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八百万 怨念  作者: マー・TY
20/70

18.悔いの話

「………う~ん」


 朱莉が目を覚まして最初に見たのは、白い天井だった。

 照明の眩しさに、三度瞬きをする。

 頭がグラグラし、眩暈がした。

 それに耐えつつも、恐る恐る体を起こした。


「朱莉!……良かった。目が覚めて」


 朱莉はゆっくりと視線を、声がした方に向ける。

 パイプ椅子に座った里桜が、心配そうに朱莉のことを見つめていた。

 朱莉は手元の方も見てみる。

 ここで、自分がベッドの上に寝ていたことに気がついた。


「里桜……ここ、どこなん?」


「病院だよ。爆発で起こった火事の中、先生が助け出してくれたんだって」

 

「……先生………火事…………爆発……」


 朱莉は一つ一つの単語を口にする。

 それらが頭の中でパズルのピースのように組み合わさり、記憶が形作られていく。

 そして朱莉は、学校で起こったことを鮮明に思い出した。

 クラスメイト達の死体までリアルに。


「うっ……」


「朱莉!?」


 朱莉は吐き気を覚え、口を押さえる。

 頭もガンガンと痛み出した。

 里桜が慌てて朱莉の背中を摩り、介抱した。


「ゼェ……ゼェ…………」


「朱莉!大丈夫!落ち着いて!大丈夫だから!」


 里桜は朱莉を安心させるために言葉を投げかけ続ける。

 それだけではダメだと思い、朱莉の頭を撫でたり、抱き締めたりもした。

 その甲斐あってか、朱莉の呼吸が安定してきた。

 やがて朱莉は、落ち着きを取り戻した。


「もう大丈夫。ごめん里桜。おおきに……」


 朱莉は冷静さを取り戻し、そう言った。

 首筋を汗が伝っている。

 

「落ち着いた?」


「うん……。落ち着いた……」


 朱莉は頭を抱え、そう呟いた。

 まだ頭がズキズキと痛む。

 意識を失う前の記憶も完全に戻ってきていた。

 そこで朱莉は、今一番気になっていることを問うた。

 

「里桜、日和は?」


「………」


「日和もおるんやろ?この病院に。できたら会わせてほしいんやけど」


「……」


 日和の名前を出すと、里桜は俯いてしまった。

 朱莉は首を傾げる。


「里桜、日和はどないしたん?」


「……」


「教えて。……黙っとるんじゃ……解らへんよ………」


 朱莉の声に、嗚咽が混ざり始めた。

 里桜は顔を上げる。

 手で頭を抑えたまま、朱莉は咽び泣いていた。


「朱莉……」


「……なに?」


「本当は、解ってるんじゃないの?」


「…………」


 里桜の言うとおりだった。

 爆発した教室で最後に見た日和。

 彼女は、下半身が無くなっていた。

 今となって考えてみれば、そんな状態で人が生きていられるとは思えなかった。


「里桜の、言うとおりやで。……せやけど、未だに思うてまうの。……何事もなく、日和が、顔を見せてくれるんやないかって」


「朱莉………」


「解っとる。……解っとるけど……どうしても……認められへん。……日和が死んでもうたって、認めたくない自分がおんの……!」


「………朱莉」


 やるせなさで、朱莉はベッドに拳を打ちつける。

 里桜は何も言わず、朱莉の手に自分の手を重ねた。




 神凪高校2年3組で起きた謎の爆発。

 当然事件になり、警察も動くようになった。

 爆発での死亡者は日和を初め、一喜、勇二、魅杏、結子、それから、出席番号5番岡田幹太、11番相模奈津子、27番日江井友香、31番馬門杏子の9人。

 当時教室にいたその9人全員と、校舎裏で死亡した雄大含めて10人が犠牲になったのだ。

 担任若山がまともに連絡が取れる生徒は15人。

 元は38人だったが、今では半分以下の人数になってしまっていた。


「………はぁ」


 午後6時過ぎ。

 事情聴取を終えた若山が、警察署から出てきた。

 警察からは、明日また残った2年3組の生徒達を含めて話を聞くと言われた。

 今回の爆破事件は、何者かが意図的に行ったとして間違いない。

 それがいったい誰なのか。

 警察はどうなのかは知らないが、若山自身、見当が付かなかった。

 

「くそっ……。誰があんなことしやがった……?いったい何が起こってんだよ……」


 若山は苛立っていた。

 自分のクラスの生徒を殺した人物に。

 それから、生徒の死を止めることのできなかった自分に対して。


「……そもそも、何でこんなことになったんだっけな……」


 若山は教師という職業に誇りを持っていた。

 苦労する場面も多々あったが、生徒のことを考えれば、キツいとは思わなかった。

 生徒達は友好的に接してくれて、皆に愛着を持てた。

 多くの生徒達を皆立派に育て、社会に送り出す。

 そんな目標を立てていた矢先、あの事故が起きた。

 若山の生徒………三日月万桜が交通事故で亡くなったのだ。

 万桜は夜中に突如車道に飛び出し、車と衝突したのだという。

 指導が不充分だったと、この時の若山は自分を責めた。

 それから2度と同様の事故が起きないよう、生徒の指導により力を入れた。

 しかしその努力と裏腹に、生徒が次々と不登校、または行方不明になっていった。

 残念なことに若山には彼らを救うことはできず、ついには今回の爆破事件が起きてしまった。

 こんなことがあって、教師を続けていけるのか。

 若山は憂鬱な気分になった。


【若山先生】


「ッ!!?」


 聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

 目の前に、死んだ筈の万桜が立っていた。


「三日月……お前……どうして……?」


【先生、私、寂しいの………】


「三日月!?」


 万桜の瞳から、涙が零れる。


【助けて】


 若山に聞こえるようにそう呟いた後、万桜は背を向けて走り出した。


「ッ!?三日月待て!待ってくれ!!」


 若山は万桜の後を追う。

 どうしても、話がしたかった。

 今回の件について何か知っているのかもしれない。

 いや、それ以前に、教師として謝りたかったのだ。

 警察署の前の、車道側の歩道。

 万桜はそこに、背を向けたまま立っていた。


「三日月……」


【………】


「……俺自身、お前がここにいるってことに、正直混乱している…が……聞いてくれないか……?」


【………】


「あの夜何があったかは、俺には解らない。だが、お前が亡くなったのは、俺のせいでもある。教師としての責任が、あの時の俺には足りなかったんだ。赦してほしいとは言わない。だが、言わせてほしい。……すまなかった……!!」


 若山は万桜に謝り、頭を下げた。

 実際万桜の死に、若山はそこまで深く関わっていない。

 しかし、謝罪せずにはいられなかった。

 

【先生】


 再び呼ばれる。

 若山が顔を上げると、万桜がすぐ目の前に立っていた。

 

「三日月……?」


【こっちだよ♪】


「ッ!!?」


 万桜は不気味な笑みを浮かべ、若山の腕を掴む。

 それから、困惑する若山を引っ張り、車道に出た。


「おい三日月!……ッ!!?」


 迫ってくる大型トラックに気づいた時には、もう遅かった。

 生まれてから今に至るまでの記憶が、一瞬にして脳内に浮かび上がる。

 それが走馬灯なのだと、若山はすぐに理解した。

 時間の流れが遅く感じられたにも関わらず、一歩も動くことはできなかった。

 大型トラックは若山に勢いよくぶつかり、何メートルも先に撥ね飛ばした。


【フフ……フフフ………】


 万桜は嗤いながら若山に近づく。

 若山は、手脚が折れ曲がった状態で、仰向けに倒れていた。

 頭が割れたせいなのか、顔中血だらけになっており、全身痙攣していた。

 また、若山の体を根源に、血が四方八方に飛び散っていた。

 変わり果てた若山の姿を見て、万桜はまた不気味に笑った。


【またね。先生。……ちゃんと指導してね……】


 万桜はそう呟き、闇の中に消えていった。

岡田幹太おかだかんた

坊主頭の男子。球技が得意。


相模奈津子さがみなつこ

ゲーム好きの女子。


日江井友香ひえいともか

アイドル好きの女子。


馬門杏子まかどあんず

オカルト好きの女子。


若山健二わかやまけんじ

2年3組の担任。

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