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幼馴染に好かれる、なんてのは幻想です  作者: 桐崎蓮兎
仲のいい幼馴染が俺のことを好き、なんてことはなかった
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第十二話

楽しみな日が目前に迫れば迫るほど、時間の経過が遅く感じるという。例えば修学旅行が間近になってきたとしよう。多くの人は、今か今かと待ち侘びるばかりに、時計やカレンダーを度々見ては、進まない数字に辟易していたのではないだろうか。

では逆に、憂鬱な日が近づいてきたらどうだろうか。例えば夏休みの終わり、例えば定期試験、例えば仕事の締め切り、これらが近づくと時間の経過が早く感じてしまうのではないだろうか。

まあ要するに、俺にもその憂鬱な日が出来てしまい、どうしようどうしようと考えていると、刹那的に時が経ちその日が来てしまったと。何なら今すぐにでも逃げ帰ってお布団に潜り込みたいくらいなんだけど……。


「晃!聞いてる!?」

「あ、悪い。考え事してたわ」

「むー、ちゃんと話聞いてよ」

「悪かったって。なんだ?」

「九号車に乗ってるって。ボックス席」

「了解」


勝樹から連絡来たってことは、既に前駅は発ったという事。地獄への列車は間もなく到着してしまう。やっべ、変な汗かいてきた。動悸も荒れてる。素数を数えて落ち着こう。1、3、7、9、13……。


『まもなく、3番線に、電車が参ります』


早えよ。まだ二桁に入ったばっかなんだけど。心の準備終わってねえって。


「来るよ!楽しみだね!」

「そうだな……」

「元気ないね。まだ眠いの?」

「楽しみで眠れなくてな……」

「晃も!?私も私も!」


嘘である。あれこれ考えているうちにいつの間にか入眠していて、物凄く調子がいいのである。何で今日に限って熟睡しちゃうかな。いつもは寝つき滅茶苦茶悪いのに。


間もなく、列車が到着しドアが開く。乗り込んで見回すと、一際目立つブロンドの髪を見つけた。対角線上に座る大男が霞む程に。180半ばある男より目立つってなんだよ。あー会いたくねえ。

まあ見つけてしまったものは仕方ない。その目立つ二人へ足を運ぶ。


「おはよう!勝樹!恵ちゃん!」

「おはよ。仁美は今日も元気だね」

「二人ともおはよう。晃、お前窓際でいいか?」

「ん?ああ別にどこでも」


一体二人でどんな会話をしていたか、そもそも会話をしていたのかどうか気になるところだが、教えてはくれないだろう。

勝樹に譲ってもらい、ボックス席の窓際に座る。形としては、俺と成瀬が窓際、勝樹と仁美が通路側にそれぞれ向かい合う形で座る。今気付いたけど、成瀬が正面だからめっちゃ目のやり場に困る。何でショーパンで来るんだよ。絶妙に細いとも言えない健康的な太ももが俺の癖に刺さる。卑しか女ばいけしからん。


「ねぇ」

「な、何だ?」


やっべ、足見てるのバレたか?と思ったが成瀬は興味無さそうに窓の景色を眺めていた。バレてないっぽい?


「まだ挨拶してもらってないんだけど」

「え?」

「失礼だと思わないの?」

「はぁ」

「はぁ、じゃなくて。分かるでしょ?」

「おはよう……?」

「ん、おはよ」


えーっと、つまり普通に俺と朝の挨拶をしたかっただけだということ?何で?意味が分からない。可愛いかよ。

ここ数日の成瀬の動向はどこかおかしい。以前は俺を心底嫌っているような言動が目立ったいたが、提案を受けた日から今日までの間、ほんの少しだが話しかけてくる事があった。理由は不明。

いや、おかしいのは成瀬だけじゃない。勝樹もだ。俺は勝樹に成瀬からの提案を絶対に断るよう念入りに釘を刺した筈だ。にも関わらず、勝樹は成瀬の提案を受け入れた。当然問い詰めたが、『話したところ悪い奴じゃない』とか、『他に人見つけられないだろ』とか、適当な理由つけて無理矢理通そうとしている感が物凄かった。そういった態度なので、否が応でも変な妄想をしてしまう。勝樹に限ってそれは無いと思うが、一応警戒だけはしておいた方がいい。場合によっては強引に仁美を連れて逃げる事も辞さない。


「何難しい顔してんの?折角遊びに行くんだし笑ったら?」


元凶は誰だと思ってんだぶっ〇すぞ☆



電車を降りバスに乗り換え揺られること十五分、オーシャンパークに到着。途中勝樹がややバス酔いを起こしていたが、まあ何とか耐えていた。帰り大丈夫かしら。

現時刻は八時五十五分、開館までは五分といったところ。


「はいこれ!晃のチケット!」

「サンキュ」


仁美は皆にチケットを配って回る。本当に二回当てたのか。改めてドン引きだわ。






あ?






「どしたん?」

「今誰かに見られてた気がしたんだが……気のせいか」

「あんたの事なんて誰も見ないでしょ」

「俺達のつもりで言ったんだけどな」

「その括りにあんた入ってるの?」

「入ってるだろ。《俺》のとこに」


ここでも外れ者とかそんなんなったら膝抱えて泣くまである。そもそも俺の人生が外れてるとか言われたらその通りなので何とも言えないけど。


一応辺りを見回してみるが、怪しい人物は居ない。近くの喫茶店にも窓際の席に人は居ない。勘を外した事は無かったんだけどな。


「あーきら!行くよー!」

「悪い!今行く!」


どうやら開館の時刻になったようだ。少し気がかりだが、館内までは追って来ないだろうし。帰りに警戒すればいいだろう。ともかく今は、成瀬の動向に集中しなくては。

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