27.結果の話
結果が出るのは早いものだ。
生徒達がテストを全て返却されるのは、テスト期間が終わってから一週間後。
順位が出るのはその翌週となる。
万桜の手元には、採点されたテスト用紙で束ができていた。
(大丈夫かな……?大丈夫よね………?)
万桜は何度も点数を見直す。
現代文100点、古文98点、数学97点、化学98点、物理100点、日本史100点、倫理96点、英語100点、保健体育95点。
100点が4教科もあり、他もほとんど95点を超えている。
学年1位も充分あり得る点数だった。
それでも万桜は見直しを続けた。
採点ミスを見つかった場合、まだまだ点数が上がる可能性があったからだ。
しかし、何度誤答や解答例を見返しても、採点ミスは一つも無かった。
(これで……。これで、待つしか……ないんだ…………)
万桜は胸に手を当てて祈る。
1位になるということは、簡単なことではない。
万桜が警戒している生徒が、このクラスには2人いる。
1人は寺窪卓。
名門大学を目指す彼は、休み時間でも自習を行っている、言わばガリ勉だ。
勉強量だけなら、万桜と引けを取らない。
そしてもう1人は、出席番号2番の市松想。
彼は授業は真面目に取り組んでいるものの、休み時間は読書をしていたり、親友である出席番号25番の野坂知基と談笑している場面しか見たことがなく、自主的に勉強をしている様子はない。
にも関わらず、成績は常にトップをキープしている。
万桜が1位になれないのは、想の頭が良すぎるのだと言っても過言ではない。
天才肌とは彼のこと言うのだと、万桜は思っている。
(やっぱり…………あの2人以上じゃないと……)
卓と想。
この2人の壁を越えなければ、1位は絶望的だ。
2人の点数が自分より低いことを、万桜は願うばかりだった。
「はぁ………」
「さっきから溜息ばっかだね」
一日の楽しみである、里桜と2人きり塾帰り。
いつもは楽しく会話ができるのだが、今日は溜息しか出ていなかった。
「疲れてる?」
「そう言われるとそうかもしれない……」
「やっぱり、息抜きとか必要なんじゃない?万桜がリフレッシュしてるところ、見たことないような……」
「息抜きなら今してるよ…。里桜とだったら肩の力を抜けるから……」
「そ…そう……?」
里桜はキョトンとしていた。
「……こうして帰る途中とかだけじゃなくてさ、どこか遊びに行きたいな。遊園地とか」
「いいね。私も行きたいよ……。でも、お父さんが許してくれないだろうしなぁ……」
「お父さん、厳しいね」
「うん。でも、いつか行こう。絶対行こう!」
「うん。絶対行こう!」
2人は顔を見せ合い、クスリと笑った。
少し心が和んだ万桜は、テストのことについて話すことにした。
「……テスト返ってきたけどさ、不安なんだ。1位になれるかどうか、解らなくて……」
「そっ……そんなに悪かったの?」
「……いや、自分では良い点だと思うの。良すぎるくらい」
「何点?」
「全部95点以上。……そのうち100点は4教科」
「すごいじゃん!アタシなんか40点とかばっかだしなぁ……。てか、そんなに採れてるなら1位は確実じゃない?」
「そうとは限らない。クラスには、私以上に頭が良い人が2人いる。その2人を超えないと、私は1位になれない」
「げっ……そうだったんだ………。……でもさ、万桜なら大丈夫だよ。誰よりも頑張ってたんだからさ。アタシが保証する」
「里桜……」
「もし1位じゃなかったら、アタシがそいつらぶっ飛ばす」
「ちょっと、それはダメだよ」
里桜の冗談で、万桜はクスリと笑った。
里桜も釣られて笑う。
少し気分が軽くなった。
「……あっ、もう着いちゃった」
「そうだね。ありがとう里桜。ちょっと楽になったよ」
「どういたしまして。また話そ♪」
「うん」
万桜の家に着いたところでお互いに手を振って、この日は別れた。
里桜と話したことで、少し不安が解消された気がした。
それから1週間後。
運命の日がやってきた。
全授業後のホームルームにて、担任の若山が次々と生徒の名を呼び、成績表を配布していく。
万桜の心臓は早鐘を打っていた。
1位でなければ、また父に責められてしまう。
これまでの生活ができなくなってしまう可能性すらあった。
「九重」
「はい」
若山に呼ばれ、静かに返事をした里桜が立つ。
今日は万桜のことを見届けるために来てくれたらしい。
里桜は成績表を受け取ると、席に帰る際に万桜に向かって微笑みかけた。
『万桜なら大丈夫だよ』
昨夜の里桜の言葉が、脳裏に蘇る。
万桜は少しだけ勇気を貰えた。
(大丈夫……。私ならできてる。きっと………)
万桜は自分にそう言い聞かせた。
その後どんどん他の生徒が呼ばれていき、ついに万桜の番になった。
「三日月」
「はい!」
緊張が拭えていなかったせいか、声が裏返る。
しかしそんなことは気にせず、万桜は真っ先に若山の元へ向かった。
震える手で成績表を受け取り、自分の席に戻る。
それから成績表を表向きにし、ゆっくりと学年順位の欄を見た。
「………えっ」
順位を確認した途端、万桜の体が強張る。
学年順位の欄にあったのは、「3」の数字だった。
「………3……位……?」
万桜の頭の中が真っ白になる。
1位になれなかっただけでなく、結果は3位。
前回と比べて、順位が下がってしまっていた。
「想君凄いや。また1位だったね」
「日頃の勉強の成果ですよ」
知基と想の微笑ましい会話も。
「卓お前2位だったのか!前より1ランク上がったな!」
「次こそは1位を…」
一喜の褒め言葉を無視する卓の声も。
「……万桜、どうだった?」
里桜の心配する声も、全て素通りしていく。
今の万桜には、何も聞こえなかった。
市松想
頭脳明晰。常に敬語を使う。
野坂知基
気が弱いが心優しい。想と仲良し。




