プロローグ
夏が過ぎ、涼しい風が吹くようになった日の夜。
全てはそこから始まった。
“ドッ!!!”
鈍く、それでいてよく響く音、そしてその数秒後に何かが叩きつけられるような音が鳴る。
それが起こったのは車道。
帰宅中の人々が集い、傍観や撮影、通報を始める。
車道には破損した車から降りて狼狽えている男性と、血を流して倒れている制服姿の少女の姿があった。
人身事故。
人々の目はその現場に釘付けになっていた。
そんな中、人混みの中を一人の少女が飛び出した。
私服姿のその少女は金髪ショートで、一部に赤いメッシュを入れている。
金髪の少女は倒れている少女に駆け寄り、血が付着するのも気にせず抱き起こした。
「万桜!万桜!しっかりして!!」
金髪の少女は顔を真っ青にしながら名前を呼ぶ。
しかし、万桜と呼ばれた少女は応えない。
それもその筈。
彼女の肌は所々擦り切れ、右腕はあり得ない方向に曲がっている。
左の目玉が飛び出し、頭からは血と一緒に白くトロッとしたものが垂れ落ちていた。
生きているとは到底思えない状態だ。
「万桜……。なんで……………!」
万桜の顔に涙が落ちる。
金髪の少女も、万桜が二度と目覚めることがないということを悟ったようだ。
「なんでアンタが……!なんで……!なんで……!!」
金髪の少女は何度も嘆く。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。