33.悔いる話
『ヒヒヒ。さぁ言ってみろ愚民共!この僕を抜いていったい何を話し合っていたんだ?』
通話に入ってきた十海人により、再び沈黙が訪れた。
唐突な参加からの、その横暴な物言い。
その場にいた全員がポカンとしていた。
恭也もそのうちの一人だったが、ひとまず声をかけた。
「あぁ~……十海人君、ようこそ」
『そういうのはいい。僕は何の話をしているのか訊いてるんだ。頭大丈夫か?』
「あ~ごめん───」
『「頭おかしい?」はこっちのセリフだわ厨二病』
恭也の謝罪に、低い声が挟まる。
それが里桜のものだと解ったのか、十海人のニヤけた表情が固まった。
朱莉のスマホの画面には、蔑みの目をした里桜が映っていた。
『いきなり入ってきてさぁ、アタシ達のこと愚民とか、ナメてんの?』
『いっ、いやぁ…そのぉ………』
『アンタとアタシらってタメだよね?アンタって何が偉いの?言えよ厨二病。てかいつ完治すんのそれ?』
『まぁまぁ、そこまでにしようや里桜。想、説明お願いできひん?』
『は、はい。解りました』
不満そうな里桜を朱莉が抑え、一旦その場は落ち着いた。
まさか里桜がいるとは思わなかったのか、十海人はすっかり恐縮してしまっている。
少し腹が立っていた恭也は、「ざまぁみろ」と声に出さずに呟いた。
しかし想の説明が終わった頃には、十海人は元の調子に戻ってしまっていた。
『ほぉ~、成る程なぁ』
『はい。それで、是非とも十海人君の考えも聞かせていただきたいのですが……』
『人間技じゃないっていうのは同意見だ。10人も行方不明にするのも、2人を狂わせるのも、並の人間にできるとは思えないからなぁ。そもそも僕達のクラスばかり狙われている辺り、怨みが籠められているとしか思えん。若山まで死んだしなぁ』
十海人はどこかのアニメキャラの決めポーズのような姿勢を取りながらそう言った。
恭也の中に再び苛立ちが生まれる。
里桜もまた十海人を睨んでおり、朱莉に宥められている。
先程から静かな知基は完全に聞く姿勢になっており、好実は不安な面持ちをしている。
それから、十海人は思わぬ発言をした。
『お前達はまだみたいだが、僕はもう真相に辿り着いている』
「え?」
『真相!?』
『それはいったい!?』
知基と想が身を乗り出した。
余程この事態の原因が知りたいらしい。
鼻で笑い、十海人は続けた。
『そもそも居ただろう?魚住栄太達12人の前に、最初にクラスから消えた奴が』
『……それって』
『そう、三日月万桜だ!』
万桜の名前が出され、恭也は少し動揺した。
揺らぐなと自分に言い聞かせてから、里桜の様子を見る。
彼女は下を向いていたが、怒っているように見えた。
以前十海人が似たようなことを言った時も怒りを抑えられず、危うく暴力沙汰になるところだった。
『クラスメイトが登校しなくなり始めたのが、三日月万桜が死んだ1週間後だ!不自然に思わないか?三日月万桜も被害者側だったら1週間も間が空くのは怪しいだろ!?魚住栄太からは1日1人くらいのペースだったにも関わらず…だ!その1週間は何だったのか?実に単純だ!怨霊となり力を蓄えていたんだ!僕達を殺すためになぁ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!』
口角を最大まで吊り上げ、十海人は笑う。
想と知基は困惑しており、好実は怯えている。
冷静なのは朱莉と恭也だけらしい。
ほとんど万桜の仕業だと発言しているとはいえ、十海人が自分に酔っているようにしか見えない。
現実的に考えてありえない話でもあるため、恭也はそこまで脅威を感じなかった。
ただ、この狂ったような笑い声が鼻につく程度だった。
『うっさい黙れ!!!』
『ヒィイイイ!!!』
我慢できなくなったのか、ついに里桜が怒鳴った。
調子に乗っていた十海人は悲鳴を上げ、再び縮こまる。
また場が静かになった。
『……えぇと、そうですね…。今日は一旦ここまでにして、また日を改めませんか?』
『そ、そうだね』
『せやな……』
「まぁ、それが良さそうだね」
気まずい空気の中、想の提案に全員が頷く。
それから、皆順に通話から抜けていった。
恭也はスマホを机に置いた。
「ふぅ、最後は何ていうか、一気に終わっちゃったな~。もう大丈夫だよ、万桜」
恭也は姿を消した万桜に呼び掛けた。
しかし、万桜はなかなか姿を現さない。
「………万桜?」
恭也は部屋中を見渡した。
万桜の気配は無くなっていた。
「……ごめん。気まずくしちゃって」
「気にせんといて。うちも十海人に困ってたし。ていうか多分皆そうやったで」
九重家では、落ち込む里桜を朱莉が慰めていた。
里桜は自虐気味に笑う。
「何か、万桜をイキるための道具にされてるみたいで嫌で……それで、つい……」
「解る。解るよ。うちだって日和のことあんな風に言われたらキレるし」
「全部万桜の仕業なんて、……ありえないよ。絶対」
「せやな………」
朱莉は里桜の言うことを肯定していく。
そんな中で、万桜のことを思い返していた。
朱莉から見た万桜は、表情が暗く、休み時間でもずっと勉強をしているような生徒だった。
一度話しかけたことがあったが、相槌しか拍たないためか、会話が弾まなかったことを憶えている。
それ以降、勉強の邪魔をしたら悪いと思い、一度も話しかけなかった。
「……万桜かぁ。思えばあんまり喋ったことないねんなぁ……。なぁ里桜、万桜ってどんな子?」
「えっ……?」
「うちあの子とあんまり面識無くてな。せやさかいどんな子やったか知りたいの」
朱莉はそう言って里桜に微笑みかける。
里桜は万桜と過ごした日々を思い返した。
「万桜は、良い子だったよ。アタシなんかに優しくしてくれて……勉強を教えてくれて……身体を大丈夫にしろって、叱ってくれて………。嬉しかった。こんなにアタシを大事にしてくれる人いなかったから」
「うんうん」
「それに、とても頑張り屋だった。学校でも塾でも、一日中勉強してた。厳しい家系だったみたいだけど、それでも頑張っていたこと、誇りに思う」
「偉いな」
「うん。………だからこそ、悔しいんだよ。万桜のために、アタシ、何もしてあげられなかった……。今でも思ってる。……あの時こうしていたら、万桜は死ななかったんじゃないかって……」
次第に涙声になっていき、里桜の両目から涙が溢れ出た。
そんな里桜の背中を、朱莉は優しく摩っていた。
その頃、ポタポタとカーペットに落ちる液体を、万桜は眺めていた。
そこからゆっくりと視線を上げる。
万桜の目の前には、首を吊った好実の死体があった。
涙、鼻水、涎、尿……。
白目を剥いた彼女の下のカーペットに、あらゆる体液が混ざり合い、染み込んでいく。
【フフフ♪まったく、そんなに濡らしちゃって♪】
そう言いながら、万桜は好実の湿った頬に触れる。
死ぬ直前に何度も謝る好実の声が、未だに耳に残っていた。
【じゃあね♪あっちの世界も楽しいわよ♪知らないけど】
万桜はそう言い残し、踵を返して去って行った。
薄暗い部屋に、好実の首吊り死体だけが残された。




