第六話
放課後、健から部活が終わったとチャットをもらい、今は校門前で奴を待っている。
一年生は俺の姿を見るなり多くが、俺から距離を置く。嫌われてんなぁ……。
しばらくして、自転車を押す一人の男が近づいてきた。
「よ。待ったか」
「おせーよ。他の生徒に避けられて心にいらん傷負っちまったじゃねーか。お詫びにラーメン奢れ」
「まあまあ、そんな怒んなって。悪かったよ。あとラーメンは奢んねーからな」
ちっ。傷心を装ってラーメン奢らせよう計画は失敗か。
「で、夜飯はどうすんだ?」
「スーパーで焼きそばでも買って作ろうぜ」
「え?俺とお前で作るのか?またダークマターが出来上がるぞ」
「大丈夫だって、失敗したら俺が責任とって全部食うし」
「お前は良くても、俺やお前の妹達がなぁ……。多少高くても牛丼とか買ってかね?」
「やっぱりそっちの方がいいか〜」
健と話しながら歩いていると、人気の少なくなった道で妙な物……というより行為?を発見した。
「ありゃなんだ?」
「3人の男と一人の女がじゃれてる……様には見えねえな」
「ちょっと行ってみようぜ」
「あ、おい待てよ」
健の後を追うように、件の場所へ近づく。建物の陰に隠れて様子を伺うと、うっすらと声が聞こえてきた。
『すいません。帰りたいんです。退いて下さい』
『そう冷たい事言うなって。俺達と遊ぼうぜ』
『いや…やめて…離して下さい…!』
『そんな嫌がる事ねえだろ。ただのスキンシップじゃねえか』
『これ以上は……警察呼びますよ!』
『じゃあ呼ばれる前にやるしかねえな。おい、そっち抑えろ!』
『!!やめて!!離して!!
何やら胸糞悪い話が聞こえてくるな。
男3人は他校の生徒か。女子は……うちの制服を着ているな。というか、うちのクラスの奴じゃねえか。確か名前は……荒川 ほのかだっけか。成瀬と一緒にいるのをよく見る。いっつも俺の陰口を言ってるグループの奴の一人だ。正直いい思い出はないが……。
「どう思う?健」
「どう思うも何も、腹が立たねえわきゃねえだろ!早く助けにいくぞ!」
「あ、おい!待て!」
俺の制止の声も聞かず、健は飛び出して行った。あの馬鹿……頭に血が上り過ぎだ……。まあ俺も、知ってる奴が襲われてるのを見て無視はできねえしな……。
しゃあねえ、付き合ってやるよ。
「離して!!誰か!!助けて!!」
「大声出しても無駄だぜ。ここは人通りが少ない上、この時間帯は滅多に人が来ねえからな」
「諦めて俺達と楽しい事しようぜ」
「そうだな。その楽しい事とやらに俺も混ぜてくれよ」
「!!!?なんだお前く゛ふあ゛!!」
健が振り向いた男の一人の腹に蹴りを入れる。男は蹲り、苦しそうに地面を転げ回る。うわぁ……えぐいな……。
「テメエ!いきなり何しやがる!」
「同じ学校の奴を助けようとしてるだけだが?」
「あぁん!?あんま調子こいてっとやっちまうzっ!!?」
俺は男の一人にタックルをかます。健に気を取られていたのか、俺の存在に気が付かなかったようだ。
俺が一人を吹っ飛ばしていると、その時健はもう一人の方に掴みかかっていた。手が早い事で。
健が相手してるし、今の内だな。
俺は荒川に近づき、声を掛ける。
「助けに来た。もう大丈夫だ」
「し、白峰くん?な、なんで……」
「逃げるぞ。走れるか?」
俺の問いに荒川は小さく首を縦に振る。大丈夫そうだな。
俺が手を差し出すと、荒川は俺の手を掴む。荒川を引っ張り上げて立ち上がらせ、そのまま走り出す。
『あ、おい待ちやがれ!』
『おっと、お前の相手は俺だぜ』
後ろから声が聞こえるが、構わず走る。健のことだ。頃合い見計らって逃げるだろう。
俺は荒川の手を引き、ただひたすらに走り続けた。
「ふぅ……ここまで来れば一安心か」
俺たちは、さっきの場所からある程度離れた、公園に逃げ込んだ。あかりもあるし、人目につきやすい場所だ。もし見つかっても、恐らく奴らは手出しできないだろう。
「はぁ……はぁ……大丈夫……かな……」
「まあ大丈夫だろ。いざとなったらお前が逃げる時間くらいは稼ぐし」
腕にはまるで自信はないが、それぐらいやれなきゃ男が廃るってもんだ。
「えっと……それもそうなんだけど、灰田くんが……」
「あー、あいつは大丈夫だ。あいつは馬鹿だけど無鉄砲な奴じゃない。あいつなりに考えがあったはずだ」
馬鹿だから入念な計画とかは立てられないし、頭に血が上ったら人の声が耳に入らないが、自分なりの考えを持っている。多分大丈夫だろう。
「そうなんだ……。その……さっきは……あ、あり……」
「ん?悪い、電話だ。ちょっと待っててくれ」
荒川が何か言おうとしていたが、丁度電話がかかってきてしまった。間が悪いな。お、健からか。無事で良かった。
「もしもし」
『おー、晃か。その様子じゃちゃんと逃げられたみたいだな』
「お前も大丈夫そうで安心したよ。怪我とかしてねえか?」
『怪我はしてねえが、疲れたから先に帰るわ』
「そりゃよかった。お前になんかあったら俺抹殺されそうだしな」
『そしたら俺も一緒に死んでやるよ』
「男のヤンデレは需要ねえっての。気持ち悪い事言ってんじゃねーよ」
『それより、今日どうする?』
「あー、今日はやめとこう。そんな気分じゃ無くなったし」
『そうか。まあしゃーねーな』
「悪いな」
『気にすんな。俺も同じ気分だったし。それより、荒川をちゃんと家まで送ってやれよ』
「分かってるよ。じゃあまた学校でな」
『おう、じゃあな!』
「えっと……。どうだった?」
「健のやつ、怪我はないみたいだけど疲れたから帰るってよ」
「そっか……大丈夫そうで安心した。でも……約束してたんでしょ……?邪魔しちゃってごめん……」
「気にすんな。お前は何も悪くないんだし」
荒川の無事に比べたら、俺達のくだらねえ遊びなんか塵も同然だ。
そんな事より健のせいで更なる心配事が出来てしまった。いやね、別に健が悪い訳じゃねえんだ。めんどくさい役回りを自ら進んでやって、ちゃんと遂行してくれて。俺があいつを責める事はできないんだ。でもね……物事には相応しい役回りというものがあるのよ。俺が女子を家まで送り届けるなんてのは、明らかに器量オーバーな訳でしてね。かといって俺が健の代わりに男共を相手にするのも、それはそれで無理がある気はするけどね。なんて頼りにならねえんだ俺は。
「その……助けてくれてありがと。私はもう大丈夫だから、白峰くんも気をつけて帰ってね。本当に、ありがとう……」
俺があれこれ考えていると、荒川は服を直し一人で帰ろうとする。いや流石にさっきの今で一人で帰るのはマズイだろ。
「あ、おい、待ってくれ」
「は、はいっ!」
帰ろうとする荒川の背中に声を掛けると、ビクッと背筋を伸ばし振り返る。いやまあそういう反応になっちゃう気持ちは分かるけどね?
「家まで送るよ。夜道を一人歩くのは危ないだろ」
「え?そ、そんな、大丈夫だよ。これ以上迷惑かけられないし……」
「迷惑じゃねえよ。お前は女なんだ。少しくらい男を頼ったってバチは当たらねーよ」
「いや……でも……」
「俺なんかと帰るのは嫌かもしれないけど、健も心配してるんだ。頼むよ」
「そう……なんだ……。じゃあ…………お願いします……」
説得することができた。一先ずは安心だな。……あれ?冷静に考えたら、女子と二人きりで帰るって事だよな?やっべぇ……。その事全然考えてなかった……。どうしよう……絶対気まずくなる……。