表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万 怨念  作者: マー・TY
25/70

23.思いがけない話

 翌日もまた、万桜にとって憂鬱な一日が始まった。

 気づけば制服に着替えて荷物を持ち、学校に向かっていた。

 今日も勉強漬けの日になることだろう。

 昇降口に上がり、靴箱を開ける。

 幸い上履きは無くなっていなかった。

 少しホッとしつつ、上履きを取り出す。


「万桜?」


 上履きに履き替えたところで、万桜は名前を呼ばれた。

 万桜に話しかけてくる人物といえば恭也くらいしかいないが、彼は苗字で呼んでくる。

 それに、今万桜を呼んだ声は女のものだった。

 万桜は声の主の方に顔を向けた。

 そこに立っていたのは里桜だった。


「里…桜……?」


「おはよう」

 

 里桜は静かにそう言った。

 一方、万桜の心の中は響めいていた。

 里桜とは夜の公園でしか会えないと思っていた。

 今日もまた会う約束をしていたが、まさかこうして朝から会えるとは夢にも思わなかった。

 里桜は先程からキョトンとした様子で、首を傾げている。


「万桜、どうしたの?」


「い、いやぁ…。まさか里桜と学校で会えるなんて思ってなかったから、驚いちゃって」


「あ~なるほど。……アタシ全然学校来ないもんね」


「自分で言う?」


「あはは……。まぁ、アタシだって学校来るよ。留年しない程度にはね。もし留年したら家族に何されるか解らないし」


 里桜は自虐気味に笑い、靴を履き替えた。

 2人は並んで廊下を歩き始める。


「ちゃんと毎日授業に出て、テストで良い点を採ったら留年なんてしないよ」


「正直、学校つまらなくてさ……」


「つまらない?」


「勉強してると、何だか惨めな気持ちなるっていうか……」


「そういうものなの?」 


「うん……」


 そう言って、里桜は俯いてしまう。

 彼女にとって学校や勉強は、辛いものなのだろう。


「万桜は、どう?」


「え?何が…?」


「学校、楽しい?」


「えっ?………あ~………」


 どちらかと言うと、楽しくはない。

 万桜自身、友達を作って楽しく学校生活を送りたいと思っている。

 しかし休み時間も勉強ばかりしているせいで、仲の良い友達はいない。

 それどころか、嫌がらせを受けている始末だ。


「楽しいよ」


「本当?」


「うん。里桜も毎日来たらいいのに……」


「……その方が、いいのかな?」


「絶対いいよ」


 万桜は敢えて嘘を吐いた。

 ひとりぼっちの身としては、里桜には毎日学校に通ってほしかった。

 そうなれば、自分は嫌がらせを受けなくなるかもしれないし、何よりもっと里桜と居たかった。




 昼休み。

 万桜は里桜と一緒に食事をすることになった。

 里桜の方から誘ってくれたことが嬉しかった。

 喜びつつも、万桜は鞄を持って里桜を連れて教室から移動する。

 着いたのは屋上前の階段だった。


「食べようか」


「えっ?……あっ、うん」


 2人は階段に座り、それぞれ食べ物を出す。

 万桜は家政婦から手渡された弁当を。

 里桜はメロンパンとコーヒー牛乳を。


「あれ?里桜、それだけなの?」


「えっ?うん……」


「足りる?」


「あんまりお腹空かなくてさ……。気にしないで」


 そう言いながら、里桜はメロンパンが入った袋を破る。

 万桜もまた、弁当箱を開けた。

 半分が梅干しが一つ乗った白米、残りの半分は唐揚げや揚げちくわ、ミートボルトのような惣菜が入っている。


「………ねぇ、万桜」


「えっ?何?」


「いつもここで食べてるの?教室で食べないの?」


「……」


 万桜は口籠もった。

 今でこそ里桜がいるが、いつもは一人で食べる。

 ただ、教室でひとりぼっちで食べるのは、どこか惨めな気分になるのだ。

 しかし、それを里桜にストレートに言えない。


「何だか、教室うるさくて……。私、そういうの、苦手なのよ……」


「………そうなんだ」


「ほら、ここなら静かだし……滅多に誰も来ないし……」


「……そうだね。…静かすぎる気もするけど」


 里桜はキョロキョロと周りを見渡す。

 2人が出す以外の音は、何も聞こえない。

 明かりは、窓から射し込む太陽光だけだ。


「でも、こういう雰囲気は嫌いじゃないかな。アタシがいつも居る公園と変わらない気がするし」


「……そういえば、里桜は公園で何してるの?それも真夜中に」


「………別に……何にも」


 里桜はそっぽを向いて、コーヒー牛乳を飲む。

 その様は、どこか悲しげだった。




 放課後。

 部活動生は部活動へ。

 そうでない者は、家に帰ったり、教室に残って駄弁っていたり、話題のカフェに行ったりと、自由な時間となる。

 万桜は家に帰ることなく、塾に直行する。

 そんな彼女に、里桜は着いてきてくれた。


「学校で散々勉強したのに、まだやるんだよね。万桜って勉強好きなの?」


「……う、うん、もちろん!」


 ここでも嘘を吐いてしまう。

 塾にだって、無理矢理行かされているのだ。


「……勉強好きって、凄いなぁ」


 里桜はそう呟く。

 万桜が見る限り、授業中の里桜はほとんど机に突っ伏して眠っていた。

 今から代わりに塾で勉強してきてほしい程に。


「……里桜も頑張れば、好きになるよ」


「そうかな………」


「うん。だからまず授業で寝ないこと」


「うっ……バレてたか……」


「真面目にね」


「あはは………はっ…」


 突然里桜は前方を凝視した。

 目の前から、素行の悪そうな2人の少年が歩いてきた。

 万桜はその2人に見覚えがあった。

 どちらもクラスメイトの筈だ。

 少年2人は、万桜達の前で止まった。


「雄大……勇二……」


「あ?里桜じゃねぇか」


「今日は真面目に学校行ってたのかよ?」


 雄大と勇二は制服姿の里桜を見て、ニヤニヤと嗤っている。

 この2人はクラスで評判の不良で、里桜と同じでようにあまり学校では見たことがなかった。

 すっかり戸惑っている万桜に、雄大が目を向ける。


「あ?何だコイツ?里桜、お前こんなトロそうなのと連んでんのかよ?」


「いやでも雄大、この娘なかなか悪くないぜ」


 軽い口調で勇二も絡んでくる。

 万桜は助けを求めるように、里桜を見つめた。

 里桜は冷たい目で雄大と勇二を見ていた。


「まぁ何でもいいわ。てか里桜、お前今日もヤらしてくれんだろ?あぁ?」


「お前どうせこのあと暇だよな?さっさと行こうぜw何ならそっちの娘も─────」


「待って」


 里桜がピシャリと言い放ち、万桜に伸ばされた勇二の手を払った。


「この娘は今から予定あるの。ヤるなら別に、アタシ一人でもいいでしょ?足りないなら、萌花達も呼べば?」


「あ?ンだよその口の訊き方は!?」


 里桜の態度が気に入らなかったようで、雄大が食ってかかる。

 大柄の雄大に凄まれても、里桜は顔色を変えなかった。


「………」


「ハッ!!上等だ!殺すつもりでヤってやるから来いや!!」


「うわやっちまったな里桜w雄大機嫌わりーのにwまっ、俺も混ぜてもらうけどなぁw」


 里桜は雄大に腕を掴まれ、引っ張られていく。

 相変わらず軽い調子の勇二もそれに続いた。

 万桜は何もできず、その光景を見続けることしかできなかった。

 連れ去られる最中、里桜は万桜に顔を向ける。

 先程の冷めた表情から、どこか陰のある笑顔へと変わっていた。

 まるで万桜を安心させるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ