表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万 怨念  作者: マー・TY
37/70

35.弱虫の話

「こ……浩介?まだご飯残ってるわよ……?」


「あ?あ~、もういらねーよ」


 午後7時頃。

 出席番号7番紀嶋浩介は、居間で母親に呼び止められていた。

 食卓には夕食が並んでいる。

 白米、味噌汁、焼き魚といったメニューだ。

 しかし、浩介が座っていた場所に置いてある夕食は、ほとんど減っていない。

 

「ちゃんと食べないと……」


「あ?いらねーっつってんだろ?さっきカップ麺食ったからもう腹いっぱいなんだよ」


「そんな…。夕飯前に食べちゃダメでしょ……」


「うっせぇババァ!何食おうが俺の勝手だろ!」


 浩介はそう言うと、自室の方に行ってしまった。


「浩介……。ちょっと、お父さんからも何か…………」


 母親は助けを求めるような視線を父親に向けた。

 しかし父親は、無言で味噌汁を啜るだけだった。

 そんな父親を見て、母親の体は震えていた。




 浩介の母親は気が弱い。

 そのため、いつも浩介に対して強く出られずにいた。

 父親の方は育児にあまり関心がなく、実質家のことは母親一人で行っていた。

 そのせいか、浩介はあまり叱られずに育ち、そのうえ弱い相手には高圧的に、強い相手には媚びるような性格になってしまった。

 実際学校でも、雄大や勇二達のような不良相手に頭が上がらずにいた。

 その不良グループのほぼ全員が消えた今、浩介の態度はさらに悪化した。


「ったく、ババァがいちいちうるせぇってんだ」


 浩介はそう言いながら自室に入り、乱暴にドアを閉めた。

 

【お母さんにババァはダメよ?】


「だからうるせ……って……はあっ!!?」


 突然の声に、浩介は驚きの声を上げた。

 背中を思いっ切りドアにぶつける。

 目の前にあるベッドには、本来居ない筈の少女が座っていた。

 浩介はそれが万桜であると気づくのに、時間は掛からなかった。


「はっ?……えっ…何で……お前がここに居んだよ!?……てか、は?お前……死んだんじゃ……?死んだ筈だろ!」


【もちろん、死んだわ】


「なっ……何なんだよお前!?まさか幽霊だってのか!!?」


【そう、幽霊よ。まさか紀嶋君、幽霊が怖いだなんて言わないわよね?】


 万桜はクスクスと馬鹿にするように笑った。

 それに苛立った浩介は立ち上がり、万桜を押し倒した。


「ざっけんな!誰がテメェなんか怖がるかよ!!!」


 浩介はかつて、学校で不良グループに媚びる反面、万桜によく八つ当たりをしていた。

 万桜が自習中の時は、机を蹴ったり、背後から罵倒した。

 万桜とすれ違った時は、肩パンをしたり、わざと転ばせた。

 弁当を窓から投げ捨てたこともある。

 たまに視線を向けてくることがあったが、その度に怒鳴っていた。

 当時の万桜は、反撃してくることはなかった。

 そのため浩介にとって、万桜は完全にストレス発散用の玩具だった。


「テメェみてぇな女にビビるかよ!!何されても何も出来なかったクセによぉ!!なぁ?馬鹿にしやがってよぉ!!立場教えてやろうか!!?あ”ぁ“!!!?」


 馬鹿にされたのが気に食わなかったのか、浩介は一気にまくしたてた。

 生前の万桜なら、気圧されて目を逸らしていただろう。

 しかし今の万桜は、全く動じていなかった。

 

【弱い犬ほどよく吠えるって言うわよね】


「はぁ!!?弱ぇのは………ッ!!!?」


 万桜は真顔で浩介を見つめていた。

 その瞳はドス黒く、吸い込まれそうな程だった。

 全てを見透かされているように感じたのか、気圧されたのは浩介の方だった。


「おっ……お前………何なんだよ!!!?」


【さぁ?今の私って何なんでしょうね?】


 万桜はそう言うと、嗤ってみせた。

 その様を恐れ、浩介は万桜が倒れるベッドから後退った。

 

“トンッ”


 後退っている最中に、背中に柔らかいものが当たった。

 ギクリとし、視線を後ろに向けてみる。

 見慣れたエプロンが目に映った。


「ッ!!母ちゃん!!コイツヤベぇんだよ!!」


 そう言いながら、浩介は母親の方に顔を向けた。


「……は?」


 浩介の動き、表情が固まった。

 蜘蛛、ムカデ、ダニ、ゴキブリ、コオロギ、カマドウマetc……。

 浩介の母親の顔が、それらの蟲達で覆われていた。


「ヒッ…ヒィイ!!!」


 浩介は慌てて母親から離れた。

 母親はひしめく蟲達を少しずつ落としながら、浩介に近づく。

 落ちた蟲も浩介の方を見ていた。

 

「うっ…うおわぁああああああああ────!!!!」


 浩介は悲鳴を上げ、慌ててベッドに上がる。

 しかしその先は壁のため、逃げ場は無ない。

 浩介は壁に背中を付けた状態で、怪物と化した母親に怯えた。


【あらら。さっきの威勢はどこに行っちゃったのかしら?】


 すっかりパニック状態の浩介を、万桜は呆れた様子で見つめていた。


「おっ…おい!これお前がやったのかよ!!?」


【……】


「お、俺への仕返しのつもりなのかよ!!?なぁ!!おい!!」


【……】


「何とか言えよクソアマァ!!!」


 無言の万桜に居ても立ってもいられなくなり、浩介は掴み掛かった。

 万桜は溜息を吐く。


【お母さんのこと大事にしていたら、こうならなかったと思うわよ……】


「はっ!?どういう意味だよ!!?」


【限界を感じてたのよ。あなたにも。お父さんにも……ね。その証拠に、内側が暗かったわ。そこに付け入らせてもらっただけよ】


「何訳わかんねーこと言ってんだ!!?」


【馬鹿に何言っても無駄のようね】


「はぁ!!!?」


【私に構っててもいいの?】


 万桜は首を傾げながらそう言った。

 すると2人の間に、母親が割って入ってきた。

 母親は蟲だらけの顔を浩介に向ける。

 そして両手で浩介の顔を掴んだ。


「うわぁ!!や、やめ……やめろよ!!!キメェんだよ!!!離せ!!離せよ──!!!!」


 浩介は涙や涎を撒き散らしながら喚く。

 必死に逃れようと暴れるが、母親の力は異常に強く、引き剥がすことができなかった。

 至近距離で数百匹の蟲が、不規則に蠢く。

 落ちた蟲達が浩介の足や腹部を這い回り、徐々に顔の方まで登っていく。

 次第に痛みも走り出した。


「痛っ!!!痛ぇ!!!痛ぇ!!!やめろ!!!もうやめてくれよ─────!!!!」


【自分より弱い相手には高圧的。そんなあなたにはお似合いの最期なんじゃない?】


「痛ぇ!!!痛ぇよ!!!!助けっ……助っ………助けて───!!!!」


【サヨナラ。弱虫君】


 母親が蟲まみれの顔を、叫び続ける浩介の顔にくっつける。

 浩介の顔が蟲で覆われていくのを見届けながら、万桜はこの場を去った。

紀嶋きじま 浩介こうすけ


自分より弱い者には強気。万桜に嫌がらせをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ