表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万 怨念  作者: マー・TY
26/70

24.拠り所の話

 この後、万桜は予定通り塾に着いた。

 しかし、雄大達に連れて行かれた里桜のことが頭から離れなかった。

 そのため勉強も上の空。

 講師に当てられても、まともに答えを言うことができなかった。

 休み時間に自習をしている時も変わらない。

 連絡先でも交換していれば良かったと、今になって後悔した。

 勉強が手に付かないまま、閉館時間になった。

 塾から出ると、万桜は慌てて駆け出した。

 そのままいつもの公園に向かう。


「はぁ……はぁ…………里桜!」


 足は速い方ではないが、それでも走る。

 息を切らしながらも、万桜は公園に到着した。

 

「里桜!!」


 万桜は公園中を見渡し、名前を呼んだ。

 しかし、里桜はどこにもいない。

 滑り台にも、砂場にも、ベンチにも、2人で会話をしたブランコにも。

 公園内に、里桜の姿はなかった。


「……いなかった」


 一気に体の力が抜けた万桜は、ブランコに座った。

 今日も横に里桜が座っていて、お喋りをしている自分達を想像していた。

 しかし今はひとりぼっち。

 万桜はただ寂しげに、ゆらゆらとブランコに揺れた。

 

「………帰らなきゃ」


 ブランコから立つと、万桜は鞄を持って公園から出た。

 胸の中にポックリと穴が空いたような感覚。

 勉強ばかりの日々を送っている中で、こんな感覚を味わうのは初めてだった。

 おそらくこの穴を埋めてくれるのは、里桜なのだろう。

 そう思えるくらい、いつの間にか里桜は万桜の心の拠り所になっていた。




 翌日。

 いつもの日常がまた始まる。

 昨日はあまり眠れず、起きた時頭が痛かった。

 まだ里桜のことが気になって仕方がなかった。

 

「里桜………」


 里桜のことが頭から離れない。

 せめて今日も学校に来ていてほしいと、密かに願う。

 昇降口を通過し、靴を履き替えて教室に入る。


「あはは、邪魔~!」


 自分の席に向かう途中、万桜は乃愛に突き飛ばされた。

 床に倒れた万桜を、乃愛と、一緒にいた華絵と晶子が笑い飛ばす。


「あっはは!どんくさ!」


「何ボケ~ッとしてんのよ気持ち悪いw」


「だっさ~!」


 3人は万桜を馬鹿にしながら、教室から出て行く。

 万桜は無言で立ち上がり、制服に付いた埃を払う。

 そこへ恭也が近寄ってきた。


「三日月さん、大丈夫?」


「……」


 万桜は恭也の声に応えることなく、自分の席に着く。

 それから機械のように教科書類を鞄から出していった。

 華絵達からの嫌がらせも、恭也の心配の声も、もはや気にならなかった。




 この後の授業にも集中できず、昼食の味も感じられず、トイレで華絵達に水を掛けられた後の寒さも気にならず、塾での講義もやはり集中できず……。

 そうして今現在自宅に向かって歩いている。

 万桜からすれば、こんなにも何の感情も湧かない日は今まで無かった。

 

「はぁ………」


 自然と溜息が出た。

 目が重く、体も少し怠い。

 どうやらちゃんと疲れは溜まっていたらしい。

 家に帰っても少しでも勉強を進めなければならないのだが、今はもう何もしたくなかった。

 ただただ横になりたいと思っていた。

 それに明日は休日であるため、少しでも体を休めたいところだった。

 父は許してはくれないだろうが。


「…………あっ」


 そんなことを思っているうちに、目の前に公園が見えてきた。


「………」


 もしかしたらと思い、万桜は公園に入った。

 自然と足取りも早くなる。

 ブランコまで来たところで、万桜は足を止めた。


「………あっ、万桜」


 ブランコに座っていた里桜が、バツが悪そうな顔をして手を振った。


「里……桜…………」


 胸の内に溜まっていたものが溢れ出す。

 万桜の両目から、一気に涙が流れ出た。


「ひぐっ……うえっ……」


「ちょっ、ちょっと万桜!」


 里桜がブランコから降り、駆け寄った。

 万桜は泣きながら里桜に抱きつく。

 里桜はどうしたらいいか解らず、万桜の背中を優しく摩った。




「心配したんだから!」


 ブランコに座り、涙が止まったところで、万桜は里桜に文句を言った。

 里桜は申し訳なさそうに応える。


「本当にごめん……」


「里桜があの後何かされてないかって……本当に心配したんだから……。大体どうしたのその怪我?」


 里桜の頬には絆創膏が貼られていた。

 よく見たら首にも痣が付いている。


「あぁ……これ?」


「昨日の2人に酷いことされたんじゃ……?」


「まぁね。雄大乱暴なの好きだから」


「乱暴なのって?」


「……アタシ達セフレでさ、たまにあんな感じで誘い合ってその……セックスとかするんだよ。まぁ、アタシからは誘ったことないけど」


「………!」


「勇二はそうでも無いんだけど、雄大は途中で首絞めてきたり、気に入らないことがあったら簡単に殴ったりしてくるから、正直嫌なんだ。首絞めたらよく締まるって────」


「やめてよ!」


 万桜は里桜の話を無理矢理制止させた。

 

「ご、ごめん……。嫌な話だった……?」


「そうじゃなくて、もうそういうことやめて!自分の体なんだよ!?簡単に差し出しちゃダメ!」


「万桜………」


「もうやめて!自分の体、大切にしてよ!」


「万桜………。解った…やめる。やめるから……」


「もうしちゃダメだよ?」


「うん。……もうしない」


「絶対だよ?」


「うん」


 里桜は万桜に圧倒されていた。

 家族は里桜がどんなことをしようがされようが、全く関心を持とうとしない。

 そのため、こうして誰かに叱られるのは久しぶりだった。


「万桜……」


「何?」


「……その、ありがとう」


「……うん、どういたしまして」


 里桜のお礼に、万桜は笑顔で返す。

 里桜もまた、控えめに笑った。

 叱られたとはいえ、それは嬉しいことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ