勇者は英雄でも善人でもない
「なぁ、勇者よ。お前は何故生きている?毒を盛られたのだろう?」
「うん?毒って気付いてるのに食べると思う?」
「道理だな。人間に裏切られて何を思う?」
「なにも?」
「怒り、失望、呆れ。全くなかったと?」
「うん、だって僕は彼等から見たら魔王と変わらない怪物に写るんじゃない?そう、王様も言ってたし。本当に僕が怖くて仕方なかったんだと思う。人間は弱いから怪物を排除したかったんだよ」
「人間のために魔王を倒した英雄を怪物として排斥しようとする。そんな人間を醜いと思わず、弱者と哀れむか。その傲慢、怪物と謗られてもおかしくないな」
「でしょ?」
「皮肉が通じんな。それで自ら果てにまで逃げてきたか。いや、逃げてきたとは違うな。お前にとって人間を滅ぼすなぞ造作もないだろう。魔王より魔王らしい」
「そんなことしないよ。腐っても僕は勇者だよ?僕がいたら皆怖がるからここで大人しく隠居生活を送るつもり」
「その勇者は魔王を殺さず、見逃したではないか」
「だって君が言ったんじゃないか。死にたくないって」
「……お前は命乞いをすれば親を殺した者も見逃すのか?」
「うん、見逃したよ」
「怪物め。魔王がいうのもなんだがお前は紛れもない怪物だよ。もう少し人間らしければ人間がお前を始末しようなんて考えなかったんじゃないか?」
「そんなこと言われたって僕はこうなんだから仕方ないよ」
「さて、勇者を手ずから追い出した人間を我はもう一度、支配に乗り出そうと思うが、お前はどうする?」
「なにも?ここで余生を過ごすって言ったじゃないか」
「勇者なら魔王を止めるのが使命であろう」
「その使命は全うしたさ。そして、人類は僕を不要と断じた。甦った魔王を止めるのは残った人間でやればいい。僕の仲間もいる」
「お前の仲間の半数は人間を見限ったようだがな。残ったのは愚もつかない魔法使いと人間を見捨てることが出来ない聖女のみ。恐れるに足らず」
「ふーん」
「……。勇者よ、ここから見ておれ。我が人間を支配し、管理し、正しい方向へ導くのを。貴様を裏切ったことを後悔しながら絶望の讃歌を歌わせよう」
「そう、頑張ってね」
「その暁には、勇者よ」
「なに?」
「我の、き、后になってくれぬか?」
「いいけど、僕達女の子同士だよ?」
「今さら性別を気にするような質ではあるまい!」
「うーん、じゃ気長に待つよ未来の旦那様。いや、お嫁様?」
魔王を打倒し、人間に裏切られた勇者
どこかネジが外れてしまった彼女に倒され、見逃された魔王は勇者を我が物にせんと人類への侵略を再開した
勇者を巡って聖女や他の仲間と一悶着あったりなかったりするがまた別のお話
勇者がいなくても世界は回る
物語は回る
勇者はお気楽にスローライフを始める
自身が見逃した魔王によってどれだけの血が流れようと責任を負うつもりはない
魔王が消えたところで今度は人間同士で殺しあうことになるのは目に見えている
なにもかも自業自得だものね?
気まぐれで書いた雑な短編です
勇者は強いけど、そこに理念はなく、善悪もない
弱肉強食が根幹にあります
殺される奴が悪いと思ってます
やばい奴ですね