に、目の前に万桜が現れた。
【恭也のプログラム、上手くいったみたい。フフッ……。行動範囲が広がりそう】
万桜はそう呟くと、徹の方に顔を近づけた。
【ほら、盗撮していた女の子が目の前に出て来たわよ?ねぇ、どうするの?これでもまだ自慰行為に勤しめる?それとも本番にする?】
「いや……はっ……?」
【なんて……言うと思った?】
万桜の表情が険しくなる。
それから素早く両手で徹の首を掴んだ。
首を絞める力は強く、手は氷のように冷たかった。
【最低。最悪。陰湿。気持ち悪いのよ本当……。盗撮されて怒ってないと思った?私はねぇ、アンタのオナニーの道具じゃないのよ……!】
「げがっ………ぐっ………」
恨み言を溢しながら、ギリギリと首を絞め続ける。
徹自身も次第に意識が薄れていっていた。
しかし、息ができずに顔の色が変わっていく徹の顔を見て、万桜はハッとした。
【……………いけない……殺すところだった】
万桜は徹の首から手を離す。
解放された徹は何度も咳き込み、必死に息を取り入れた。
【あなた、まだ死にたくないでしょう?】
徹の顔を覗き込み、囁きかける。
ここまで徹は、まだ事態が飲み込めていない。
【生きたかったら、協力して】
そう言って万桜は不敵に笑った。
根木徹
日常的に盗撮を行っていた。




