イレギュラー
「…おかしい…」
自室に戻ってきた私は、水色のドレスのポケットから、綺麗にアイロンがかかった白いレースのハンカチを出した。
私は、ハンカチを落とさなかった。
ゲームのシナリオの強制力が働いて、私が意識しなくても自然に落とすのだろうと思っていたのだが
、落とさなかった。
しかし、攻略対象者の第1王子、アーサー王子とは、出会ってしまった。
入学初日に王子と出会うシナリオは変わらなかったのだが、出会うキッカケが変わった。
何故。何故だろう。
手元にあるハンカチを眺めながら、一つの可能性が頭をよぎった。
「入学初日に、イレギュラーな出来事が起こった。だから、ズレが生じた…。…のか??」
あくまでも可能性だ。私自身は何も行動を起こしていない。けど、シナリオ通りにならなかった。
考えられる事は、私の知らない所で、イレギュラーな事が起こった。と言う事。
それは、単なる偶然か?それとも故意的か?
「調べる必要があるな…。」
ベッドの中に潜り込む。
毛布に包まりながら、抱きしめられたあの時の香水の匂いを思い出して、今更ながらに顔を真っ赤にしてしまった。
朝、準備をしていると、侍女から朝食の準備が出来たと報告があった。
大きな食堂へ向かうと、義兄以外の家族が朝食をとっていた。
私も学園に入学したのに、義兄は自分だけで先に馬車で学園に向かう。私なんて眼中にない。
長テーブルのいつもの席に着く。
すぐに朝食が準備される。
無言で、食べ終わった後、食後のコーヒーを飲んでいる、バーミリオン男爵に声をかけた。
「お父様、一つお願いがあるのですが。。。」
「…なんだ…?」
コーヒーカップを置き、男爵が返事をする。
「…影を1人頂きたいのですが…」
「何故だ?」
「学園の令息の女性関係を調べる為でございます。」
男爵はふーむ。と少し考えた後、
「よかろう。…ライ。」
すっっと、黒装束の者が男爵の横に現れた。
「今日から、お前はアリエルの影だ。アリエルの希望を叶え、護衛しろ。」
「…御意!」
「アイツをお前にやる。それでよかろう。」
「ありがとうございます。感謝致します。」
ヨシ!上手くいった!
男爵め!馬車は出さないくせに、男の事なら、惜しみ無く助けてくれるなー。
「乗り合い馬車の時間がございますので、私はこれで。行って参ります。」
私は、玄関に向かう。
「…ライ。」
「…はっ。」
ライの声だけ聞こえる。
「これから宜しく。で、早速だけど、昨日の学園パーティーで、何か不審な行動をした者が居ないか?探って欲しいのだけど。出来る?」
「お任せ下さい。」
「ありがとう。宜しく。」
ささっと気配が消える。ライを貰えて良かった。
彼は、此処に来てから、1番優秀な人材で任せた仕事は完璧な為、信用出来ると感じていた。
「何か、分かると良いのだけど。」
イレギュラーは何故起こったのか?
私は調べ始めた。