34.万引きの話
午後6時頃。
出席番号28番深水亮太は、繁華街のコンビニにいた。
学校、会社帰りの者達で、店内は混み合っている。
亮太は他の客を避けながら、店内を歩き回った。
商品が並んだ棚を見渡し、時折目だけを頭上に向ける。
ある程度歩き回ったところで、亮太はパンが並んだ棚の前に立った。
その中で、丁度近くにあったコロッケパンを手に取る。
それから、また店内を移動した。
すれ違う人々を、手慣れた様子で避けていく。
そしてあるタイミングで、亮太は上着の内ポケットにコロッケパンを入れた。
ふと、レジの方を見る。
4人掛かりで忙しそうにレジ打ちをする、店員達の姿があった。
亮太はひそかにニヤリと笑うと、コンビニから出た。
「いや~~うめ~~~」
公園まで移動した亮太はベンチに座り、コロッケパンを頬張っていた。
ホクホクしたジャガイモの食感や、パンのほんのりとした甘さを味わう。
しかし、そのコロッケパンの味は普通に食べる時以上だった。
「くっ…へへっ……wやっぱ美味ぇわwこうやって盗んできたモン美味ぇw」
亮太はよく万引きをする。
最初は出来心だった。
2ヶ月程前、ふと「万引きをしたらどうなるのだろう」という考えが頭に浮かび、それから行動に移すまで時間が掛からなかった。
最初に盗んだのはおにぎり。
店員も誰も見ていない中、ズボンのポケットに入れて店を出た。
犯罪であることは自覚している。
そのためか、帰宅しても心臓がバクバク鳴っていた。
盗ってきたおにぎりを食べるかどうか迷ったが、捨てるのも勿体ない気がした。
袋を開け、口に入れる。
そのおにぎりの味は、今まで食べてきたものの中でも格別だった。
先程まで緊張の面持ちだった亮太だったが、完食した頃には笑っていた。
それからというもの、亮太は万引きにハマっていった。
バレずに物を盗むことにスリルを感じ、それが快感に繋がっていた。
楽しいうえに成功すれば商品が手に入る。
そこらのテレビゲームをするよりも楽しかった。
コンビニだけに飽き足らず、スーパーや百円ショップ、本屋等も狩り場にするようになった。
このように、亮太の万引きは徐々にエスカレートしていった。
腕も最初の頃より上達し、防犯カメラも脅威に感じなくなっていた。
万引き無しの生活を、考えられなくなっていた。
「やっぱ楽しいしやめらんねーわwここまでやっててバレないとか俺天才なんじゃね?いや、店側が馬鹿なのかwへへへw次はどこでやるかなぁ?」
今まで盗みを働いてきた店を嘲笑し、次の万引きのことを考える。
次はまたジャンルの違う店にしよう。
2~3個盗んでもバレないのではないか。
1日で店を何件回れるか挑戦するのも楽しそうだ。
万引きだけにも関わらず、様々な考えが頭に浮かんだ。
【随分楽しそうね】
「うおわっ!!?」
急に背後から耳元に囁かれ、亮太は驚きベンチから立った。
背後を見ると、一人の少女が立っていた。
亮太はその少女に見覚えがあった。
「おっ……お前確か………!」
【あなたのクラスメイトだった三日月万桜よ。忘れてた?】
万桜は不満そうに亮太に近づく。
その際ベンチをすり抜けており、それを見た亮太は後退った。
「お前…死んだんじゃ!!?」
【そう、死んだわ。交通事故でね。そして幽霊になった。まぁ、私のことなんてどうでもいいじゃない?】
万桜は顔を近づける。
こんな状況だか、亮太は少し新鮮な気持ちになった。
万桜の顔をよく見たことがなかった。
【万引きなんていけないわね。御両親が悲しむわよ?】
「うっ……うるせぇな!関係ねぇだろ!」
【御両親だけじゃないわ。お店にだって迷惑掛かってるのよ?あなた程の馬鹿だと解らないかしら?】
「はぁ?黙れや。たった100円とか200円とかで細けぇんだよ。てか防犯機能ガバガバな店側が悪ぃだろ」
【その100円や200円のものをいくつ盗んできたのかしらね。塵も積もれば山となるってことわざ知ってる?被害額の合計はいくらになっているのかしらね……】
「せっ…説教垂れてんじゃねぇよ根暗女が!」
【ふ~ん?……そう】
万桜は無表情になり、右手を前に出した。
「は?何だ……う”っ!!!???」
突然亮太の腹と頭に激痛が走った。
あまりの痛みに、立っていられなくなる。
「ぐぁ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”痛い”痛い”痛い”痛い”痛い”─────!!!!!」
地面を転げ回る亮太を見ながら、万桜は話し始めた。
【お店は生きるために商売をしているの。商品を仕入れて、お客さんに売って、それで初めて生きるためのお金が稼げる。その命綱とも言えるものを、あなたは横取りしたのよ?】
亮太は痛みで話どころではない。
それでも万桜は続けた。
「う”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”────!!!」
【お金が無ければ物は買えない。こんなの子供でも解ることよ?やっぱり反省させて解らせるしかないかしら?】
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”──────!!!!」
泣き叫ぶ亮太の腹と頭が膨張していく。
そして、まるで生き物のようにウネウネと動き出していた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”─────!!!!!!」
【反省する前に死にそうね。サヨナラ】
“パァァァン!!!”
弾けるような音が公園中に響き渡った。
辺りに血飛沫が舞う。
激痛で暴れ回っていた亮太は既に大人しくなっていた。
【万引きによって得たもの、全部出たかしら?】
クスクスと笑い、万桜は公園を出て行く。
血溜まりの中心に倒れている亮太の腹部と頭部には、ポッカリと穴が空いていた。
深水亮太
万引き常習犯。




