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00-1 焼野原進という女の人生


 本当は、デザインとか、そういう仕事がしたかった。


 巨大なシンクに流れていく泡を眺めながら、焼野原進はふと考える。

 ここはとある市内の病院の、食堂の厨房。


 彼女、焼野原進はここで皿洗いのアルバイトをしている、27歳の女だ。


「だからぁ~! お前は生き方フワッとしすぎやねん!」


 彼女一人しか居ない休憩室に、テレビから流れるお笑い芸人のコントの声が響き渡る。

 休憩時間、寒々しいコンクリートに鉄のロッカーと畳という趣の、古いにも程がある休憩所で、

 休憩時間に与えられるついでの病院食を食べる。

 

 食べ終わったら、ぼんやりと病院裏のベンチで一人座り、ひたすら休憩時間が終わるのを待つ。

 それが終わったら、必死で働く。終わったらタイムカードを押してアパートに帰る。


 それが、進の毎日だ。

 


 その夏、進は疲弊していた。

 病院の厨房は過酷な労働環境で、夏場は40度を超え、湿度も100%になることなんてザラだった。

 

 『だからぁ、おまえは、生き方、フワッとしすぎやねん』


 毎日毎日、生きるために必死にアルバイトをする進の頭に、お笑い芸人のコントがやたらこびりつく。

 帰り道、コンビニで仕事情報誌を観て、ため息をつく。

 この不景気で、どこもスキルのない高卒はもう雇ってくれない。

 

 本当は、デザインとか、そういう仕事がしたかった。

 でも、家賃と食費と光熱費を稼ぐのが精一杯で、学校へ行くための貯金する余裕もない生活だ。

 

 学歴もスキルもない人間は居ないのと同じ。

 同じだから、私も居なくても良いのか。


 田舎の1K、家賃4万円、1階は大家の物置のアパートの布団に寝そべり、進は泣きそうになる。

 それでも堪えるのは、彼女がまだ夢という希望を捨てられないからだろうか。



 しかし現実は非情である。

 その日の深夜、進の住むアパートは進を道連れにして崩壊した。

 地震? いや、そうではない。ただ、運が悪かったのだ。

 そう、運が悪かっただけなのだ……。





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