表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八百万 怨念  作者: マー・TY
10/70

8.悪態の話

 午後6時前。

 繁華街は寄り道する学生や帰宅中のサラリーマン等でごった返していた。

 その中に、神凪高校の女子生徒3人がいた。

 彼女達はいずれも2年3組の生徒だ。

 3人広がった状態で、道の真ん中を歩いている。


「そういえばさぁ、今朝の蛇石ヤバくなかった?」


 出席番号8番の栗山晶子は、クスクスと笑いながら言った。


「ホントそれ!ヤバかったよね~。乃愛怖かった~」


 出席番号34番の明利乃愛は、あざとい仕草を見せながら言葉を返す。


「全くね。陰キャがイキって調子乗んなって話よ」


 出席番号12番の白川華絵は不愉快そうに呟く。

 3人共、今朝の十海人が起こした行動をよく思っていない。

 正確に言えば、十海人自体を毛嫌いしていた。


「あいつたまに一人で不気味に笑ってるし、グロい本見せびらかすみたいに読んでるし。ホントキモいわ~」


「乃愛この間見ちゃったんだけど~、蛇石中庭で笑いながらアリ踏んづけてたよ~。何回も~」


「そんなことしてたの?普通に引くんですけど」


 気づけば十海人の気持ち悪さという話題で盛り上がっていた。

 3人共、十海人についての目撃談や噂を言い合い、笑い飛ばして消化していく。

 その途中で晶子が、話を今朝の出来事に戻した。


「思ったんだけどさぁ、十海人が言ってたこと、本当かな?」


「ん?何が?」


「ほら、万桜が里桜と組んでウチらのクラス呪ってるって話」


「あ~~、それねw」


乃愛は可笑しそうに嗤っている。

 どうやら信じていないようだ。

 それは華絵も同様だった。


「あんなのイキり陰キャの戯言でしょ。信じる必要無くない?」


「でもさぁ、ウチら万桜に恨まれるようなこと、けっこうやってなかった?」


 そう言って心配性の晶子は不安がる。

 生前の万桜に、3人共嫌がらせをしていたからだ。

 乃愛は少し考え込むような仕草を見せたが、華絵は一蹴した。


「馬鹿ね。あいつが今まであたし達になんかしてきたことあった?何も無かったでしょ。あいつビビりだったからね~。ていうか、こんな話はもういいわ。ほら、あそこで食べてくわよ」


 華絵はハンバーガーショップを指差して言った。

 今日は3人共外食して帰ることになっている。

 晶子と乃愛は頷き、先頭を歩く華絵に続いた。


「いらっしゃいませ~」


 明るく、それでいて控えめな挨拶が華絵達を出迎えた。

 注文をしようとカウンターに近づいた時、3人は目を見開いた。


「はっ?…里桜………?」


 カウンターに立っていたのは里桜だった。

 ハンバーガーショップの制服を身に纏い、丁寧な姿勢を取っている。

 里桜は貼り付けた笑みを浮かべ、首を傾げる。


「へ~、アンタここでバイトしてたんだ。いつも無表情の癖に、無理して笑顔なんか作っちゃって。今までそうやって男に媚びてたってわけ?」


 華絵は苦笑し、憎まれ口を叩いた。

 それに対し里桜はいつもの表情に戻り、右手でメニュー表を指した。


「ご注文は何でしょう?お客様」


 先程の挨拶と打って変わって、抑揚が無く冷たい声で言う。

 全く動じていないように見えた。

 華絵達は顔を見合わせて、ひとまず食べたいものを注文をした。


「以上ですね。お持ち帰りですか?」


「いや、食べてく…」


「畏まりました。3点で1700円になります。ポイントカードはお持ちですか?」


「持ってないわよ……」


 華絵達は金を出し合い、里桜に渡す。

 里桜は金をレジの入金口に入れ、レシートを出した。


「お待たせしました。番号が呼ばれるまでお待ちください」


 里桜はレシートを華絵に手渡す。

 ここまで終始同じペースを保っていた。

 3人はカウンターから離れ、注文をしたものを待った。


「何なのあいつ。面白くない」


「ね~。調子乗ってるよね~」


「うざっ」


 華絵は遠くから里桜を睨み付ける。

 次の客の相手をしている里桜は、笑顔の仮面を付け直していた。




 その頃、勇二は部屋に籠もっていた。

 塞ぎ込むような形で座り、左手で頭を抱えている。

 そんな彼の悩みの原因は、彼自身の右手の甲にあった。


「何なんだよこれぇ………」


 勇二の右手の甲には、男の顔が浮かび上がっていた。

 それは口や目を動かすことができ、明らかにただの痣や傷痕ではなかった。


「へははは……。死ねぇ……死にさらせぇ…。お前みたいなモンは生きる価値ねぇんだ……」


 顔は話すこともできるようで、勇二が存在に気づいた時から、このように悪態を吐いていた。

 黙っている時が一切なく、顔はずっと喋り続けている。


「死ねぇ……へはは……死んじまえよぉ………。この生きる糞溜めがぁ……」


「あ~~~っくそ!うるせぇなぁ!!」


 勇二は右手の甲を思い切り床に叩きつけた。


「い”っ!」


 激痛を感じ、勇二が床を転がった。

 手の顔の鼻からは血が垂れていた。


「痛ぇなぁ……痛ぇだろぉ……。死ねぇ……。そのまま死んじまえぇ………」


「痛ぇ!マジで痛ぇ!……コイツ血ぃ出んのかよ!」


 顔の神経は右手と繋がっているらしい。

 勇二は右手を庇いながら自室から出た。

 他の部屋で救急箱を見つけ出し、中から包帯を取る。

 それから急ぎ足で自室に戻った。

 

「くそぉ……!畜生!」


 勇二は包帯を、右手の上に巻いた。 

 そこに宿っている顔が埋もれ、何も見えなくなった。

 包帯に滲み出た血が顔の目印になっている。


「そうやって逃げるのかぁ……。そうやって目を背けるんかぁ……」


「ッ!?」


 それでも尚、顔は勇二に呪詛を浴びせ続けた。

 包帯を巻かれる前と調子は変わっていない。

 ただ、顔が見えなくなるだけに過ぎなかった。


「へははははは……。逃げろ逃げろぉ……。どうせ逃げられないがなぁ……。死ねぇ…。死ねぇ…。死ね死ね死ね死ね死ねぇ…」


「うるせぇ!黙れぇ!!」


 勇二は崩れ落ち、両耳を塞いだ。

 それでも顔の声は小さくなることはなかった。

白川華絵しらかわはなえ

気高い女子。万桜に嫌がらせをしていた。


明利乃愛めいりのあ

ぶりっ子。万桜に嫌がらせをしていた。


栗山晶子くりやましょうこ

華絵の腰巾着。万桜に嫌がらせをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ