第三話
『おっしゃー。授業終わったー!購買へ走れー!』
『走るな稔。危ないだろ』
『わーってるって!早く行くぞ拓海!』
騒がしいな……。まあいつもの光景だ。
昼休み、昼食の時間だ。古来より、同じ食卓を囲むものは、将来強い縁で結ばれる、という言い伝えがある。いやまあ今適当に考えたんだけど。
まあつまり、あの二人に二人きりで昼食を食べさせる、そうすれば、きっと二人の距離も縮まるはずだ、ということだ。つまり、昼休みは重要な時間、ということだ。
まあ、既に手は打ってあるんだがな。
『仁美〜。一緒にご飯食べよ〜』
『ごめん!昼バスケの練習するから、一緒に食べられない!』
『そっか〜。頑張って〜』
『うん!頑張る!』
バスケの練習。一見、特別な行動には思えないだろう。だがしかし、とある要素を加える事で特別なものへと昇華する。
昼はほぼ必ず、勝樹が一人でバスケの自主練をしている。
つまり、ここで仁美が体育館へいけば、勝樹と仁美の二人きりの空間が作れるという事だ。まさに、完璧な作戦!
まあそっからの作戦はないんだが、それくらいは一人でやってくれないとな。
さて、俺はいつも通り自分の席でお食事しましょうかね。当然一人で。
「ねぇ」
弁当を鞄から取り出したところで、上から声が降ってきた。昼休み、俺に話しかけてくるやつなんていつ以来かしら。
顔を上げると、金髪美女だった。なんで成瀬さんは私にやたら敵意を向けてくるんですかね……。お腹痛くなってきた……。
ここは一発軽いジョークで牽制を。
「俺はお前の姉ちゃんじゃねーよ」
「は?何それ。つまんな」
割と渾身のギャグだったんだが、物の見事にバッサリと切り捨てられてしまった。スベった芸人ってこんな気持ちなんだな…
「で、何の用だ」
気を取り直して、要件を聞く。こういうのは切り替えが大事だって、閉店ガラガラの兄ちゃんも言ってた。あの人もう兄ちゃんって歳じゃねえな。
「来て」
「はぁ?」
「来てって言ってんの。日本語分かる?」
「……アイキャントアンダスタン……」
「……殴られたい?」
「分かりました。ご同行致します」
こっわ。背後に阿修羅像みたいなの見えたぞ。本気で殺されるかと思ったわ。
成瀬の後についていく事数分、部室棟の使われていない教室へと連れてこられた。
人気のないところ、誰にも見られたくない話という事なのか?それはつまり、期待していいという事ですか?そうですよね?
「あんたさあ、昨日からから仁美となんかやってるみたいだけどさ、余計なことしないでくれない」
バレてたか。まあ朝の俺達の様子を近くで見てたし、そりゃあ分かるよね。
いやでも俺達の事なんかこいつには関係なくないか?
「余計な事ってなんだよ、お前には関係ないだろ」
「関係あるから言ってんの。そんな事も分からないの?」
「……アイキャントアンダスタン……」
「それはもういいから」
流石に二度目はくどいか。でも関係があるってどういう事だ?
「いやほんと分からん。そもそも俺や仁美のやる事になんでお前が関わってくんだよ」
「こっちにはこっちの都合があんの。だから関係あんの」
お前の都合なんて知らねーよ。なんで俺がお前の都合まで考慮しなきゃなんねーんだよ。
いや待てよ。こいつは俺の事が嫌いだ。なのにわざわざ俺に対して嫌なのにアプローチをかけてきた。その意味を考えろ……。
俺の行動が余計な事……俺達に関係がある……こいつの都合……。あーそういう事か。
「なるほどな。お前、勝樹の事が好きなのか」
「な…!はぁ!?」
「そうか。悪い、お前からしてみれば確かに余計な事してるな」
「ちょっ……勝手に話を進めないで……」
「でも俺だって頼まれてやってるし、仁美を裏切る訳にはいかねえんだ」
「…………」
「お前の気持ちも分かるけど、ここだけは譲れない。その……なんだ……ごめんな」
「……っけんな……」
「え?なんだって?」
「ふっざっけんな!!!」
「え?どうし……げふっ!」
急にリアクションしたかと思えば、俺の腹に強烈な拳をねじ込んできた。呼吸が止まったわ。
「ほんっとサイテー!デリカシーとかないの!?ほんとありえない!ムカつく!死ねば!」
腹の痛みでうずくまってるので、顔を伺うことは出来ないが、この様子だと相当怒ってんな。
確かにデリカシーはなかったかもしれない。しかし、俺にだって言い分はある。言われっぱなしでたまるか。
言い返そうと顔をあげると、あるものが目に入った。
「えーっと、成瀬。言いにくいんだが」
「なに?早く言ったら?」
本人からの許可もいただいたし、言っても大丈夫だよね!
「お前さ、そこに立ってもの言うのはいいんだけど」
「なによ、なんか問題ある?」
「……見えてるぞ……」
「!!!!」
みるみるうちに真っ赤になっていく成瀬。そして、足を振りかぶった。
わりぃ、俺死んだ!(ニカッ)
「死ね!!変態!!!」
「ぐふぅっ!!!」
再び鳩尾に衝撃が走る。
「信じらんない!変態!クズ!ゴミ!もう死ね!さっさと死ね!今すぐ死ね!」
物凄い勢いで俺を罵倒する成瀬。これはこの程度で済んで良かったと考えるべきか?
「金輪際あたしに顔を見せないで!」
そう言い残して成瀬は立ち去って行った。このあと教室で顔を合わせるんですが……。
薄れゆく意識の中、俺はさっきの光景を思い出す。
……白……だったな…超意外…だ………