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八百万 怨念  作者: マー・TY
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11.お迎えの話

 翌朝。

 ホームルーム後の職員室では、若山健二がクラス名簿をボーッと眺めていた。

 彼は神凪高校2年3組の担任を勤めている、体育科の男性教師だ。

 そんな彼は今、ただボーッとクラス名簿を見つめていた。

 

「若山先生、どうかされましたか?」


 同僚の教師が声を掛ける。

 若山は頭を掻いて応えた。


「いや、近頃うちのクラス、欠席が多いなと」


 今日の2年3組の欠席者は11人。

 解っている者のうち、7人が行方不明、2人が登校拒否とのことだった。

 欠席者の数は、栄太が行方不明になった日から次第に増えている。

 このペースで行けば今日も欠席者が出るだろうと、若山は考えていた。


「若山先生のクラス、呪われてるんじゃないですか?」


「いや呪いなんてそんな……。行方不明の生徒に関しては警察が調査を進めています。なので私は登校拒否の生徒の指導に力を入れることにします!」


「なる程。頑張ってください」


「はい」


 とは言ったものの、若山自身心の内には不安があった。

 行方不明者が5人も出る時点で普通ではない。

 何か良くないことが起こっているようだ。

 それが杞憂であってほしいと、若山は密かに願うのであった。




「欠席者増えたよね~」


「せやな~……」


「………」


 里桜は無言で周りを見渡した。

 ホームルーム後の教室は賑わっているように見えて、いつもより少し静かだった。

 欠席者が多いからかもしれない。

 そのことを話題にしている生徒も多かった。

 恭也の席に視線を移すと、彼もまた一喜と話し合っている。


「里桜~、悩み事?」


「ウチらで良ければ聞くで~」


「あ~……うん」


 自分の席に座っている里桜だが、現在机の前に立つ日和と、後ろから抱きついた状態で話してくる朱莉のせいで動けなくなっていた。

 こうして打ち解けてまだ間もないのに、2人共妙に距離が近い。

 里桜は一旦そのことは隅に置き、今一番気になっていることを話した。


「萌花、来てないなって……」


「萌花?」


「でもあの娘、3日に1回くらいのペースで休むよね?」


「いやまぁ、そうなんだけど……」


 里桜は、萌花のことが心配で仕方がなかった。

 昨晩バイト帰りに出逢った萌花は、何かに怯えている様子で、話を聞く前に繁華街の方に走り去ってしまった。

 後を追ったが彼女に追いつくことはできず、見つけたのは路地裏の謎の血溜まりだけだった。

 その後何度か連絡を入れたが、一度も繋がることはなかった。


「………あっ」


 トイレにでも行っていたのか、結子と魅杏が話ながら教室に戻ってきた。

 

「朱莉!ちょっと離して!」


「へっ?あぁ……どしたん?里桜」


 里桜は朱莉に手を離してもらい、席を立って結子達の元に急いだ。


「結子、魅杏、……ちょっといい?」


「あっ、里桜じゃん」


「何?何か用?」


 話を邪魔されたのが気に入らなかったのか、魅杏少し不機嫌そうに返した。


「萌花のこと、何か知らない?」


「萌花?…あぁ~、あの娘全然連絡着かないんだよね~」


 結子は不思議そうに首を傾げて応えた。

 

「ていうか、萌花と何かあったの?」


「……昨日の夜遭ったんだけど、……何かに怯えてる感じで、それで繁華街の方に走っていっちゃって、それっ切り……」


「へ~、大変だったね。魅杏は何か知ってる?」


「いや?知らないけど?」


「そっか。…まっ、そういうこと。ウチらは何にも知らないってことで」


「あぁ、……ありがとね」


 里桜は弱々しく笑い、礼を言った。

 自分はともかく、よく一緒にいる結子や魅杏も知らないとのことだった。

 萌花のことが、ますます心配になってきていた。

 

「ヒヒヒ。偽善者が」

 

 里桜の背後を十海人が通り、その際にそう罵ってきた。

 煽るようか笑みを浮かべている。

 言い返す前に、彼は教室を出て行ってしまった。


「何あれ?」


「マジでキモい。あの陰キャ」


 結子と魅杏は顔を見合わせ、十海人のことを罵り返す。

 それに対し、里桜はそんな気分になれなかった。

 萌花がいなくなったのは、自分が原因かもしれない。

 そう思うと、偽善者という言葉は胸に刺さった。




 1時限目の現代文。

 2年3組の生徒達は、一段落毎に一人ずつ教科書の物語文を朗読していた。

 恭也が当てられて読み上げている間、卓は複数の空いた席のうち、一つを見つめていた。

 そこは吉行鳴海の席だった。


(吉行が今日休んでる理由……。もしかして、昨日のラジオが原因なのか?)


 昨晩ラジオを流していると、不思議な放送が流れ始めた。

 機械的な女性の声が、人名を読み上げるといった内容で、その中に鳴海の名前も含まれていた。


『こんばんは。本日お迎えの方を発表いたします』


 この言葉から始まり……。


『以上です。それ程時間は掛かりませんので、しばしお待ちください』


 最後にそう言ってその放送は終了した。

 

(吉行ってラジオ好きって聞くし、あの放送聞いてた可能性あるよな………)


 本当にラジオの言う通りだったら、鳴海は何者かに連れて行かれたということになる。

 果たしてそんなことがあるものかと、卓は半信半疑になっていた。


「次、寺窪君お願い」


「あっ、はい!」


 国語教師に言われ、卓は教科書を持って立つ。

 

(……あのラジオ放送のせい……なわけないよな?ただ体調不良なだけだよな?)


 教科書を読みながら、卓はそう考えていた。




 放課後。

 疲れが溜まったのか、里桜は机に突っ伏していた。

 授業中でも、萌花のあの怯えた表情が頭から離れなかった。

 それくらい精神的に参っているのだろうか。

 あの後休み時間の度に萌花に連絡を入れたが、全く反応は無かった。


「里桜、帰るで~……って、何か元気ないなぁ」


 朱莉が声をかけてきた。

 里桜の目線に合わせてしゃがみ込む。


「…あ~、朱莉……。うん、…いいよ……。待ってて……」


「里桜、眠そうやなぁ。疲れとるの?」


「まぁね」


 里桜は顔を上げ、鞄に教科書やペンケースを入れ始めた。

 目が完全に開ききっておらず、動きも気怠げだ。

 そんな様子を見かねた朱莉は、ある提案を持ちかけた。


「里桜、明日休みやんな?」


「うん、そうだね…」


「遊園地行かへん!?」


「は?」


 里桜は気の抜けた返事をした。

 朱莉は2枚のチケットをヒラヒラさせながら見せる。


「里桜が学校によく来るようになったの最近やん?そりゃストレス溜まって疲れるわ。気分転換にパーッと遊ぶのが一番やで!」


「……え?いいの?アタシなんかが行って。チケット代だって………」


「問題ないで!実は日和と行く予定だったんやけど、あの娘用事できちゃってな。一人で行くのも心細いし、……お願いや!一緒に来てくれへん!?」


 朱莉が頭を下げてチケットを渡してくる。

 里桜は少し躊躇ったが、チケットを受け取る。

 朱莉は嬉しそうに目を輝かせる。


「行ってくれるん!?」


「えっ?……あぁ、うん」


「やったぁあああああ!!ありがとなぁああああ!!」


 朱莉は里桜を強く抱き締める。

 その無邪気さで、里桜は少しだけ辛いことを忘れられた。




 時間が流れ深夜0時前。

 卓は今日もラジオを着けながら数学の問題を解いていた。

 昨日流れてきた放送が気になり、今日もラジオ番組を聞いていた。

 

(ラジオを流しててあれを聞いたのは昨日が初めてだったけど、今日も流れるのか?それとも昨日のは何かの偶然だったのか……?)


 そんなことを考えながら、卓は自己採点を始めた。


「………あっ」


 普段はやらない筈の、途中式の間違いが多く見つかった。

 ラジオ放送のことが頭から離れず、集中できていなかったようだ。


「あーーっくっそ!……ダメだな……。よく考えたら解けるやつばっかだな……」


 卓はノートをめくり、解き直しをしようとした。

 そして丁度その時……。


“ザザ………ザザザザ……………”


 ラジオ番組の途中で、雑音に切り替わった。

 卓はノートからラジオに目線を移す。


『─────こんばんは。本日お迎えの方を発表いたします』


 雑音が晴れ、昨日と全く同じ台詞をスタートに、謎の放送が始まった。

 

「始まった………………」


 卓の目と耳は、ラジオに釘付けになった。

 機械的な女性の声が、人名を読み上げ始める。

 

『……江藤智久さん。………栗原陽太郎さん。………二反田みなみさん。………』


 聞いている限り、どれも知らない名前だった。


『……塗木依子さん。………斉藤弘毅さん。……小坂将輝さん。…』


 今呼ばれている、どこの誰かも解らない者達が連れ去られるのかもしれない。

 その中には、ラジオを聞いていない者も含まれているだろう。

 彼らは何も知らずに消えてしまうのだ。

 そう考えるとゾッとした。

 それと同時に、いつかは自分が呼ばれるかもしれないという嫌な考えが浮かぶ。

 そして、最悪なことにその考えは実現してしまう。


『……寺窪卓さん。………』


「えっ………」


 ついに卓の名前が呼ばれた。

 卓は放心状態になってしまった。

 その間も、名前は呼ばれ続ける。

 卓は声も出せなかった。


『以上です。それ程時間は掛かりませんので、しばしお待ちください』


「ッ!?」


 名前を全て読み終えたのか、締めの言葉が入った。

 それから雑音が入り、通常のラジオ番組に切り替わる。

 

「……俺………呼ばれたよな?」


 嫌な汗が流れる。


「ッ……!?」


 背後からただならぬ気配を感じた。

 卓は恐る恐る振り返った。


「ッ!!!?」


 そこにいたのは、白い人型の体に複数の顔がある不気味な存在だった。

 明らかにこの世のものとは思えない。


「なっ……何だお前……。………ッ!?」


 その白い人型の顔の中に、見覚えのあるものがあった。

 それは鳴海の顔と瓜二つだった。


「お前…………まっ……まさか…!」


『お待たせしました。オムカエニマエリマシタ』


 機械的な女性の声で、白い人型はそう言った。

ザザザ……

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