第十七話
「つーかあんた本当に水だけでいいの？」
二人の食事風景をぼんやりと眺めていたら、成瀬が怪訝な顔を浮かべて言った。
「言っただろ。腹減ってねえって」
「ふーん。でも少しくらいお腹に入れといた方がいいんじゃない？ほら」
成瀬がポテトをこっちに差し出してくる。これ、所謂あーんとかいうやつでは？んなわけねえわな。
「何ぼーっとしてんの？食べなよ」
「じゃあ折角だし貰うわ」
皿のポテトに手を伸ばしいただく、少し冷めているがしっかり塩気があり美味い。
「あんたって……まあいいや……」
成瀬は不服そうな顔をしながらポテトを頬張っていた。え？食っていいんじゃなかったん？
「何してんの？食べなって」
成瀬の顔色を伺っていると、何故か優しく急かされた。いやどっちだよ
「いいのか？」
「そんな一本や二本じゃ足しになんないでしょ。魚の方も食べていいから」
「お前本当に成瀬か？」
「は？それどういう事？」
「そのまんまの意味だけど」
「あんたあたしを何だと思ってんの？」
「嫌いな奴には当たりが強くて、頑固で、強引で、思い通りにならないと直ぐ機嫌が悪くなる」
「あ……いやその通りかもしんないけど……」
みるみる語気が弱まっていく。適当言ったんだけど本人に思い当たる節があるみたいだ。……つーか言い過ぎたかな。
なんて思っていたら、鈴井が俯いて肩を震わせていた。あの、お二人はお友達じゃないんです？
「ちょっと麗華、何笑ってんの？」
「ごめんなさい……。あまりにも……分析が……ふふっ……正確だったから……」
あの……お二人は本当にお友達なんです？
「はあ！？麗華あたしの事そんな風に思ってたの！？」
「ふぅ……っん……。そうね。でもそれはあなたの友達想いの面から来るものなのだから、寧ろあなたの長所だと思うわ」
「麗華……！」
「頑固な面は直した方がいいとは思うけれど」
「麗華……」
最後にチクリと棘を刺す辺りやっぱこいつはドSだな。……本当に仲良いのか？
「で、この後どこ行く？」
「は？」
成瀬の突拍子もない言葉に思わず反射で言葉を返してしまった。この後って何？処刑じゃないの？いや別に処刑されたい訳じゃないけど。
「私は帰るわ。二人と顔を合わせるのは気まずいから」
「え？合流するつもりなんてないけど」
「「は？」」
俺と鈴井はハモる様に聞き返した。つーか今日驚いてばっかだな。
「あー、そういえば言ってなかったね。黒井くんとの交渉の内容」
「そういや聞いてなかったな」
勝樹が俺の話を無視してまで成瀬の動向を許したんだ。それ相応の理由があるのは間違いないだろう。だがそれがこの後二人と合流しないこととどう関係があるのだろうか。
「あたしが黒井くんに出した条件なんだけどさ、どっかのタイミングであんたを連れて二人から離れて、で、二人っきりにしてあげるって言った」
「はぁ……あ？何で？」
「何でって……あんたと話をつけるためでしょ」
「そうだな……いやそうじゃなくてだな」
一瞬納得しかけたが、その一言だけでは片付けられない疑問点が浮かんでくる。
「勝樹のことはいいのかよ。好きなんだろ？」
鈴井からも頑固って言われる成瀬がそう簡単に諦めるとは思えない。絶対何かしら裏があるはずだ。
「んー、まあ、しょうがないでしょ」
「しょうがないって……。随分と軽いんだな」
「大切な友達と比べたらどんな物でも軽いでしょ」
「…………そうだな……」
え？何このイケメン。かっこ良過ぎか？自分の小ささを自覚させられて、マジぴえん超えてぱおんなんですけど。俺が女だったら間違いなく速攻惚れて告白した挙句ビンタされて絶縁言い渡されて、ちょうなえぽよぴえんマウンテン築き上げるところだったわ。自分でも何言ってるか分からなくなってきた。
「分かってくれた？」
「ああ。大体な」
「そっか。じゃあどこ行く？」
「そうはなんねーだろ」
なんでまだ遊ぶ気満々なんだよ。俺と一緒は嫌じゃないのか？
「何？逃げるの？」
「逃げるつもりはねーけどさ……」
「じゃあいいじゃん。麗華は行きたいとこある？」
「私はまだ行くとは言っていないのだけど……」
「ダメ、あんたも来るの」
「拒否権はないのね……」
「うん。じゃあ早く食べて。あたしクラゲ見たいんだよね」
どうやら三人で回るのは確定事項らしい。やっぱ女の考えることはわかんねえな。鈴井の方を見ると丁度目が合った。そして諦めろと言わんばかりに首を横に振った。この地獄みたいな状況がまだ続くのかと思うと、晃さん気が遠くなりそうだよ……。
