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きみに心奪われたまま  作者: 松石愛弓
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side 諒



幸せそうに眠る陽菜の寝顔を見ながら、昔の出来事を思い出していた。


中学の頃、交通事故に遭い生死を彷徨っていたとき、俺の病室にスーツ姿の美しい紳士が現れた。

なぜか、その男性は俺にしか見えないらしく、両親も医師や看護師も彼の存在に気付いていなかった。


30歳くらいに見えるその美しい男は枕元に立つと、

『どうしても生きたいなら、助けてやる。おまえは先日、私のコウモリを助けてくれたからな…』と言って微笑った。


そういえば…数日前、道端で怪我をして動けないでいるコウモリを連れ帰り、治療した後、放してあげたことがあったな…。


でも、この人、なんだか人間離れしたオーラを感じるというか、妙な迫力があるというか…。


「おじさん、人間?」

聞かずにはいられなかった。


『いや…。私は吸血鬼だ。おまえは人間として生存する確率は低い。医師もさじを投げかけている。しかし、吸血鬼になるなら、生き延びることができる。…どうする?』

吸血鬼のおじさんは大きな瞳で俺をじっと見つめて、そう言った。


人間としては生きれない…もし死んだら…陽菜に会えなくなる。ずっと、好きだったのに。まだ、想いを伝えてもいないのに…。


「まだ…死にたくないよ…おじさん…」


陽菜に、また会いたいんだ。


『吸血鬼になっても、後悔しないか?』


「うん…」


俺は、その日、吸血鬼になった。


吸血鬼のおじさんは、俺の負傷した体を治してくれて、夜中にこっそりと病院を抜け出し、俺の家へ運んでくれた。


怪我も完治して、命も助かり、吸血鬼のおじさんにはとても感謝した。

でも、子供だった俺には、吸血鬼として生きる苦労なんて全く想像できていなかった。


太陽の光を浴びれなくなったので、学校にも行けない。

夜に活動し、昼は真っ暗な部屋で眠る生活は、なかなか慣れなかった。

数日おきに血を飲まなければ、体力が失われてゆく。


吸血鬼のおじさんは、俺に血をくれる若い女性を何人か紹介してくれた。

人によって血の味も違うから、好きな味とそうでない味があった。

生きるために血を飲まないといけないこと、血を美味しいと思ってしまう自分に嫌悪を覚えた。


おまけに、血を吸う時に相手の痛みをやわらげるためかどうか分からないが、媚薬成分のような液体が牙から出てしまうらしく、女性を発情させてしまい、俺はよく吸血中に女性に襲われた。

でも、血をもらっているから断ることもできず、身を任せるしかなかった。


吸血鬼になった俺は、太陽の下を歩けないこと、学校に行かないから友達にも合わせる顔がなくなったこと、血を飲まなくてはいけないことが、大きなストレスになっていたし、この気持ちを理解してくれる人もいなくて、いつも孤独で寂しかった。

血をくれる美女たちと抱き合う行為は、いつしかそんな寂しさを紛らわせてくれた。でも、その行為が幸せだとは思えなかった…。



陽菜を抱いた時、俺は吸血鬼なんだと、どうしても言えなくて、何度も陽菜の白い首すじを噛んだ。

陽菜の血は吸わなかったけれど、噛みついた時に、牙から媚薬が入ったみたいだったな…。

初めての快感に、戸惑う陽菜が可愛かった…。


陽菜を抱いている時、陽菜のために、人間になりたいって思った。

他の女性に、血をもらったりしたくない。

一緒に太陽の下を歩きたいって、思ったよ…。



俺を助けてくれた吸血鬼に、もう一度会おう…。


俺は陽菜の頬にキスしてから、自分の部屋に戻り、彼に電話した。


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