入学パーティー(アーサー視点)
新入生への挨拶の為、パーティー会場へ向かう。
様々な貴族の令息•令嬢から挨拶を貰う。
ただ、ある令嬢からの挨拶に異変を感じた。
「王国の太陽に、ご挨拶申し上げます。わたくし、ジャスミン•ハレスでございます。アーサー第1王子にお会いする事が出来、胸がいっぱいでございます。王国に貢献出来るよう、学園にて、勉学に励みます。」
目を輝かせながら、こちらを見つめて挨拶する。
ハレス家のジャスミン伯爵令嬢だ。
うっとりと見つめるその表情は、まるで媚薬を飲んだ娘のようだ。
俺は、背筋に寒気を感じたが、いつも通りの笑みで返事を返した。
なのに、、、、。
挨拶が終わった筈の彼女は、何故かそのまま私の横に居る。まるで婚約者のように。
その時、
「アーサー王子、ご機嫌よう。」
紅の髪の令嬢が挨拶してきた。
私の婚約者のマリアンヌだ。
「マリアンヌ。入学おめでとう。」
「ありがとうございます。恐れ入ります。新入生への殿下のご挨拶のお邪魔になるかと思いますので、わたくしはこれにて失礼致します。」
マリアンヌは、軽くお辞儀をして、ジャスミン嬢をチラッと見たが、無言でこの場を去っていった。
その様子を見ても、ジャスミン嬢はニコニコと微笑みながら、私の横を離れない。
ねっとりと纏わり付く彼女に吐き気がしそうだ。
「ジャスミン嬢、俺はこれからそれぞれの部署の者に挨拶しなければならない。これにて失礼する。」
「かしこまりました。是非、向かわれて下さいませ。また、学園で殿下にお会いする事は出来ますでしょうか?」
ジャスミン嬢はしゅんとした表情をしながら、返事をした。
「勿論だ。」
「では、次回ランチをご一緒するお約束をして頂けませんでしょうか?」
薄いピンクの瞳をうるうるさせながら、上目遣いでこちらを見つめて懇願する。
「わかった。約束しよう。」
何故、そんなに俺に関わってくるのか?
ジャスミン嬢の思惑が読めないので、一先ず承諾した。
あの不敵な笑みに気分を悪くした俺は、テラスに出た。
その時、階段を降りようとしてバランスを崩した令嬢が目に入る。
『危ないっっ!!』
咄嗟に、令嬢の腰に腕を回し、こちらへ引き寄せる。
令嬢がこちらを見て、目が合う。
ピンクダイヤのような輝く瞳が俺の瞳を見る。
『美しい…。』
瞬間、無意識に自分の胸元へ抱き寄せてしまった。
薄いベージュの髪からは、ラベンダーの香油と何故か陽だまりの匂いがした。
懐かしい。
幼い頃、母上と出掛けた、ラベンダー畑の匂いだ。
ほぅっと安心したのも束の間、令嬢は俺の胸元を押して離れた。
「も、申し訳ございませんっっ!助けて頂きありがとうございました。」
焦ってお辞儀をする彼女は、なんて可愛らしいのだろう。
「怪我をしていないようで、良かった。」
微笑み、そう返事をすると、彼女は更に焦って、逃げるようにこの場を去っていった。
ダッシュで逃げる彼女の背中を見ながら、アーサー王子は横にいる護衛騎士に尋ねた。
「あの令嬢は誰だ?」
「アリエル•バーミリオン男爵令嬢でございます。」
「ふーん。そうか。」
抱き寄せた感触を確認するかのように、俺は、左手を眺めた。
マリアンヌという婚約者がいるのに、今日の俺はおかしい。あの令嬢を抱きしめて、彼女の匂いをもう一度嗅ぎたいと思っている。
『あの気持ち悪い、ジャスミン嬢のせいかもしれないな。』
溜息をひとつ吐き出すと、俺は、会場のホールに戻った。