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「先生!ドアが開く音がしたから、速攻出てきました!あぁ~、やっぱり隣に越してきて良かった♪ 普段の先生の姿を頻繁に見られるなんて、眼福です!今日もカッコイイ~!」
目を血走らせた鼻息の荒い美少女が、きゃーきゃーと大騒ぎする。
「この部屋を借りてた人を買収して、部屋を譲ってもらって良かったぁ~!」
目をキラキラ輝かせて諒ちゃんを見つめている。
それって、ストーカーって言うのでは?
「権俵さん、俺、急ぎの用事があるから。じゃーね。おやすみ」
諒ちゃんは素早く私を部屋に入れると、施錠した。
「え~~~っ!その人、誰ですか~~っ!?もしかして彼女~?!いや~~っ!!」
ドアの外では彼女が騒いでいたが、諒ちゃんは気にすることもなく靴を脱いでいる。
「いつものことだから、気にしないで」
優しく笑う、諒ちゃん。
「もしかして、ストーカー?」
我慢できずに聞いてしまう。
「…俺、今、小説書いててさ。雑誌に写真が載ったことがあって、それからファンの人に追いかけられることがあるんだけど…。
前の部屋も、その前の部屋も、引っ越す度に権俵さんは、俺の隣の部屋の人を買収して引っ越してきて、いくら引っ越しても同じだなって根負けしてる感じで…」
「警察には言ってないの?」
「一応、若い女の子だし、ストーカー被害届出すのも可哀そうかなって…」
「襲われたりしない…?」
「今のところは…」
心配だなぁ。
諒ちゃんて、そんなに熱烈なファンがつくほど有名な作家なんだ。
「陽菜姉、上がって」
諒ちゃんに招かれ後をついていくと、お洒落な2LDKのリビングに通してくれた。
広いリビング。座り心地の良さそうな大きなソファ。ここに座って大型テレビ見てるんだ。
私の狭苦しいアパートとは大違いだ。ソファとか無いしなぁ。
「素敵な部屋だね。諒ちゃん、売れっ子作家なんだ」
私、小説を読まないから、全然分からなくてごめんね。
本棚には諒ちゃんの著書らしき小説本がずらりと並んでいた。シリーズ化してるものがいくつもある。賞状や盾も。
すごいなぁ。
リビングを出たところに2部屋あった。
「この部屋、資料や書類置き場になってるんだけど、明日にでも片づけるから、ここを使ってくれる? 後で客布団、持ってくるし」
書類や荷物は置いてあるけど、結構広いし片付いていて、居候にはもったいないくらいの部屋だ。
「片付いてるし、このままで充分!ありがとうね。助かります」
優しい瞳で私を見つめる諒ちゃんと、視線が絡まる。
「陽菜姉は、昔と変わらないね。久し振りに会えて、嬉しいよ」
「私も、すごく嬉しい。何年振りだろ…」