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八百万 怨念  作者: マー・TY
38/70

36.いたずら電話の話

“♪♪♪♪♪”


「ヒッ!!」


 午後10時半。

 服や雑誌等、私物が散らかった部屋にスマホの着信音が鳴り響く。

 ベッドの上で毛布に包まっていた出席番号13番須藤美奈は短く悲鳴を上げ、反射的に手元に置いてあったスマホを手に取る。

 震えて指点が定まらない指先で、しかし素早く通話ボタンを押す。

 それから、恐る恐るスマホを耳に当てた。


「も……もしもし………」


『お前は今日、何かしたか?』


 通話の相手は、見下したような口調で話す。

 ボイスチェンジャーでも使っているのか、声はアニメのマスコットキャラクターのようだ。

 

『ずっと毛布に包まってるだけだったな。いや、9時48分と20時3分には食事、7時18分と12時30分と14時58分と17時36分と18時56分にはトイレに立ってるな』


「ッ!!!?」


『立ってるときもその薄汚い毛布が手放せないか?ここ最近ずっとそうだよな?一日中食事と排泄と睡眠だけ。生きてる価値あるか?なぁ─────』


 通話相手は一拍置いてから、言い放った。


『早く死ねよ』


 ここで通話は切れた。

 美奈はまた手元にスマホを置くと、また毛布に包まった。

 

「いつまで続くのよ…………」


 暖かい毛布に包まれているにも関わらず、寒気が止まらない。

 このいやがらせの電話は何度も続いている。

 最初は一週間程前。

 突然掛けてきたその相手に、『これから掛かってきたら必ず通話に出るように』と言われた。

 反論はしたが、驚くことに相手は美奈の個人情報を握っており、通話に出なければネットに流すと脅しつけてきた。

 また、このことを他人に伝えても流すという。

 そのため美奈は、常に通話に気をつけなければならない生活を強いられることとなった。

 相手からはいつ掛かってくるのか解らない。

 早朝に掛かってくることもあれば、丑三つ時に掛かってくることもあった。

 食事中に掛かってくることもあれば、入浴中に掛かってくることもあった。

 一度も掛かってこない日もあれば、一日に10回掛かってくるという日もあった。

 規則性が無く、本当に予測が付かない。

 そのうえ、通話内容も心を削るものだった。

 罵り。

 怒鳴り超え。

 その日の行動の読み上げ。

 それから最後の『早く死ねよ』。

 一つ一つの言葉が突き刺さる。

 この予測不能の罵倒により、美奈は次第にやつれていった。

 食欲が無くなり体重が減り、入浴もできなくなった。

 暗闇が怖くなり、常に電灯を点けた状態で過ごしている。

 そもそも電灯を消しても、夜中も気を抜くことができない。

 そのため美奈は、寝不足にも陥っていた。


「もう嫌………。赦してよ………」


 美奈自身、どうしてこのような目に逢っているのか理解できなかった。

 誰かに恨まれるようなことをした憶えがない。

 ネットで怪しいサイトを見たわけでもない。

 ストーカーに狙われているなんてこともなかった。

 通話相手は何者なのだろう。

 何度か考えたこともあったが、正体は解らない。

 ここ最近は考える度に、すぐに頭が痛くなる。


“♪♪♪♪♪”


「ッ!!?」


 再びスマホから着信音が流れた。

 美奈の体がビクリと震える。

 ここまで間隔が短いのも珍しい。

 3コールもしないうちに、美奈は通話に出た。


「もしもし────」


『死ねばいいのに』


「えっ───────────」


 スマホ越しに聞こえてきたのは、囁き声だった。

 電話番号は、先程の相手のものと同じ。

 しかし、マスコットのような声ではなく、少年のような声をしていた。

 そして、通話内容にも異変があった。


『死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに』


 今まで罵ることから始まっていたのにも関わらず、今回は同じ言葉の繰り返しだった。

 何度も『死ねばいいのに』という言葉が、呪詛のように繰り返される。

 声にも怨みが込められているように感じられた。


『死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに』


「ちょっ……」


『死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに』


「何よ…………」


『死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに』


「やめてよ………」


『死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに死ねばいいのに』


「やめてってば!!!」


 堪らず美奈は怒鳴り声を上げた。

 それに反応したように、声は止む。

 少しの間お互い喋らず、聞こえるのは美奈の荒い息遣いだけだった。


「………も、もしもし?」


 この空気に耐えられなくなり、美奈は恐る恐る声を出してみた。

 相手からの反応はない。

 しかしそう思われた6秒後──────。


『死んだ方が幸せだよ』


 そう言って通話は切られた。

 美奈は唖然とし、スマホを手から落とした。

 そしてスマホはベッドをバウンドし、散らかった床の上に落ちた。


「あっ………ス…スマ…ホ…………」


 スマホが無ければ次の通話に出られない。

 美奈はベッドから立ち、スマホを拾おうとした。


「あっ………うっ……」


 立ち眩みだろうか。

 突然頭がぐらっとなり、目の前の景色が回転して見えた。

 その拍子に、美奈の体は前に倒れる。

 食欲が無くなり、弱っていた彼女は自分の体を支えることができず、ベッドの目の前にあった丸いテーブルに顔を突っ込んだ。


“ぐちゅっ”


 気色が悪く、小さな音が聞こえた。

 美奈は何が起こった解らず、顔を上げた。

 

「えっ……?」


 何故か右側の視界が真っ暗になっている。

 そして残った左側から見えたのは、赤い液体で汚れたテーブルだった。

 

「えっ………?」


 その赤い液体が血液であると気づくのに、そこまで時間は掛からなかった。

 特に、ペン立ての血が酷かった。

 まさかと思い、美奈は自分の右目部分に手を出す。

 固く、長いものを掴むことができた。

 美奈はそれを、迷わず引き抜く。

 そこから一気に血が溢れ出た。

 美奈が引き抜いたそれは、先端が血に塗れたシャーペンだった。


「うっ……あっ……………ああ……」


 倒れたことで右目にシャーペンが突き刺さったのを、ようやく理解できた。

 不思議と痛みは薄い。

 しかし、右目を失明したということへのショックは大きかったようで、美奈はいつまでも狼狽えていた。




 午後11時。

 恭也はパソコンの動画サイトで、動画を見ていた。

 画面には楽しそうな映像が流れているが、恭也は無表情だった。

 ひたすらに虚無。

 しかし、万桜が帰ってきたことでそんな時間は終わりを告げた。


【ただいま】


「あっ!おかえり万桜!!!」


 何も無いところから突然現れた万桜に対し、恭也は驚くこともなく、寧ろ子供のような純粋な笑みを浮かべて喜んだ。


「どこに行ってたの?急にいなくなっちゃうんだもん。心配したよ」


【死んだ私に心配なんていらないわ。それより恭也、もう須藤さんにいたずら電話をしなくていいわ】


「えっ?どうして?」


【そんなことをしなくてもいいくらい、追い詰められた状態になってる。このままいけば、多分破滅するわ】


「もしかして見てきたの?」


【須藤さんだけじゃなく、千枝さん、深水君、紀嶋君も終わったわ】


「そうなんだ。じゃあもうこれはいらないかな。まぁ、最後は使わなかったけど」


 恭也は、パソコンの傍に置いてあったボイスチェンジャーを横目にそう呟いた。

 4人のクラスメイトには興味がない様子で。


「それにしてもどうしたの?急に4人も………」


【別に。ちょっと苛ついてたのかしら。まぁ、警察の監視が厳しくなる前にやっちゃおうと思って。恭也ももうすぐ、役に立たなくなるかもしれないから】


「ッ!!……そんなことない!僕は万桜のためなら何だってできるんだ!」


【そう……。それは嬉しいわ……】


 万桜は嬉しそうに笑うと、恭也を抱き締めた。

 予期していなかった抱擁に、恭也は戸惑う。

 しかし、それはすぐに至福へと変わった。

須藤美奈


そこまで特徴のない女子。ひとり暮らし。

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