5章節目 〜それが駄目でも〜
バンド甲子園での優勝を目指してメンバー集めを始めた裕美は、ヴォーカルとして幼馴染の花辺田奏恋を勧誘する。
裕美曰く、奏恋は歌が上手く容姿も良いため、バンドのフロントマンに適任との事で勧誘したらしいが、何やら理由があるらしく断られてしまう。
一歩目から躓いてしまった裕美達だったが……。
「で、どうだった? やっぱり駄目だった?」
教室を出た裕美に誠が声を掛ける。
「うん、やっぱり駄目だった。駄目元だったんだけど、学校の存続がかかってるなら、やってくれるかもって思ったんだ。だって奏恋ちゃんはこの学校、この場所の事をとても大切に思っているから。」
今にも泣きそうな顔で裕美が呟く。
「あんなことが有ったんだから無理もないよ。そもそも、僕は奏恋さんに苦しい思いをさせてまで学校を守りたいとは思わないかな。」
流石、誰もが認める人畜無害、真面目人間の誠は紳士的な事を言う。
「奏恋ちゃんのことが好きだからって私が悪い事したみたいに言わないでよ。中学生の時に一回振られてるくせして未だに好きなんてストーカーみたいで気持ち悪い。」
……紳士的とは少し違った。
「ちっ、違うよ! 僕はあくまで一般的な事を言っただけであって、嫌な事を人にさせるべきではないと言ったんだっ! それに振られてないっ! 花火に誘ったら裕美ちゃんと3人でならって言われただけで……。」
裕美の言葉に、普段は冷静な誠が珍しく狼狽えている。
「はいはい。冗談だよ。それに、奏恋ちゃんの
事を好きになる理由は嫌でもわかるしね。」
裕美は優しく微笑んでそう言った。
裕美と奏恋が幼なじみということは、誠とも幼馴染だということだ。
3人は物心付く前から一緒に居て、もう10年以上の中なのだ。
「だから違うって! もう! この話は終わり! 結局何も進展してないから、早く次の案を決めないと。」
誠はやっと冷静さを取り戻してきた。
「そうだね、奏恋ちゃんにお願いする前に、断られたらどうしようって考えていたんだけど、バンドメンバーを探すのって中々難しいと思うから、いっその事私たちだけで出来ることと平行して探すのが良いんじゃないかなって思ったんだよね。」
「と、言うと?」
「断られちゃったけど、私の中でヴォーカルは奏恋ちゃんしかいないんだよね〜。」
「ふむふむ。それはわかるよ。」
「やっぱりバンドの顔って言ったらヴォーカルだし、歌が上手いのは勿論のこと、可愛くなくちゃね。
「それもわかる。」
「だからヴォーカル以外のメンバーを探すのが先決だなって思ったんだよね。」
「まあね。」
「でも生徒数が少ないから中々楽器経験者なんていないよね。」
「そうだね。」
「だから探す人数は少しでも少ない方が良いよね。」
「………。」
「それに、言い出しっぺが何もしないってのもちょっとね。」
「……つまり何が言いたいの?」
「私たちが楽器をやれば良いじゃん!」
「(やっぱりそうきたか……。)それって自分がやりたいからってだけじゃないの?」
「まあ、それも有るっちゃ有るけどね。でも現実的にそれが良いと思うんだ。」
「それも有るんだ……。まあわかるけど、僕たち楽器を触ったこともないし、楽器って凄く高いんでしょ? そもそもこの島に楽器屋さんなんて無いし……。」
「うーん、フェリーで本土まで行って……新幹線? うわっ、往復3万円もするの!? 一番安いのが高速バスか……。時間がかかるけどこれが一番安くて良いかなっ。」
「あの〜、裕美さん。一人で何を言ってるんですか? って、フェリー!? 新幹線!? まさか……。」
「そう! 東京に行って楽器を買おう!」
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