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幼馴染に好かれる、なんてのは幻想です  作者: 桐崎蓮兎
仲のいい幼馴染が俺のことを好き、なんてことはなかった
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第七話

……気まずい……。猛烈に気まずい……。

荒川と二人並んで歩いているのだが、会話らしいものを一切していない。おかしいな。女子との下校って、もっとこう……胸が踊るもんじゃないんですかね……。


まあ、さっきあんな事があったんだ。そっとしておくのがいいだろう。俺なんかに話しかけられても嫌だろうし、俺も荒川にかける言葉がない。そんな状況だし、会話が発生しないのも仕方ないか。


荒川を横目で見ると、胸に手を当て、少し俯いていた。暗いのもあって、顔色はうかがえない。多分相当暗い顔してるだろう。


つーか荒川結構かわいいな。ボブっぽい感じのショートヘアーに、大きめの目とスッとした鼻。それに一際目を惹く一部分。うん、文句なく美少女。成瀬とかいう化け物(超失礼)の横にいるせいで目立ってないけど、普通にモテそうな見た目してる。まあそもそと他の男子と殆ど話さない俺の主観なんてあてにならんけどね。


そういや荒川の事をちゃんと見るのは初めてかもしれない。まあそもそもそんな機会あってもじっくり観察とか気持ち悪いだけなんだ……。



「あの……聞きたいことがあるんだけど……いい……?」


荒川は突然顔を上げ、俺に話しかけてきた。聞きたい事か。まあ大体予想できるけど。


「別に構わないけど、何だ?」

「えっと……助けてもらってこんな事聞くのもほんとごめんなんだけど……」

「いいよ別に。気にしねーし」


今更何言われたってもう何とも思わん。いや死ねとか言われたら流石にキツイな。


「ほ、本当に怒らない?」

「大丈夫だ。遠慮なく聞いてくれ」

「そ、そう……じゃあ聞くけど……」


恐る恐るといった感じで、荒川は言葉を詰まらせながらも言葉を紡いだ。


「何で、助けてくれたの?」


まあ、普通は疑問に思うよな。自分が忌み嫌ってる相手に助けられるなんて普通は考えられないからな。


「何でって言われてもな……。理由は特にねえよ」

「え?いや……でも……」

「まあ強いて言えば、俺は見知らぬ重い荷物を背負ったお婆さんにすら手を差し伸べてしまう程、心優しき人間って事だな」

「…………」


何故無反応……。渾身のボケをスルーされると精神的に辛いもんがある。


「あー……今のは冗談だ。変な事言って悪かった」

「え?あ……そうなんだ……」


荒川はなぜか少し残念そうな顔をする。いや見間違いか。そんな顔する訳ないしな。


「本当のとこは健が無茶しやがったからそれに付き合っただけだ。それ以上でもそれ以下でもねえ」

「そうなの……?」

「それに、殆ど健一人でやってたろ。俺はお前と逃げてただけだ。あれ?今考えたら俺何もやってねえな」


なんかあいつの手柄を横取りしたみたいで気が引ける……事もねえな。あいつだしどうでもいいか。


「まあ要するに、俺はお前を助けた訳じゃないから、特に助けた理由とか聞かれても、答えられねーな」

「えーっと……それは無理があると思うんだけど……」


チッ……。適当言って煙に巻こうと思ってたが失敗か。


「あの……誤魔化さないで教えてくれると嬉しいんだけど……。あ、もちろん言いたくなかったら大丈夫だよ……?」


いらん気使わせちゃったな。これ以上適当なこと言うとバカにしてるとか思われるかもしれない。本当の事言っておくか。


「なんつーか、目の前で困ってる人が居たらじっとしてられないっつーか、後で後悔……というかなんか気持ち悪くなるっつーか……なんか言葉にし辛えな」

「あー……何と無くわかるかも……」

「まあそんなとこだ。単に自分の為に動いた、それだけだ」


別に俺は道端で困っている人が居たら積極的に声をかける程の聖人って訳じゃない。でも襲われてる人を見て見ぬ振りするほど畜生でもない。

それに、あそこで見捨ててたら、多分色々思い出して、布団中で考えすぎて寝れなくなりそうだったからな。


「白峰くんって優しいんだね……」

「はぁ?話聞いてたか?」


さっきの話を聞いて、どこをどう優しいと思ったのかさっぱりわからない。陽キャは私たち陰の者と感性が違うのかしら。


「私だったらさ、私に嫌がらせしてきた人が襲われてたら、ザマァ見ろって思っちゃうかな。助けようなんて思いもしないよ」

「あー成る程。そう考える奴もいるのか」


嫌がらせとか自業自得と思ってたし、その程度で他人を恨むとかは考えたこともなかったな。


「嫌いな相手を助けるなんてさ、普通はありえないよ。だから、白峰くん優しいなって」

「別に嫌ってはないけどな」

「……へ?」


あの程度の嫌がらせくらいで人を嫌いになるなら、俺は数人呪い殺さなきゃいけない相手が出来るだろう。今更そんなんじゃ何も思わないな。


「え?だって、あんなに酷い事言ってたのに……」

「別に直接殴る蹴るされた訳でも、物の被害があった訳でもないし、そんなんじゃ、俺の鋼鉄のメンタルは砕けねえよ」

「そ、そうなんだ?」


もともと嫌われてる相手からの悪口なんか、お日様が西から登って東へ沈むくらい当然の事だし、特に気にした事もない。いやまぁ、心に刺さらないって事はないけどね?


「でも……やっぱりちゃんとしなきゃ……ダメだよね……」


荒川は突然立ち止まる。何か呟いているようだが、小さくてよく聞こえない。まあ聞かれたくないことかもしれんし、スルー安定。


しようとしたが、いつまで経っても荒川が動き出さないので、心配で振り向いた。


「どうした?大丈夫か?」

「ごめんなさい!」


俺が振り返ると、荒川は頭を下げ謝ってきた。いやほんと急にどうしたんだ?


「どうした急に。何度も言うけど、俺は何も気にしてないし、謝られる事もねーぞ」

「ううん。こういうのは、ちゃんとしなきゃいけないと思うし……。これからの事も考えると……。せめて謝るだけでもって……」


これからの事?今日が終わればもう関わる事なんてなさそうだが。


「許して欲しいとかじゃなくて……なんていうのかな……謝らなきゃって思って……。私たち、酷いことしちゃってたし……」

「いやまあ許すも何も、怒っても恨んでもないからなぁ……」

「それでも……!」

「嫌われる原因は全部俺にあるし、嫌がらせとか避けようともしてないし、全部俺の自業自得だろ。恨む理由なんか一つもない」

「そんな事ない!原因はともかく、悪いのは嫌がらせしてた私たちだし!」

「なんで怒ってんだよ。俺なんか気に触ること言ったか?」

「あ……ご…めん……」

「いや別に謝らせるつもりは無かったんだが…」


うーん。コミュ力がゴミカスになってる。しばらくまともに人と話してなかった弊害が出てるな。


「あのさ……白峰くんは何で……」

「ところで結構長く歩いてるが、まだ着かないのか?」


俺は荒川の言葉を遮るように聞く。空気悪くなっちゃったし、これ以上会話は続けられん。強制的に話題を変えさせていただく。


「……もうすぐ着く……」

「そうか。じゃあ俺はこの辺で」

「え……。なんで……?お礼とか何もしてないのに……」

「気にすんな。感謝されたくてやった訳じゃないし、何より早く帰りたい」

「そっか……。じゃあまたね……」

「お、おう。また」


また…か…。まあリップサービスだろう。もう金輪際関わらないだろうしな。

荒川が角を曲がり完全に姿が見えなくなるまで見守り、ようやく俺の役目が終わったことに安堵する。はー疲れた。


さて、帰るか。

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