31.愛の話
それから万桜は、憎しみのままに動いた。
“これから”がある者全員を、地獄に落としてやろうと決めた。
水中の化け物に喰われた栄太。
彼氏の秘密を暴いてしまった早苗。
袋を被った人間達の仲間となった信吾と竜平。
ぬいぐるみ達と仲良くなった心愛。
目の幻覚に一生苦しめられることになった太一。
右手に浮かんだ男の呪詛に翻弄され、最後は死んでしまった勇二。
赤ん坊の霊に迫られ、そのまま行方不明となった萌花。
ラジオで名前を呼ばれ、同じく行方不明となった鳴海と卓。
謎の女性に真っ二つにされた孝。
トラックに撥ねられて死んだ若山。
この隠神市に点在している怪異を一押ししたり、クラスメイトを唆したりするだけで、皆簡単に壊れていった。
「万桜?ねぇ、万桜」
【………ん、恭也?どうかした?】
「さっきからボーッとしてるみたいだけど、どうしたの?」
【フフフ、ごめんね。ちょっと昔のこと思い返してた。恭也と付き合い始めたこととか……ね】
「万桜……」
クラスを壊しに掛かる前に、万桜は恭也を仲間に加えた。
霊体になってからは、生きている時よりもかなり自由が利く。
里桜や家族、クラスメイトの様子を見ているうちに、黒ずくめの男の正体が恭也であることを突き止めた。
その頃には姿を自在に現せるようにもなっていた。
万桜は恭也の部屋に入り、姿を現した。
死んだあの夜のことについて詰め寄る。
すると恭也は驚愕しつつ、万桜のことが好きで、好きすぎて、いつの間にかストーカーにまで発展していたことを告白した。
その様子を見た万桜は、今からでも付き合ってみないかと提案をした。
自分にここまで好意を持っている人間は珍しい。
何かに利用できるのではないかと考えた。
恭也はすぐに了承し、万桜の言うことなら何でも聞くようになった。
由美と純、雄大を始末し、教室に爆弾を仕掛けて多くのクラスメイトを死に追いやった。
【恭也に聞きたいことがあるんだけど……】
「何?」
【人を殺すことについて、抵抗は無いの?】
「え?抵抗?無いよ、全然。今さらどうしたの急に?」
【ごめんなさい。私の頼みを何でも聞いてくれるから、恭也自身心の中ではどう思うのかな……って】
「僕は万桜のためなら何でもできるよ。それが殺人でもね。父さんや母さん、クラスの皆なんてどうでもいい。君のためなら命だって惜しくない。“愛”なんだ。これは」
【滝川君のこともどうでもいい?随分仲が良かったみたいだったけど?】
「滝川君?誰だっけそれ?」
仲の良かった一喜を殺したことも、恭也は気に留めていないようだった。
寧ろ忘れていた。
【恭也って、人の名前や顔を憶えるの、苦手?】
「苦手というより、憶える必要性を感じないよ。ずっと万桜のこと考えてる。他人のことを憶える時間があるなら、僕はその時間を万桜との思い出作りに使いたい」
【……私の、どんなところを好きになったの?】
「色白で綺麗な肌、モデルさんみたいに長い脚、落ち着いて心地良い声、純黒で艶やかな髪、二重で黒曜石みたいな瞳、お淑やかな話し方、たまに見せてくれる可愛い笑顔、守ってあげたくなる寝顔、凛々しい怒り顔、こんな僕と恋人同士になってくれて、気遣いもしてくれる優しさ、クズな家族のために努力を続けた直向きさ、クズ女達にいじめられても学校に通い続けた強い精神力───」
【もういい、解ったわ。……あなた、そんなに私のこと好きだったのね………】
「うん、大好き!だからこうして万桜と共同作業ができて嬉しいよ」
恭也は嬉しそうに言いながら、パソコンを開き、立ち上げた。
慣れた手つきで操作し、画面に何かのプログラムのようなものが映し出された。
【順調そうね……】
「うん!これに万桜の力を合わせたら……」
【完成ね】
万桜と恭也は顔を見合わせて笑った。
まるで悪戯を考える子供のようだった。
『♪♪♪』
この中睦まじい雰囲気をぶち壊すように、恭也のスマホから通知音が鳴った。
「んっ?」
【あら、何かしら?】
「ったく、何なんだよ?」
恭也は眉をひそめつつ、スマホを手に取り起動させた。
通知はLINEからだった。
「何だろう?」
恭也はLINEを開く。
クラスメイトのほぼ全員が属しているグループに、1つのメッセージが来ていた。
【クラスのグループね。楽しそう。私と里桜は入ってないし。ていうか、もうほとんど人はいないだろうけど】
「……通話?」
LINEではメッセージのやり取りだけでなく、通話もできる。
ビデオ機能を使うことで、お互い顔を見せ合って通話することもできる。
グループの場合は大人数での通話が可能で、グループ通話と呼ばれる。
そして現在そのグループ通話が、ビデオ付きで行われている状態になっている。
【あら、楽しそう】
「……いったい何のために?」
現在この通話に参加しているのは、想と知基の2人だった。




