26.友達の話
それから数日が経過した。
万桜は変わらない生活をおくっている。
華絵達から嫌がらせを受けながらも、勉強に励む日々。
それにも負けることなく、学校や塾に通い続けた。
そして気づけば、テスト期間に入った。
テスト期間は3日間で、1日3教科ずつ。
1教科の制限時間は50分。
万桜が受けるのは、現代文、古文、数学、化学、物理、日本史、倫理、英語、保健体育の9教科。
塾で習わない保健体育も含めて全て見直しをし、本番に臨んだ。
現代文のテスト中問題を解きながら、万桜はチラリと右斜め前辺りの席の様子を窺った。
その席には里桜が座っており、難しい顔で問題文とにらめっこをしていた。
LINEのやりとりで知ったが、テストの日は必ず教室に顔を出すらしい。
あまり良い点を採れないことも含めて教えてくれた。
仲の良い存在ができただけで、テスト中でも心が和んだ。
次の休み時間に、少しアドバイスをしてあげよう。
万桜は心の中でそう考えた。
こうして初日は終わり、その後の3日間のテスト期間は早く過ぎた。
「里桜~」
「あっ、万桜。お疲れ」
テスト期間最終日の夜。
万桜は塾帰りにいつもの公園のブランコで、里桜と合流した。
里桜は万桜にリンゴジュースを差し出した。
「えっ?それ……いいの?」
「もともと万桜のために買っといたから。テスト終わったし、ひとまずお祝い?」
「そうだったんだ。ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて………」
万桜は里桜からリンゴジュースを受け取り、ブランコに座った。
それから蓋を開け、ジュースを口に流し込む。
甘く、それでいて冷えたジュースは美味しかった。
「テスト期間終わったのに、それでも塾行かなきゃいけないんだね」
「……まぁ、ね。……学校のテストはゴールじゃないから……」
「深いね……」
「テストが終わっても生活は変わらないから。だから、もうこれくらいで……」
「行く?」
「うん」
2人は公園から出て、万桜の家へ歩き始める。
これがほぼ日課になっていた。
「里桜、テストできた?」
「う~ん……。いつも通り解らない問題の方が多かったかな。いやでも万桜のおかげでちょっとはマシになってるかも」
「そっか。それなら嬉しいなぁ」
「万桜の方は大丈夫?確か1番にならなきゃいけないんだよね?解けた?アタシのせいで勉強に集中できなくて、成績に影響出てたらどうしよう……」
「それはないよ絶対」
「ホント?テスト前見直し、ほぼアタシに構ってくれたけど…。いや、嬉しかったけど……大丈夫だった?」
「大丈夫だって。それに、教えるのも勉強になるんだよ。自分の解らないところを再確認できるって意味で。……とにかく、里桜のせいで困ったとかそういうの、一度もないから!」
「ホント?」
「うん。里桜は私にとって、……その、何ていうか……。心の支えって感じだから」
「……そうだったんだ」
里桜は一度キョトンとして、万桜から目を逸らす。
それから、口元を右手で隠した。
「ちょっと!?里桜、どうしたの?」
「いや………その………何か………照れる………」
「えっ、照れてるの?」
「うん………」
口元を隠している里桜の顔を、万桜はまじまじと見つめた。
手が剥がれれば、きっと口角が上がっているところが見えることだろう。
「……アタシ、本当にクズでさぁ……、家族とかに怒られてばかりだったから……。その、心の支えみたいに言われるの、嬉しくて……」
「自分のことクズとか言わないで。里桜は良い子なんだから」
「どこまで言ってくれるの………」
里桜は今度は両手で顔全体を覆った。
「…………それを言うんだったら……万桜だって。……アタシと仲良くしてくれて、ありがとう」
「えぇっ!?……こ、こちらこそ……ありがとう…………」
「……その、確認なんだけどさ」
「何?」
「アタシ達、…もう、友達……ってことで………いいん…だよ…ね?」
自信が無いのか、消え入りそうな声で里桜は訊く。
それに対し、万桜の答えは一つだった。
「いいよ。私も、里桜と友達でいたい」
「ホント?」
「本当だよ。ずっと友達でいようよ」
「ッ!!…………うん、ずっと友達!」
表情の変化が乏しい里桜だったが、この時は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
2人が友情を再確認したところで、万桜の家が見えてきた。
「あぁ……着いちゃった」
「着いちゃったね」
「もっと里桜と話してたかったのに」
「また話せるよ。アタシ、学校行くから」
「そうなの!?嬉しい!」
「うん。……それじゃあ、また明日。勉強頑張ってね」
「うん、また明日ね」
2人はお互い手を振る。
万桜が家に入るのを見送った後、里桜は家路に着こうとした。
「………ん?」
里桜が道に出ると、そこに人が立っていた。
黒ずくめの服で、フードを被っているため顔は見えない。
体格を見るに、男だろうと里桜は判断した。
「………」
「なっ……何…………?」
その怪しい雰囲気に、里桜の警戒が一気に高まる。
武器を持っていてもおかしくない。
逃げれば後ろから刺されかねないため、里桜は下手に動くのを恐れていた。
「アッ……アタシに何か用?」
「………」
男は何も言うことなく、また何もすることもなく、里桜に背を向けて去って行った。
「………何だったの?」
里桜はひとまず胸を撫で下ろし、去った男に疑問を抱きつつ、今度こそ家路に着くのだった。
「ただいま……」
弱々しくそう言って家に入る万桜を待っていた人物がいた。
万桜の父だ。
「帰ったか」
「はい………」
「テスト期間は今日までだったようだな。できたのか?」
「……はい」
父は冷たい声色で、淡々と話す。
万桜はそんな父に気圧され、体が固まってしまう。
「1位以外は許さんからな」
父はそれだけ言い残すと、自室の方に歩いて行った。
今回の話は短く終わった。
万桜は床に膝から崩れ落ちる。
いつ頃からか、父と話す度に体が強張り、動悸がするようになっていた。
里桜には大丈夫と言ったものの、父を前にした途端一気に不安が押し寄せてきた。
1位じゃなかったらどうしよう。
そんな考えたばかりが頭に浮かんできた。
しかし、今回のテスト期間はもう終わった。
今の万桜にできることは、結果を待つことだけだった。




