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第1話 姫 窃盗する

「ダイヤモンド姫様~?! ダイヤモンド姫様~!!」


メイドや、執事達が誰かを探す声が響いていた。

必死に探す彼らの前に、巨大なシルエットの影が落ちる


「何事だ」

「王! も、申し訳ございません……!」


 慌てて集まり、ひれ伏すように頭を垂れるメイドと執事たち、

事情を察した大臣から説明を受けた王、ウォーカー十六世は、深い溜め息をついた。


「我が娘ながら、わんぱくがすぎる」




 駆ける、駆ける。

 疾走する。走り抜ける。

 踊る、周る、滑って笑う。


 森を越え崖を降り、お堀の水面を走り抜け、兵士たちの目を魔法でくらませる。

 そうすればもう街が見える。たどりついて人混みに紛れてしまえば、もう誰も追いつけない。


 その少女は、齢は13、14の頃の用に見える。珍しい色の髪の毛を一つにしばり、町人の服を着ていた。

 彼女こそ、「ダイヤモンド」、通称「プリンセス・ダイヤモンド」、

 このフォルテオレ国の王、ウォーカー十六世とその妃、クイーンアンバーの娘である。


 だが、その魂は。


「やれやれ、宮廷魔術師たちにももっと訓練が必要ね」


 いつか焼野原進と呼ばれた「ダイヤ」は、息でもするように

 宮廷魔術師達が自分につけた『シール』を、ひっぺがえしてポケットにしまった。

 一応、あとで自分はずっと王宮にいたと分かるようにしないと彼らの命がないのだ。

 ムカつくシールだが、破り捨てるわけにはいかない。



 彼女は、人々が往来する美しい街並みを、うっとりするように眺めながら歩く。

 記憶の中の世界とは違って、この世界はどこもかしこも彼女には美しく見える。


 美しいびいどろを売る店の音も、お香の店の不思議さも、宝石の店の面白さも、

 絨毯の店の異国情緒も、食べ物屋の香りも、武具や防具屋、宿屋の活気も。


 そして何より行き交う商人や冒険者や獣人たち!まるで天国だ!


 しかし。彼女はそんな王都の広場に来て、顔をしかめる。

 すました顔の衛兵が張り出しているものを、住民たちが苦い顔をして読んでているからだ。


「また税が上がるのね……」

「また戦が始まるのか……?」

「あの無能王をなんとかしてほしいな……」

「ばか、そんなこと言ったら殺されちまうぞ……!」


 無能王、野蛮王、奇天烈王。

 そう、彼女、ダイヤの父親は政治手腕の不得手さから、そう呼ばれていた。

 いかんせん、ウォーカー十五世が『平和王』と呼ばれたほど慕われた王だったのが良くない。

 自分の父が悩んでいることを、彼女も理解しているつもりであった。


 しかし。


 一歩路地裏に入る。そこには、腹をすかせた浮浪児たちが、身を寄せ合っている。

 これが現実だというわけか。

 

 ふと、近くの通りに馬車が止まった。

 ダイヤは、息をするようにその『王家の紋章』がついた馬車からリンゴを数個窃盗する。

 

 そして、浮浪児たちに近寄る

「ねえ」

 顔を上げるボロボロの彼らに、リンゴを差し出す

「……?」

 理解できずにいる彼らに、ダイヤは言う

「食べて」

 ダイヤは微笑む、しかし

 浮浪児たちふと何かに気づいたような顔をして、走り去っていってしまった。

「ああ、今日もだめだった」


 ダイヤはため息を付いて、リンゴを拾う。

 そしてあるき出し、歩きながら、まるで息でもするように素早い仕草で

 寄付を募る修道女の持っている、からっぽのかごの中にリンゴを置いて、すぐにその場から去った。彼女には、突然リンゴが現れたようにしか見えなかっただろう。



 人を救うなんてできない。

 結局自分で変わるしか無い。


 誰かがそういった言葉を、ダイヤは思い出していた。

 そんなときだった。ふと、広場に居たダイヤの耳に子供の悲鳴が聞こえた。

 

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